©Studio Amati Bacciardi.

これまでの輝かしい軌跡を、未来へと繋げて

 日本で生まれ育ちイタリアで大輪の花を咲かせて国際的に活躍めざましいメゾ・ソプラノ注目の第1弾アルバム。先ず目を惹くのが本場ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルお墨付きのロジーナ役を筆頭に、得意のアジリタ(細かく早い音符の連なりを敏捷に歌う)を聴かせる喜歌劇的な名アリアの数々。

 「どれも私のキャリアを導いてくれた想い入れの深いものばかり。これまでの集大成とも言えるけれど、〈過渡期〉にある現在の自分が歌ったらこうなる、というありのままの歌唱をこのタイミングで残しておきたかった」

脇園彩 『アモーレ』 BRAVO/キングインターナショナル(2023)

 その言葉通り、今まさに絶賛成長中の彼女。本盤でもポスト・ロッシーニのイタリア歌劇を担いベルカント・オペラを発展させたベッリーニによる歌曲に注目。特に代表作“清教徒”のエルヴィーラによる名高いアリア“あなたのやさしい声が”の旋律が転用された“追憶”などのゆったりとした美しいレガートは必聴だ。

 「小回りのきくアジリタに対して、音を途切れさせずに滑らかに続けて歌うレガートにどこか苦手意識があり、ロックダウン中にそれを払拭してレベルアップすることを自分に課していたのですが、その教材としてもベッリーニ作品は最適。〈能〉の幽玄さにも通じる、あの悠久の時の流れを感じさせるようなレガートこそ、ベルカントの神髄だと感じた」

 『Amore』というアルバム・タイトルに込めたのは〈愛〉。14世紀・人文主義者の叙情詩人がラウラという女性に捧げた情熱的な定型詩にリストが作曲した“ペトラルカの3つのソネット”はその結実であり後半の聴きどころ。

 「歌の師であるマリエッラ・デヴィーアのリサイタルで聴いて大好きに。これこそ私が表現したいアモーレの世界であり、これから志す後期ロマン派に繋がる音楽だと思いました。この曲も含め、パンデミックの2年間、ミラノの家をシェアしていたヴェルディ音楽院の指揮科に通う丸山貴大くんのピアノと毎日のように練習した成果が今回のアルバム。だからレコーディングにも彼が不可欠でした」

 今後、本格的にベッリーニやドニゼッティ作品へと漕ぎ出す彼女が目指す先にあるのは巨匠ヴェルディの世界。

 「流れを辿ると自然とそこに行き着く。意外かもしれませんが、ヴェルディが敢えてくぐもった暗い声を想定して書いたマクベス夫人の役に凄く憧れます! エボリ公女やアムネリスも素敵。やりたいこといっぱい(笑)」