“ゴルトベルク変奏曲”が私を選んでくれた
中国から新たな才能が世界へと飛翔している。ユンディ・リやサー・チェンを育てたダン・シャオイー、小林愛実が師事したマンチェ・リュウに学んだティエンチ・ドゥである。昨年リリースしたJSバッハ“ゴルトベルク変奏曲”は高い評価を得、6月の来日公演でも披露される予定だ。
「“ゴルトベルク変奏曲”との出会いからこれまでの経緯をたどってみると、私が“ゴルトベルク変奏曲”を選んだというよりは、“ゴルトベルク変奏曲”が私を選んでくれたのだと感じています。当初バッハ弾きを目指すつもりはなかったのですが、さまざまな偶然が重なり、ここまで導かれてきました。いまや私の人生において“ゴルトベルク変奏曲”はもっとも重要な作品です。ダン・シャオイー先生は公の場で演奏すべきだと薦めてくれ、マンチェ・リュウ先生はこの作品を通し、音楽家としていかにあるべきかを教えてくれました。“ゴルトベルク変奏曲”が私をバッハの世界へといざない、音楽の世界へと導いてくれたのです」
録音は2018年12月にカナダのケベックで行われた。
「この場所を選んだのは、グレン・グールドの北への強い思いをたどりたかったからです。ところが、録音会場に行ってみると、実際にグールドが演奏したピアノがあり、本当に感動しました」
ティエンチ・ドゥの“ゴルトベルク変奏曲”は、適切なテンポと雄弁な歌に彩られ、おだやかながら推進力に富んでいる。
「この録音を通じ、バッハをもっと演奏していきたいという気持ちになりました。今後は“平均律クラヴィーア曲集”、“フーガの技法”など、バッハの重要な作品に目を向けたいと思っています。バッハに関連したプロジェクトも視野に入れ、“マタイ受難曲”をピアノ版に編曲し、歌詞のないショートバージョンで演奏することも考えています。将来に向けてアイデアがたくさん詰まっているのです。もちろん、ピアニストとして、モーツァルトやショパンの後期の作品、ヒンデミットなど、バッハと他の作曲家との関連性について掘り下げることも考え、現代作品にも取り組んでいきたいと思っています」
バッハに関する話は尽きない。
「バッハの音楽がシェーンベルク、カンディンスキー、坂本龍一など、あらゆる芸術家に霊感を与えてきたことに感銘を受けています。それを踏まえ、私も現代的な視座からバッハの美学を表現したいと考えているのです」
その美学を受け止めたい。
LIVE INFORMATION
ティエンチ・ドゥ ピアノ・リサイタル ゴルトベルク変奏曲
2023年6月28日(水)大阪・梅田 あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
開演:14:00
https://phoenixhall.jp/performance/2023/06/28/19628/
2023年6月29日(木)愛知・名古屋 電気文化会館 ザ・コンサートホール
開演:19:00
https://clanago.com/i-ticket
2023年6月30日(金)東京・赤坂 サントリーホール ブルーローズ
開演:19:00
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20230630_S_3.html