Photo by Timothy Saccenti

2023年、メタリカのジェイムズ・ヘットフィールドとラーズ・ウルリッヒは60歳、カーク・ハメットは61歳、ロバート・トゥルヒーヨは59歳を迎える。4人には白髪やその歴史を刻むしわも目立ってきているが、枯れるどころかまだまだ血気盛んな姿を見せてくれている。そんな常に第一線を走り続けるメタリカから、11枚目となるオリジナルアルバム『72 Seasons』が到着した。そこで、Mikiki編集部は、83年作『Kill ’Em All』から2016年作『Hardwired... To Self-Destruct』までのオリジナルアルバム10タイトルと『72 Seasons』のレビューでメタリカの40年間のキャリアを振り返る。 *Mikiki編集部

※『Garage Inc.』(98年)はカバーアルバムのため、枚数換算から除外した


 

HR/HMシーンとメタリカの立ち位置からオリジナルアルバムを振り返る

80年代、HR/HMはNWOBHM(ニュー・ウェーブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)の盛り上がりの影響で、世界中で数多くのバンドが生まれ、ジャンルが細分化していった。またMTVの流行もあり新しいHR/HMバンドたちが数多くのヒットを飛ばし、HR/HMシーンは隆盛を迎える。しかし、その勢いは90年代、オルタナの隆盛によって影をひそめるが、ディケイドの後半からはコーンやリンプ・ビズキット、リンキン・パーク、スリップノットなどラウド/ミクスチャーロックやモダンロック勢が音楽シーンに躍り出て、それらの要素も取り込みながらHR/HMは現在まで続いている。

その中でメタリカは、スラッシュメタル勃興期での名盤を誕生させた後、スラッシュメタルからヘヴィロックへの転換、ネットでの配信やファイル共有に対する訴訟などでファンの歓喜とヘイトを浴びながらも常に時代の一歩先を進んでいた。またメンバー内では、バス事故によるクリフ・バートンの死去、ジェイソン・ニューステッドの加入そして脱退、ジェイムズ・ヘットフィールドのアルコール問題等々、挙げたらきりがないほど、内紛や苦悩を抱えながら前進してきた。

そんなメタリカのキャリアを10枚のオリジナルアルバムで辿ってみる。 *Mikiki編集部


 

『Kill ’Em All』(83年)

METALLICA 『Kill ’Em All』 Megaforce/ユニバーサル(1983)

83年リリースの記念すべきデビューアルバム。スラッシュメタルとしての完成度は2作目、3作目に譲るが、この時点ですでに唯一無二のメタリカサウンドの基盤は確立している。それは本作収録曲が40年の時を経ても未だにライブでプレイされているという事実からも明らかであろう。自身のルーツであるNWOBHMの影響を色濃く投影した作品で、現在の貫禄ある野太いボーカルとは異なるジェイムズ・ヘットフィールドの若々しいシャウトが堪らない。

本作リリース前に解雇され、後にメガデスを結成するデイヴ・ムステインが4曲で作曲に関わっている。彼が敬愛するダイアモンド・ヘッドを彷彿させる、いかにもNWOBHM風の“Hit The Lights”、中毒性の高いリフがザクザクと刻まれる“The Four Horsemen”、文字通り鞭を打つようなスピード感溢れる“Whiplash”など、とにかく速く勢いのある楽曲が並ぶが、クリフ・バートンによるベースインストの真骨頂“(Anesthesia) Pulling Teeth”や、〈ブラック・アルバム〉路線の原点とも言えるヘヴィチューン“Seek & Destroy”など、単なるNWOBHMフォロワーや若手スラッシュバンドの枠には収まりきらない音楽性を発揮している。 *粟野

 

『Ride The Lightning』(84年)

METALLICA 『Ride The Lightning』 Megaforce/ユニバーサル(1984)

このアルバムについて端的に言えば、1曲目”Fight Fire With Fire”につきる。クリーントーンのギターを重ねた叙情的なイントロ、アグレッシブさ、曲の速さ、曲展開、そしてギターリフと、〈スラッシュメタルとは何なのか〉の全てが凝縮された1曲となっているからだ。

他にも、ギターのリフレインから始まり、イントロからスピードが最高潮になる”Trapped Under Ice”、現在においてもライブのセットリストに入ってくる機会が多いメタリカの代表曲で、イントロ~ギターソロ~エンディングと曲中でスピードの緩急をつけた”Creeping Death”など、スラッシュメタルの佳曲が多く収録されている。

また、ファーストアルバムリリース前に解雇となったデイヴ・ムステインのクレジットが今作でも”Ride The Lightning”と”The Call Of Ktulu”で残っている。”The Call Of Ktulu”はインストであるが、ボーカルがない分、デイヴ・ムステインの影響もありメガデスで用いられるような転調の要素が色濃く感じることができる。ちなみに、デイヴ・ムステイン自身もメタリカ在籍時の自身作曲のフェイバリットソングで”The Call Of Ktulu”を挙げている。

ジェイムズ・ヘットフィールド、ラーズ・ウルリッヒという2人のメインソングライターによるファーストアルバムから受け継いだ衝動性に加え、今作から作曲に加わったクリフ・バートン、カーク・ハメットによる叙情的サウンドが織り交ぜた〈メタリカ=スラッシュメタル〉を決定づけたアルバムである。 *Mikiki編集部