〈今〉を体現する進化版東京ブギ
俳優、声優、演出家、歌手など多彩な顔を持つ夏木マリは、自分らしい生き方を貫く〈カッコいい女性〉の代表格だ。そんな夏木がデビュー50周年を迎えた今年リリースするのが、笠置シヅ子の名曲“東京ブギウギ”を新録音した『TOKYO JUNK BOOGIE』だ。自身の活動の原点である音楽を通じ、〈今〉が立ち現れるような作品を作りたいという夏木の思いに応えたのが、映像音楽から現代音楽まで幅広く活動する、若手作曲家の坂東祐大。世代やジャンルの壁を軽々と超えたコラボが実現した。
今回発売される東京ブギウギの新録音は現代音楽やクラシック、映画音楽などの世界で縦横無尽に活動する坂東がプロデュースし、ドラムにはジャズ界を代表する若手ドラマー、石若駿が参加。ただ名曲をカヴァーしただけという音楽では決してなく、多様なジャンルの音楽が混じり合った、極めて現代的な作品になっている。
「ブギを歌いたいと思ったのは2年ほど前、コロナ禍の最中でした。当時は舞台やライヴなども軒並み中止になっていて、世間は暗い雰囲気が漂っていた。だから私はとにかく楽しい音楽がやりたくなったんです。それなら皆がたのしめる東京ブギだろうと。坂東さんにプロデュースをお願いしたのは、私が彼の音楽の大ファンだったからです。テレビや映画で彼の音楽を聴いて、東京ブギウギを新しい音楽として生み出せると思い、(夫でパーカッショニストの)斉藤ノヴに紹介してもらってお会いしました。今の若い人は東京ブギウギが笠置シヅ子さんの曲だと知らない人も多いと思うので、アレンジはコンテンポラリーなものがいいなと考えていました」
坂東とは初共演だったが、ジャンルを超えた活動を展開する夏木との相性は抜群だった。
「坂東さんのアレンジはすごく新鮮でカッコいいなと思いましたね。私は何の作品を作るにしても〈今〉を提示できる作品が素敵だと思うのですが、坂東さんのアレンジはまさに〈今〉の音楽でした。ですので、今回は完全に坂東さんの才能にすがりました。坂東さんは音楽の基本はきちんとしていて、その上で振り幅が大きい。常に面白い音楽を作っています。坂東さんと会った時、ニューヨークにある劇場〈スリープ・ノー・モア〉の話で盛り上がったんですね。だから私とは感性が合うのだと思います。音楽の話では坂東さんは先輩です」
今回の録音メンバーは坂東のほか、ジャズドラマーの石若駿、ベースの須川崇志など若い実力派のミュージシャンがそろう。
「私がいま共演する人はほとんどが年下になりますが、今回のレコーディングは特にフレッシュな人とやりたかったんです。だからすごく楽しかったです。レコーディングと言ってもジャズのセッションのような感じで、ライヴでもこのグルーヴ感を再現できるかどうかと思うほどでしたね。石若さんと共演するのは初めてでしたが、とにかく“個”が出るミュージシャンで、セッションが楽しかったです。ドラムの叩き方が毎回全然違うんですよ。私も自然とモチベーションが上がりました。各ミュージシャンの“個”がぶつかり合ってうまくいかないことも結構ありますが、そこは坂東さんがプロデューサーの立場からうまく指揮されていたと思います。一流の個性はうまく(作品の中で)昇華するんですよ。今回のミュージシャン、皆さん年は若いですが成熟していました。私はリスペクトできる人と仕事がやりたいんです」