『Load』(96年)

前作『Metallica』でのセールス的な成功でメタルシーンの頂点に君臨したメタリカ。次なる一手への期待値が跳ね上がったなか発表されたのが『Load』 だ。
スラッシュメタル系譜のファストチューンはない。複雑なリフ構成や曲展開もない。シンプルでソリッド。そして、メンバー全員が髪を切った。むさくるしい長髪からグリースが似合う短髪へ。強い日差しが降り注ぐ中、砂漠に走る一本道を爽快に走るピックアップトラックでかける音楽にぴったりな“Ain’t My Bitch”や“2 X 4”など極太なヘヴィロックを屋台骨に、グルーヴを重視し、オルタナやブルース・カントリー的な要素を結び付けたことが特徴的だ。
前作で打ち出した方向性で更にヘヴィネスを強くした方向にシフトし、メタリカがスラッシュメタルに決別を宣言したアルバムと言える。それはドラムのラーズ・ウルリッヒが早いリズムを叩けなくなったというまことしやかな噂がささやかれるほどで、メタリカのパブリックイメージが180度変わった作品だった。当然、オールドファンからは拒絶されてしまったが、日本でも”Until It Sleeps”がトヨタ〈RAV4〉のCMに起用と世界で多くのポピュラリティを獲得した作品でもある。
余談であるが、発売時の国内盤特典は洋楽では珍しく凝ったもので〈メタリカ学習帳〉であった。ジャポニカ学習帳と同じ体裁の凝った特典で、メタリカ年表や”Until It Sleeps”の縦笛楽譜などがついたノートであった。 *Mikiki編集部
『Reload』(97年)

大ヒット作『Metallica』の後、一発目のオリジナル作『Load』の続編ともいうべき本作。グルーヴを重視し、当時流行していたオルタナ勢への接近も見せていた前作のように、ここでもメタルという要素は鳴りを潜めた重厚な作品作りを実行している。
注目はなんといっても、1曲目の“Fuel”だろう。各々のパートが最高到達点で鳴り響き、暴走気味に疾走していくヘヴィなロックチューンに仕上がっている。また、メガデスやパンテラなど数多くのHR/HMバンドを手掛けてきた巨匠、ウェイン・アイシャムがミュージックビデオを監督した。「ワイルド・スピード」シリーズよりも早くカーレースに目をつけ、レースをメンバーの顔のドアップ(いずれもいい顔)と交互に見せていくスピード感満載の映像からは、ど真ん中の〈カッコよさ〉しか感じられない。
ほかにも、60年代から波瀾万丈な人生を送ってきた歌手で女優のマリアンヌ・フェイスフルによる年季の入ったコーラスが入る“The Memory Remains”や、『Metallica』に収められていた“The Unforgiven”の続編で、感情を揺さぶるドラマティックなメロディーが印象的な“The Unforgiven II”などを収録。
メタリカにとっては、チャレンジを続ける難しい時代のアルバムということで曲の出来にもバラつきがあり、発売当時は賛否両論の声もあったが、改めて今の耳で振り返ってみると聴き応えのある良曲が揃っていることに気づかされる。 *Mikiki編集部
『St. Anger』(2003年)

ジェイソン・ニューステッドの脱退、バンド内の不仲、ジェイムズ・ヘットフィールドの入院(アルコール依存症のリハビリのため)など、トラブルや不幸が一気に襲い掛かっていた当時のメタリカ。バンドの解散すらチラつく危機的状況下、彼らが作り上げたのは〈怒り〉が全編にわたって炸裂する異端な作品だった。
本作に感じる〈怒り〉の矛先は、自身の心に潜む悪魔やバンドを追い込んでいった運命や世界。なかでも、ジェイムズの〈怒り〉は強烈で、どの曲においても〈激怒〉としか言い表せない感情でボーカルを披露、〈なぜこんなことになってしまったんだ〉とばかりに、過去に自分が行なった選択に後悔と怒りをぶつけていく。ラスト曲“All Within My Hands”の終盤、呪いにも近い鬼気迫る声で〈Kill〉を連発していくジェイムズの本気度に震えろ。
また、表題曲のミュージックビデオは、本物の刑務所を舞台に実際の囚人たちを前にパフォーマンスを行なうというもので、限りなく近い心情を持つ者同士が楽曲に鼓舞されていく映像は、野次馬的な立場からでは絶対に描き出せない真の迫力に満ち溢れている。
しかし、〈失敗作〉〈黒歴史〉など本作に与えられた数々の批判は、発表から20年という月日が経っても鳴りやむことはない。曲が長い、ギターソロがない、ドラムの音が変といったことが主な要因となっているが、果たして再評価のときはやって来るのか。サウンド的には人を選ぶ作品であることに違いないが、聴く人間の〈怒り〉の捉え方によっては生涯の一枚にもなり得る、本物の〈ヤバさ〉を内包したカルトな名盤と断言しよう。 *Mikiki編集部