シングル“僕の見たビートルズはTVの中”(93年)以降はコンスタントなリリースを重ねている斉藤和義だが、自身名義に加えて外部仕事も合わせると、売れっ子だけに関連作は途方もなく多い。トリビュート盤やカヴァー集であれば、忌野清志郎や仲井戸“CHABO”麗市、森雪之丞、THE ROOSTERS、奥田民生、AC/DCなど彼のルーツ、あるいはルーツを共にするアーティストのものを中心に多数参加。そして客演や楽曲提供においては、レキシやBONNIE PINK、浜崎貴司、高田漣、東京スカパラダイスオーケストラら、広範なサウンドに彼流のアーシーなロックンロール・テイストを注入している。そのなかから、以下では斉藤が20周年を迎えてから発表された近作を紹介しよう。
デビュー20周年を機に同時リリースされたのは、2枚のオリジナル・アルバム。この16作目は、2011年作『45 STONES』以降に発表されたシングル収録曲と、藤井フミヤ/関ジャニ∞への提供曲で構成。映画/ドラマ/アニメ/CMとタイアップ曲がズラリと並ぶ、彼のポップ・サイドと言える一枚だ。
一方の17作目は同年制作の新曲のみで、一人多重録音曲の他に共作曲も半数を占める。中村達也+KenKenや、辻村豪文、玉田豊夢らツアー・メンバーとのものもさることながら、ギター1本を道連れに無骨なデュエットを聴かせるチバユウスケとのナンバーは、斉藤の原点を見るようで特に沁みる。
木村カエラが自主レーベルの第1弾にセレクトしたのは、12組のゲストを迎えて60~80sヒットに接近したコラボ・カヴァー集。斉藤はクイーン“Crazy Little Thing Called Love”に参加し、原曲に忠実な耳触りの軽妙なロカビリー上で、ヴィンテージなギター・サウンドを掻き鳴らしている。
スタジオジブリの宮崎吾朗監督による初のTVアニメ「山賊の娘ローニャ」。斉藤は夏木マリが歌唱したエンディング曲“Player”の作詞/作曲/プロデュースと全楽器演奏/コーラスを担当。泣きのスライド・ギターが援護する大人の女の叱咤激励ソングにグッとくる。
〈いっしょに歌いましょう、大人の恋がしたければ。〉というキャッチコピーの元、ヴェテラン女優が甲本ヒロトや鬼龍院翔、野田洋次郎、松尾スズキら11組の男性アーティストを招いたコラボ盤では、中島みゆき“キツネ狩りの歌”でデュエット。飾らない唱法で稀代の個性派と渡り合っている。
過去にはトリビュート盤にも駆け付けた4人組の最新作。ここで共同プロデュースした“この世は好物だらけだぜ”は、ドライヴィンなギター・リフでグイグイと押しまくるフラカン流の80sハード・ロック(!?)・チューンだ。衝動のままに突っ走っているようなサウンドに加え、自身をハエに見立てて自虐的に毒を吐くリリックも痛快!
今年でデビュー35周年を迎えた日本屈指のソウル~R&Bシンガーのベスト盤に、唯一の新曲“純愛”を書き下ろした斉藤。コンガも交えた軽快なグルーヴがステップを誘う歌謡ロックに乗せて、〈純愛〉にならざるを得ない一癖あるシチュエーションを描いている。
モデル/女優としての顔も持つ美貌のドラマー/ヴォーカリストのセッション・ミニ・アルバムにおいて提案したのは、これまでの彼女から考えると異色のシリアスなロック・サウンド。その“Don't be love”ではマイナー調の哀愁あるメロディーで主役のはすっぱな歌唱を引き出している。
はっぴいえんどとしてのキャリアに始まり、後人への影響も甚大な作詞家・松本隆の45周年を記念したトリビュート盤では、松田聖子の“白いパラソル”をピック。場末の酒場が似合いそうなレイドバック感を湛えたジャズ・ロック風のアレンジで、男の色気を滲ませている。