ジャズピアニストでありメタラーの西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は年末企画として、西山さんがメタルアルバムの年間ベストを選んでくれました。いずれも必聴作です。そして、2023年も〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉を1年間お読みいただきありがとうございました! 西山さん、今年も執筆をありがとうございました!! 来年もどうぞよろしくお願いいたします。 *Mikiki編集部
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2023年最後の月ということで、今年の私のベストメタルアルバムを5枚挙げます。順位なしのベスト5です。
まずは、人間椅子『色即是空』。これは揺るぎません。
アルバム発売時にも記事を書いたので、詳しくはそちらをご覧頂ければと思いますが、楽曲、演奏、メッセージ、全てにおいて、私の心に一番直撃しました。
特に音色のインパクトが強力で、近年聴いたメタル系アルバムの中でも、とてもズシンとくるロックの歴史を背負った音色だと感じました。
そして、気の重くなるニュースばかりで明るい未来を見ることが難しい大変な時代ですが、ベテランのバンドが決して希望を捨てない生命力を見せてくれた気がして、とても勇気をもらいました。皆叫ばなくなったのに〈この世の中おかしくね!?〉と叫ぶ。大人として、ロックをする人間としての態度がもう格好良すぎる。ですので、これがダントツで1位です。
これを聴いた後に、ウリ・ジョン・ロートが「若い世代は音色について理解不足だ」と話す記事を見たんですよ。全くもって同意ですが、『色即是空』を繰り返し聴いた後だと、より説得力がありますね。
私はもちろん超絶技巧も聴きたいし、現代の感覚の新しい音楽も聴きたいけれど、最初に耳に飛び込んでくるのは音色。音色こそがアイデンティティであり、思想だと思っています。〈一音聴けばそのプレイヤーが誰かわかる〉というのはとても大事なことで、それこそが人間の放つ音楽の素晴らしさであり、生命力だと思います。
メタリカの今年のリリース『72 Seasons』も、一音聴けばメタリカとわかる、流石の横綱相撲のアルバムでした。
1曲目から原点回帰な印象で、正直なところ、最初に2周ぐらい聴いた時はあまり良さがわからなかったんですよね。ヘヴィというより、少し鈍重に感じたんです。わからないから間を置いて何度も聴いていたのですが、面白いもので回数を聴いていると染み込んでくる。
10代、20代だと、音楽を聴いてわからない=そのバンドは好きじゃないと思ったりしていましたが、40代になったら〈一回聴いて、わからなかったら寝かせておく〉を会得しました。メタルでもジャズでも、寝かせておいたり、気長に向き合っていると、何か聴こえてきます。わからなかったら寝かせよう!
『72 Seasons』は、聴いているうちに、高潔で孤高な佇まい、このジャンルのイノベーターとしての矜恃をビシビシと感じるようになりました。
やっぱり音色なんですよね。メタリカの初期作品だと、後先考えないスピード感優先の、触れるもの皆を傷つける、切っ先の尖った音というキャラクターがあったと思うのですが、2023年の今、『72 Seasons』は、王者メタリカはこうあるべきだと宣言するような、揺るぎのない〈this is classic〉な音色だと思いました。歴史を作ってきた自負に満ちています。でも古いわけではない。
どれもリードトラックみたいな曲ばかりですが、お勧めするなら2曲目“Shadows Follow”でしょうか。