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ピアニスト田部京子、CDデビュー30周年記念の小品集『メロディー』リリース

 田部京子が〈古巣〉の日本コロムビアでCDデビュー30周年を記念したピアノ小品集『メロディー』をつくり、4月19日に発売した。録音は2022年、東京・銀座ヤマハホール、「数年前に弾き、求める表現を可能にする反応の良さ、とりわけ木の温もりを思わせる低音の懐深さが気に入りました」という楽器、〈ベーゼンドルファー Model 280VC〉を持ち込んで万全を期した。ウクライナの作曲家ミロスラフ・スコリク(1938-2020)の“メロディー”から田部自身と吉松隆が編曲したシューベルト“アヴェ・マリア”までの16曲は「前半が短調、後半が長調」という配列。

田部京子 『メロディー』 コロムビア(2023)

 「ウクライナへの想いに始まり、〈祈り〉で終わります。吉松さんとの“アヴェ・マリア”“ブラームスの子守歌”、またメンデルスゾーン“無言歌”、ドビュッシー“月の光”などの再録音も交え、調性や音型を少しずつ関連付けながら並べました。コロナ禍の3年間を受け、〈本当に力になるものは何か?〉〈辛い時に寄り添える音楽は何か?〉を感じながらの選曲です。もちろん、30周年の感謝の気持ちを込めました」

 30年前のデビュー盤は1992年録音のショパン。

 「ブラームス“ピアノ・ ソナタ第3番”、シューマン《交響的練習曲”など重量級の作品を中心に弾いた最初のリサイタルでCDデビューの話を頂いた時は、初録音も“ブラームスの3番”と思っていたのですが、〈若い女性はショパンの方がいいでしょう〉となり、ブラームスはいまだに幻です(笑)」

 次のメンデルスゾーン『無言歌集』で世界的評価を受け、その後は「大作の“ピアノ・ソナタ第21番D.960”を皮切りとするシューベルトを中心に小品集、室内楽、協奏曲……と、幅広く録音できる幸運に恵まれました」すべてが順調だったわけではない。

 「デビュー後に交通事故に遭い、半年間休んだ経験があります。日常の中に 突然現れた非日常です。〈これが最後でも悔いはないと思えるような演奏を目指して1日1日積み重ねて行こう〉と心に決めました」

 ご本人は「ごく自然体、 ちんたらちんたらやっています」 と謙遜するが、小品1つ1つのドラマの深さ、磨き抜かれたタッチと音色には、はっきりと円熟の証が刻印されている。

 「様々な作品を手がけながら、ずうっと弾き続けているものもあります。年月とともに感じ方も変わり、より見えてきたものがあると確信しています。弾き続け究めていくことの大切さを思います」

 


LIVE INFORMATION
CDデビュー30周年×浜離宮リサイタル・シリーズ20周年記念
田部京子ピアノ・リサイタル

2023年6月25日(日)浜離宮朝日ホール
開場/開演:13:30/14:00

曲目
シューベルト:ピアノソナタ第18番「幻想」 D894 Op.78/吉松隆:プレイアデス舞曲集より/前奏曲の映像/他
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/event/2023/06/event2356.html