ロバート・クラフト生誕100年記念――コロンビア録音の集大成がついにリリース!

ROBERT CRAFT 『ロバート・クラフト - コンプリート・コロンビア・アルバム・コレクション<完全生産限定盤>』 Sony Classical(2023)

 かつて作曲家ピエール・ブーレーズが指揮者として活動していたからこそ耳にすることができた音楽は、数多くあった。ある意味、彼は新しい音楽の存在を伝えるメディアであり、我々の関心を新しい音楽から俯瞰できるもう一つの歴史へと開くエディターであり、新音楽をコンサート・レパートリーとしても定着させてきたプロデューサーだった。今回、コロンビア・レコードでの全仕事をまとめ、発売されたロバート・クラフトは、ブーレーズ以前にそんな役割を引き受けたアメリカ人指揮者だった。

 彼は、ヴァレーズ、シェーンベルク、ストラヴィンスキーの作品を意欲的に取り上げる指揮者として知られてきた。興味深いことにこの三人ともが、彼が活動を始めた頃、欧州から戦禍を逃れて在米中の前衛作曲家だった。クラフトは、この三人ともと、その作品の演奏に際して、連絡を取りアドバイスを求めていた。特にストラヴィンスキーとは、作曲家の手足となり、コロンビアで自作自演集の制作を始めた時、そのリハーサルを取り仕切る(ウェーベルン全集はこのとき余ったスタジオ時間を使って収録された!とライナーにある)など、亡くなるまで重要な役割を務め、67年にストラヴィンスキーが指揮を辞して以降も録音し続け、自演の分を含めると膨大な作品を残した。

 オーケストレーションに関してはベルクを高く評価するストラヴィンスキーとは微妙な距離(近所に住んでいた)にあったシェーンベルグだったが、そんなことはおかまい無しにクラフトは、グレン・グールドのプロデューサーも勤めるジョン・マクルーアと、八巻にも及んだ作品集を制作した。稀にしか演奏されないハーモニウム、チェレスタ、ハープとソプラノのための作品などを収録し、目の行き届いた彼らしいエディションとして高く評価されてきた。さらにその頃ほとんど演奏されることも、録音もほとんどなかったヴァレーズの音楽を管弦楽作品と電子音楽作品ともに録音し、その存在を可聴化した。

 この全集のすべてがモートン・フェルドマンをはじめとするアメリカのあの時代の前衛の関心を可視化し、育てたといっても過言ではないだろう。