エド・シーランに見い出された才能が綴る待望の第2章――再来日も控える善の魔女が失恋の痛手や苦い体験、さまざまな心模様を書き記したページをめくれば……
今年3月の初来日公演を大盛況のうちに終えたメイジー・ピーターズが、8月の〈サマソニ〉出演で再来日を果たす。しかもニュー・アルバム『The Good Witch』まで完成させて。いまの彼女は何やらヴァイタリティー溢れる最盛期に差し掛かっている印象だ。
思えば昨年あたりからメイジーは動きはじめていた。パンデミックで止まってしまった活動を取り戻そうとするかのようにツアーを行い、トレードマークだった艶やかなブルネットヘアをブロンドに染めて、その名も“Blonde”という楽曲を発表。失恋の痛手をブロンドになってリセット。〈私はグウェン・ステファニーになるの、コートニー・ラヴになるの〉と歌い上げ、次なるステップへの予兆を窺わせていた。
英国ブライトン近郊の小さな街で生まれ育ったメイジーは、8歳から歌いはじめて、12歳で曲を書き、15歳の時には街角でパフォーマンスを繰り広げていた。高校を卒業してロンドンに移住する頃にはすでに多くのファンを持ち、業界関係者からも一目置かれる存在に。なかでもエド・シーランからは多大なサポートを受けて、同世代の女性を中心にしたファンベースを築くきっかけを生み出した。2021年8月には、そのエドが主宰するレーベル=ジンジャーブレッド・マンからファースト・アルバム『You Signed Up For This』を発表し、全英チャート2位の好成績を記録。当然ながら2年ぶりのセカンド・アルバムとなる今回の『The Good Witch』にも、いっそう大きな期待が寄せられている。
ファースト・アルバムが、それまでの人生を全網羅した、さまざまな出来事のコラージュ集だったとすれば、新作は「昨年一年間の私の人生を反映している」という。ツアー生活を続けるなかで作られたアルバムについて、彼女は「一年間の経験を綴った私の体験談であり、ページをめくれば私の心と魂、血が滲んでいる」と説明。「いわば私自身のこじれた視点から見た失恋アルバムってこと。すべての曲が同じ2か月くらいの間に起こった体験とインスピレーションを基にしている」とも語っている。
〈失恋アルバム〉で〈こじれた視点〉と聞けば、よっぽどドロドロしているのだろうと思ってしまうが、決してそうではない。持ち前のサバサバしたキャラと早口でもって、中身はカラッと軽快。まるでラブコメ映画の主人公のように楽しく、可愛く、ほろ苦くて、ちょっぴり天然で、湧き上がる共感が止まらない。例えば先行リリースされた“Body Better”のMVでは、墓場に女子を集めて藁人形で復讐の儀式を敢行。一見カラフルでハッピーそうなのに、その裏ではドラマ「ウェンズデー」にも通じるダークなユーモアでクスッと笑わせる。
レコーディングはロンドンをはじめ、サフォーク、ストックホルム、ベルゲンなどの欧州各地と、米LAで実施。プロデューサーには、テイラー・スウィフトやトロイ・シヴァンを手掛けるオスカー・ゲレスを筆頭に、サム・スミスやイヤーズ&イヤーズで知られるトゥー・インチ・パンチ、ガール・イン・レッドや自身のドリーム・ポップ・バンドであるヤング・ドリームスを手掛けるマティアス・テレス、他にもブラッド・エリス(ジョルジャ・スミス、アン・マリーなど)、ジョー・ルベル(エド・シーラン、グリフなど)、エルヴィラ・アンデルフヤード(ケイティ・ペリー、トーヴ・ローなど)ら第一線で活躍する敏腕たちが参加。大仰になったり、ドラマティックすぎないプロダクションが小気味良く、コケットな彼女の歌を上手くサポートしている。発音が聴き取りやすい彼女の歌は、英語の勉強にも打ってつけ。小脇に挟んでいつも持ち歩きたい、そんな愛着の湧くキュートなお気に入りの詩集のようなアルバムだ。
左から、メイジー・ピータースの2021年作『You Signed Up For This』(Gingerbread Man/Asylum)、メイジーが客演したReNの2021年作『ReNBRANDT』(ワーナー)、メイジーが楽曲提供した2020年のサントラ『Birds Of Prey』(Atlantic)
エド・シーランの2023年作『−』(Asylum)