©Alexandra Gavillet

記録的なヒットで世界を魅了したシンガー・ソングライターが、〈フジロック〉再登場を控えた絶好のタイミングで待望の2作目を完成! さまざまな悲しみを経験した彼の歌には新たな力が宿っている!

苦しみを乗り越えて

 力強くも繊細な歌声で人々の心を虜にしてきたルイス・キャパルディ。頼れる人を失った悲しみを歌う“Someone You Loved”は聴くたびに感動が押し寄せる名曲中の名曲だ。2018年のリリース以来、英米をはじめとする世界各国のチャートを制覇し、ブリット・アワードなど多くの音楽賞を総舐め。新人ながらグラミー賞の楽曲部門でノミネートを受けるなどの快挙を成し遂げた。2019年を象徴するメガヒットとなったこの曲は、7週連続で全英1位を獲得し、同年のUKでもっとも売れたシングルに。同じくチャート首位に輝いたファーストアルバム『Divinely Uninspired To A Hellish Extent』は、英国で最大のセールスを上げたアルバムに2019年と20年の2年連続で認定された。コロナ禍には人々の心の支えとなり癒しとなり、いまなお広く長く愛され続けている。

LEWIS CAPALDI 『Broken By Desire To Be Heavenly Sent』 Vertigo Berlin/ユニバーサル(2023)

 その前作から約4年、セカンド・アルバム『Broken By Desire To Be Heavenly Sent』がついに届けられた。すでに欧米ではアルバムを引っ提げたツアーもスタート、7月には〈フジロック〉での来日も決まっている。〈フジロック〉出演は2018年以来となり、来日は2020年1月の東京・LIQUIDROOM公演以来。いまやすっかりビッグになった彼をこの目で、耳で確認できる貴重な機会となりそうだ。

 そもそもライヴには定評のあるルイス。スコットランドの地元のバズゲイトから程近いグラスゴーやエジンバラで歌いはじめたのが11歳の時。兄の助けを借りてパブに潜り込み、ギターを抱えて歌っていた。自分で曲を作ったり、それをネットにアップしはじめたのもその頃から。本気でシンガーになりたいと決意を固めてからは、家族のサポートを得て、それこそありとあらゆるパブやライヴハウスで歌ってきた。ネットに上げた音源をきっかけに幸運を掴んでレコード契約を結び、2017年に“Bruises”でデビューを果たしてからも、ライヴ活動を積極的に進めてきた。サム・スミスからバスティル、ナイル・ホーラン、エド・シーランまで、さまざまなアーティストのオープニングアクトを務める一方、もちろん自身がメインのツアーも行い、フェス出演も果たしている。が、2021年にはライヴ活動を一旦すべて中止、本作の制作に専念することに。というのも“Someone You Loved”を超える名曲を作らなければ、というプレッシャーや自己評価の低さなどと闘っていたからだという。その苦しみはNetflixで配信中のドキュメンタリー「ルイス・キャパルディ:今、僕が思うこと」にも克明に描かれている。しかし、もちろん彼は暗いトンネルを抜け出して、ニュー・アルバム『Broken By Desire To Be Heavenly Sent』と共に帰ってきてくれた。

自分に正直な作品

 先行シングル“Forget Me”と“Pointless”“Wish You The Best”の3曲が、すでに全英1位を獲得。輝かしい第2章の幕開けとなった。久しぶりの新曲となった“Forget Me”では〈僕のこと忘れないでよ〉と歌って、MVではワム!の“Club Tropicana”のMVをパロディー。SNSなどでもお馴染みのユーモアのセンスをたっぷり見せつけている。“Pointless”の共作/プロデュースには、エド・シーランとジョニー・マクデイド(スノウ・パトロール)、スティーヴ・マックの黄金トリオが参加。エドの大ヒット曲“Shape Of You”や“Shiver”などを手掛けたチームが、ガッチリ彼をサポートした。そしてルイスいわく「これまで書いた曲の中で、恐らくもっとも悲しい曲」だという“Wish You The Best”は元カノについての曲で、破局した時に〈君の幸せを祈ってる〉などと強がってみせたけど、実は……という本音が曲中で明かされている。3曲とも曲調やサウンドは違っているが、共通しているのは全面に押し出されるルイス自身の歌声。彼の歌こそが最大の聴きどころだというのは、アルバム全体にも通じる変わらない特長だ。

 「新しいサウンドを開拓しようとか、変身した新しい自分を見せたかったのではない」と言い切るルイス。変化を求められがちなセカンド・アルバムだが、奇を衒わず、自身に正直で、自分らしい作品を作ろうと心掛けたという。共作/プロデュースに参加する顔ぶれも、前作とほぼ変わらず。デュア・リパやオリー・マーズを手掛けるプロダクション・チームのTMS、ガブリエル・アプリンやディーン・ルイスらを手掛けるニック・アトキンソン(元ルースター)&エド・ホロウェイ、フランク・オーシャンやゼインを手掛けるマレイらが引き続き参加。一方で変化したのは、前述のエド・シーランらの協力があったり、アルバム後半で少々異彩を放つ楽曲が顔を覗かせる点だ。

 その曲“Leave Me Slowly”は、プリンスの“Purple Rain”を彷彿とさせるダイナミックでドラマティックなナンバー。制作にはブリトニー・スピアーズからテイラー・スウィフトまでを手掛けるマックス・マーティンと、彼の門下生サヴァン・コテチャ(アリアナ・グランデ、リゾ)とオスカー・ホルター(ウィークエンド、トロイ・シヴァン)が参加。さらにシャナイア・トゥエインからデフ・レパードまでを手掛けるヴェテラン・プロデューサー、ロバート・ジョン“マット”ランジの名がクレジットされているのには、やや驚きも。ファット・マックス・ジーザス(メイジー・ピーターズ、ブリー・ランウェイ)が思いっきりギターを掻き鳴らして、高揚感溢れる展開が繰り広げられる。これまでにはなかった彼にとっての新境地を思わせる。

 アルバム全編には、破局や喪失、後悔など、ルイスらしい悲しいテーマの曲が並んでいるが、ハッピーな明るい曲も収録されている。〈天国〉という言葉が幾度か繰り返されたり、ジャケット写真がそれっぽく思えるのだけれど、やがてその意図は明らかにされることだろう。どの曲も、言葉のリズムとメロディーの関係が流れるように美しく、字余りや不自然なイントネーションが皆無。ツルンとこちらの胸の中へと飛び込んできて、思わず一緒に歌いたくなるのが特長だ。実際、彼のライヴでは、神妙に聴き入る人もいれば、一緒に歌うファンも少なくない。2月のドイツ公演では“Someone Loved Me”を歌っていた最中に突然、持病のトゥレット障害の発作に襲われて歌えなくなってしまう事態もあったが、すぐさまファンが替わって大合唱で彼をサポート。そんなファンとの関係も素晴らしい。ほぼ同時期のリリースとなったエド・シーランの『- (Subtract)』とこのルイスの新作『Broken By Desire To Be Heavenly Sent』が、どんなふうに語られるのか、比較されるのかも気になるところだ。

左から、ルイス・キャパルディの2019年作『Divinely Uninspired To A Hellish Extent』(Vertigo Berlin)、コライトで参加したカイゴの2022年作『Thrill Of The Chase』(RCA)、イレニアムの2023年作『Illenium』(Warner)

参加ソングライターの関連作品を一部紹介。
左から、スノウ・パトロールの2018年作『Wildness』(Polydor)、JPサックスの2021年作『Dangerous Levels Of Introspection』(Arista)

ルイス・キャパルディの新作に通じる現行ポップ・シーンの王道シンガー・ソングライター作品たち

ED SHEERAN 『- (Subtract)』 Asylum/Atlantic/ワーナー(2023)

今回ルイスに提供された“Pointless”はエドとスティーヴ・マック、ジョニー・マクデイドがもともと蓄えていた曲をルイスが調整したもの。エドの新作はアーロン・デスナーとの共作を軸にした一枚とあって、従来のテイストはルイスに継承された感もあるか。

 

DEAN LEWIS 『The Hardest Love』 Island(2022)

シドニー出身シンガー・ソングライターの2作目で、喪失を歌った“How Do I Say Goodbye”などを前作に続いてニック・アトキンソン&エド・ホロウェイが支えている。彼とカイゴのコラボしたダンス・ヒット“Never Really Loved Me”にはルイスも変名で参加。

 

RUEL 『4th Wall』 RCA(2023)

シドニー出身の20歳で、アルバム・デビュー前のティーン時代に〈サマソニ〉出演経験もあるルエル。ポップスター然とした鮮烈さを後見人M・フェイゼスが演出したこの初作では、蒼い情緒を纏ったフラットな歌声がTMS制作の“Must Be Nice”などに染み渡る。

 

ALEC BENJAMIN 『(Un)Commentary』 Elektra(2022)

ルイスとはほぼ同世代にあたる米アリゾナ出身のシンガー・ソングライター。時代の背景を投影したフラジャイルな表現と内省的なストーリーテリングはルイスにも通じるもので、ピアノとギターを軸にした優美なプロダクションも繊細な魅力を伝えている。

 

JAMES ARTHUR 『It’ll All Make Sense In The End』 Columbia(2021)

情熱的な歌唱で人気の英ミドルズブラ出身シンガーソングライターで、ヒップホップ色も濃いこの4作目にはTMS制作の“Never Let You Go”などを収録。彼とシガラによるダンス・ヒット“Lasting Lover”(2020年)にはルイスも共作者に名を連ねていた。

 

ALEXANDER 23 『Aftershock』 Interscope/ユニバーサル(2022)

こちらもルイスと同世代、イリノイ州ディアフィールド出身の自作自演シンガーによる初作。オリヴィア・ロドリゴらの制作仕事によって裏方としての評価が先行しているものの、私生活を反映した内容を陰影豊かな歌声でシンプルに聴かせる自作も絶品だ。