
自身が主催するプロジェクト・QYPTHONEでの活動を経てソロデビュー。自身の作品に加えて様々なアーティストへの楽曲提供や、CM音楽、ドラマ/アニメ/ゲーム音楽といった幅広い分野で活躍するサウンドクリエイター、中塚武。彼のソロ活動20周年を記念した最新アルバム『PARADE』がリリースされた。
この作品では、Disc 1にオリジナル曲を、Disc 2にこれまでの提供曲から楽曲を選んだ中塚武ワークスを収録。20年の活動の中で広がった広大な音楽性をブレンドして聴かせてくれる。
今回は、キャリアの初期からの盟友であり、田中知之(FPM)とともに携わった東京オリンピックの開会式の音楽制作でもともにタッグを組んだi-depのナカムラヒロシを迎え、対談形式でお互いの20年間や、最新アルバム『PARADE』について聞いた。
2000年代の出会い、尊敬し合う間柄
――まずはお2人が知り合ったきっかけについて教えてください。おそらく、中塚さんがソロデビューをして間もなく、ナカムラさんがi-depでデビューしたばかりの2004~2005年頃に、イベントで一緒になったことが最初かと思うのですが、当時のことを覚えていますか?
中塚武「めちゃくちゃ覚えてます。吉祥寺のSTAR PINE’S CAFEで、僕がDJをやって、i-depがライブで出演していて」
ナカムラヒロシ「そうそう。それでちょっと話したのが最初のきっかけでした。でも、そのときは僕らが次の日に大阪でライブをする予定だったんで、〈またー!〉と言ってすぐに別れたんですよ」
中塚「そうだそうだ」
ナカムラ「あと、僕はその前にも、実は渋谷のSECOで中塚くんのライブを一方的に観ていました。自分がプロになる前から中塚くんの音楽は聴いていたので、最初は敬語で話していましたけど、中塚くんの人柄もあって、すぐに〈中塚武さん〉という存在から、〈中塚くん〉に変わっていったイメージですね」
――一方で、中塚さんがi-depやナカムラさんを知ったのはいつ頃だったんでしょう?
中塚「ライブはそのとき初めて観させてもらったんですけど、i-depは曲もいいし、もともと〈すごくかっこいいな〉と思って聴いていました。当時、一世を風靡していたんですよね」
ナカムラ「いや、そんなことないやろ(笑)」
中塚「だってさ、山手線に乗っていてi-depのメッセンジャーバッグを持っている人を見かけたんだよ。〈音楽という枠だけじゃなくて、i-depというブランドになってるんだな〉と感じて、同じミュージシャンとしてちょっと落ち込んだりしました(笑)。とにかく、知り合う前から〈すごいな〉と思っていたんです。
そしたらちょうど、STAR PINE’S CAFÉのイベントで一緒になって、しかもその日、ヒロシがMCで〈今日は中塚くんと一緒で嬉しいです〉と言ってくれて。そこで〈友達になれるかも〉と思ったんです。ライブ終わりに、ステージ裏の階段のようなところで挨拶して、話すうちにすぐに打ち解けました」
――当時から、お互いの音楽に共感する部分などもあったんでしょうか?
ナカムラ「僕はリスナーとして中塚武の音楽を聴いていたときから、〈この人は実験しているのにポップでかっこいいな〉と思っていましたね。見事に研磨された音楽をやっている、すごく頭がよさそうな人だ、と思っていました。あともうひとつ、そこはかとない育ちのよさも感じていて。
でも、実際に会ってみたらそうでもなかった(笑)。実際の中塚くんは人間味があるし、飲めばちゃんと酔っ払うし、ギャップがすごかったんです。〈この人、こういう人だろうな〉というイメージとは全然違ったけれども、だんだんその音楽の本質や、〈こういう人だからこういうことができるんやな〉ということがわかってきたような感覚です」
中塚「そういうふうに思われがちなだけなんだよ(笑)。
i-depの曲はTVでも街中でもかかっていて、僕自身も自分で買って聴いていましたけど、とにかく音楽に勢いがあるな、と思っていました。ポップでカラフルで、好きな要素が満載だけれど、同時に流行りの音楽ともどこか違って、すごく勢いを感じたというか。
これはバンド形態のプロジェクトということも大きいと思うんですけど、ヒロシとCanaちゃんの仲良しなんだけれども緊張感があるような雰囲気も魅力的で、〈アルバムを1~2枚出して辞めちゃうんじゃないか〉というぐらい、奇跡みたいなバランスで成り立っているような印象でした。お互いに、当時は触ったものを傷つけるような、若さゆえのトゲトゲしさがあったような気がします」
ナカムラ「あったかなぁ(笑)?」

中塚武はクインシー・ジョーンズとディズニーや!
――当時のお2人は海外レーベルから作品を出していましたし、海外の音楽シーンの流行をオンタイムで取り入れつつ、同時にポップでもあるというイメージを持っている方も多かったんじゃないかと思います。
中塚「そもそもヒロシは、実際に海外に住んでいたもんね」
ナカムラ「そう。ロンドンに住んでいたときにi-depをはじめたら、ビザが切れて日本に帰ろうかという前日にイタリアのイルマ・レコーズから〈契約したい〉と連絡をもらって」
中塚「かっこいいなぁ」
ナカムラ「一見よく聞こえるかもしれないけど、〈やったぜ、夢のイルマ・レコーズや!〉と思っていたら、そこから3~4ヶ月経っても次の連絡がなくて、しびれを切らしてこっちから直接言いにいったんだから。そう聞くとかなり泥臭いでしょ(笑)」
中塚「イルマ・レコーズからミックスCD『ITALIAN JOB mixed & cooked by i-dep』(2006年)が出たとき、めちゃくちゃ聴きましたよ、僕は」
ナカムラ「逆に僕はこの間、〈曲ができない〉と思ってNetflixを観ていたときに気づいたんですけど、〈中塚くんの音楽ってクインシー・ジョーンズだな〉って思うんですよ。クインシー・ジョーンズが今もバリバリ元気でコンピューターをいじっていたら、たぶんこうなっていたんじゃないかな、と。
あとやっぱり、曲に(公式アレンジアルバムを担当している)ディズニー/ディズニーランド感があると思いました。技術的なことはさておき、人を高揚させる曲という意味で、転調やコーラスひとつとっても、音楽にパワーがあるというか。そういうことが浮かびますね。〈中塚武はクインシー・ジョーンズとディズニーや!〉って」
中塚「(笑)。そう言ってもらえるのはすごく嬉しい。僕はゲーム会社のナムコにいたこともあって、もともとそういうリアルな人生じゃない要素に魅力を感じるところがあるんです。
他の人の音楽を聴くときも、別世界に行くような感覚で聴いていて。世知辛い世の中だし、落ち込むこともいっぱいあるだろうけれど、音楽を聴いているその何秒~何分間だけは色んなことを忘れられるというような、そういうところがいいな、と思っているんですよね」
――お互いの音楽を聴いて刺激を受けることはありますか?
ナカムラ「今回、僕は中塚くんのシングル『Dreaming of the Future』に収録されている田中知之さんによるリミックス“Dreaming of the Future (FPM Crystal Version)”に共同作業者として参加したので、中塚くんの音楽をじっくり分析する時間があったんですけど、改めて聴き込んでみると、〈もう何も手を加えなくていいんじゃないか〉と思うくらい楽曲が本当によくできていて。この人は本当に努力している人なんだな、と思いました。
僕らは東京オリンピックのときにも、開会式の音楽を田中知之さんと一緒につくる機会がありましたけど、音楽をやっている同世代としては、DJもやっているけれど、かといってザ・DJということでもない、中塚くんの在り方にはすごく共感できる部分があります」
――様々なジャンルに精通したサウンドプロデューサーであると同時に、シンガーソングライターとしての魅力も追求されたりしていますよね。
ナカムラ「そうそう。そういう表現者としての中塚武にすごくシンパシーを覚えますね。……昼間からお酒なしで中塚武を褒めるのもどうかと思いますけど」
中塚「(笑)。でも、僕自身はそれほど考えてやってるわけでもないんです。これまでの活動の中で、〈あのときにやったあれが、ここで生かせるかもしれない〉という、知らないうちに積み重なってきた経験があって、それが自然に出るようになったんだと思います」
20年の積み重ねを武器に新しいものをつくる
――実際、今回のアルバム『PARADE』を聴かせていただいても、エレクトロニックミュージックやジャズ、ヒップホップ、英語詞/日本語詞のメロディ、そして自らボーカルを取って歌うよりシンガーソングライター的な側面など、中塚さんがこれまでキャリアを通して追求されてきた様々な要素が、全編を通して自然に混ざっているように感じました。
中塚「何年か前までは考えないとそうはできなかったんですけど、20年やっていると、キャラが勝手に走り出すみたいに、それが自然に出てくるようになる瞬間があるんですよ」
ナカムラ「20年経つと、普通は〈一度自分の音楽を客観的に見てみるか〉ということをしがちだと思うんですけど、中塚くんはその距離感が上手いのかもしれないよね。
あと、中塚くんは全部自分でやることも多いけれど、ひとりでやっているものではないように聞こえる瞬間がある。作家としてのスイッチ、アレンジャーとしてのスイッチ、レコーディングの際のディレクションのスイッチというように、きっと頭の中に〈色んな中塚武〉がいて、場面ごとに使い分けてるんじゃないかという気がします」
中塚「影武者みたいに自分が何人かいる……?」
ナカムラ「中にはひとりぐらいまだ誰も知らん中塚武がいるかもしれないし、同時に焼肉屋で飲んだ後、黙ってタクシーに乗って帰っていく中塚武もいる(笑)」
中塚「ははははは」
――中塚さん自身は、役割ごとの切り替えのようなものは意識しているんですか?
中塚「演奏しているときや歌を歌っているときって、作曲とは違って実際に体をつくらなきゃいけないので、そういう物理的なモードの切り替えは意識します。
ただ、アレンジに関しては、さっきも少し話したように、その切り替えが自然にできるようになったんだと思います。ヒロシもそうだと思いますけど、〈まだ聴いたことがない音楽をつくる〉〈次のポップをつくる〉ということをモチベーションに活動していく中で、〈どれだけ自分の積み重ねが上手く絡み合っているか〉ということは、僕はすごく重要だと思っていて。
音楽って若い子でもすごくオーセンティックなものが好きな人もいれば、おじいちゃんになっても尖ったものが好きな人もいて、世代やつくった人の背景って聴く人にはあまり関係ないと思いますけど、つくる側は自分の積み重ねの上で音楽をつくっているわけだから、20年やってきた僕らが今新しいものをつくるなら、これまでの積み重ねがすごく武器になるんじゃないかな、と。今回アルバムをつくる上では、そういうことをすごく考えていました。
それもあって、今回は若い頃のように音をこねくり回して新しい音楽として聴かせるというよりも、自分から出てきたアイディアを、そのまま出すことを大事にしていきました」
ナカムラ「ああ、分かる。僕も最近、同じことを考えてるなぁ。今回の『PARADE』にも、確かにそういう魅力を感じました」
メロディを徐々に形作る異色の構成
ナカムラ「でも1曲、“CRYPTOMERIA”だけは他と違って〈この曲、つくってから結構こねくり回したやろ?!〉という感じがしたんですよ。エディットし倒してやろうという気持ちが伝わってきたというか。この曲、実際はどうだったの?」
中塚「“CRYPTOMERIA”は、実は僕が音楽を担当していた『NEWS ZERO』の映像や、僕の“JAPANESE BOY”(東京五輪のセレモニーでもかかった前作『EYE』収録曲)のMVも手掛けてくれた杉江宏憲さんの会社の名前で、その会社が毎年年末につくっている短い作品集のようなものに音楽をつけさせてもらおう、とつくった曲でした。
杉江さんは図形がぐにゃーっとなったりするような表現が好きだから、エディットをすることで、僕の中での杉江さんの映像の雰囲気を音にしていったんです」
ナカムラ「なるほど。それは他と違うタイプの曲になるはずだ」
中塚「でも、杉江さんに渡したら、〈これじゃ絵がつけられない〉って言われちゃったんだよね(笑)。それで今回の作品に入れようと思って、〈タイトルを“CRYPTMERIA”にしていい?〉と許可をもらってこの名前をつけました」
ナカムラ「この曲、ものすごいよね。何か別の曲からホーンのデータを持ってきているの? それとも新規に録ったもの?」
中塚「まずはピアノで完成形にあたるメロディを考えたものの、それをそのまま弾くんじゃなくて、フレーズを何回か繰り返す中で4~5回目くらいにそのフレーズが出てくるようにしたいと思っていて。そういうことを考えながら、〈この音はこの楽器〉〈この部分はこの楽器〉と音を割り振って、逆算してそれぞれの楽器を録りました。だから、最初の段階では〈なんのこっちゃ〉と分からないと思うんだけど、それが徐々にメロディになっていくという」
ナカムラ「なるほどなぁ。やっぱり賢い(笑)。スティーヴ・ライヒみたいなことだよね」
中塚「そうかもね。自分としては逆回しのような感じで、エディット後の完成形を想定したうえで演奏を振り分けていきました」
「パックマン」の素材を使い倒してやろう
――ナカムラさんが印象的だった楽曲は他にもありますか?
ナカムラ「あとは、『パックマン』をテーマにした“Ladies and PAC-MAN”の和音の当て方がめちゃくちゃ中塚武で、音源を聴きながら爆笑しました。ポップに仕上げているから一見自然に聴こえるけれど、よくよく考えると〈何なんこれ?〉という構造になっている(笑)。『パックマン』の音源を使った曲でもあるけれど、ちゃんと中塚武の音楽になっているんですよね。
今回のアルバムはこの曲からはじまっていますけど、音楽家の中塚武が出来上がっていく通過点にあった会社の作品の曲を、自分の音楽に昇華させているのも胸熱でした」
中塚「そもそも僕がナムコに入りたいと思ったのは、『パックマン』をつくった岩谷徹さんがいる会社だったからで、僕は岩谷さんが当時在籍していた開発企画部をピンポイントで受けに行ったんです。晴れて内定をもらって、内定式で実際に会えたときも〈本物だー!!〉と感動しました。
この曲はもともと『パックマン』の40周年の企画用につくった楽曲で、『パックマン』の素材をなんでも使っていいよと言ってもらえたので、せっかくなら使い倒してやろうと思って、メインテーマの有名なフレーズをバックでずっと鳴らしています」
ナカムラ「そのアイディア、よくできた悪ふざけやなぁ。すごく面白いよね」
――ヒップホップ的なブレイクビーツに乗せて、性格の違う4匹のゴーストがパスザマイクをしていく様子も印象的です。
中塚「そうですね。『パックマン』でゲーム内に敵役として登場するゴーストは、ゲーム史において初めてキャラクターに性格がつけられた〈ゲームAIの元祖〉と言われていて、赤は追いかける、ピンクは回り込むというふうに、それぞれに性格が違っています。その性格の違いを反映したラップを用意して、4人でマイクをパスしていくような構成にしました」
ナカムラ「うわぁ、よく考えられてるな。あとは中塚くんに直接メッセージもしたんですけど、タイトル曲の“PARADE”がすごくいいと思いました。気になってたんだけど、“Dreaming of the Future”(トヨタ〈プリウス〉CM曲)とこの曲って、どっちが先につくられたの?」
中塚「それは鋭いね。その2曲をつくったのは、実はほぼ同時期だったんだよ」
ナカムラ「ああ、そうなんや。“Dreaming of the Future”は、TVから流れてきたときに〈誰がつくったんだろう?〉と思っていて、シングルのリミックス制作のために音源を聴いてみたら〈これやん……!〉となった曲でした。
そして“PARADE”の方は、タイトル曲になっているということ以前に、中塚武の新しい扉を開いているように感じましたね」
中塚「そう言ってもらえると嬉しいですね。“PARADE”は〈普通の4つ打ちでも面白いことができるよ〉という雰囲気の曲にしたいと思ってつくった曲で、かっこつけたりはせずに、浮かんだアイディアをそのままワッと出してやろう、と思っていました」
ナカムラ「この曲もそうだと思うんですけど、別に中塚くんが歌わなくても中塚武の曲になっている、というのはすごいことやぞ、と思います」
現場での切磋琢磨が育ててくれた作品
――今回はインスト曲や中塚さんによるボーカル楽曲に加えて、orange pekoeのナガシマトモコさんや、中塚さんと村上“PONTA”秀一さんとともに活動しているユニット・PETの神谷えりさんなど、様々なボーカリストの方々も作品に参加されていますね。
中塚「最近は歌も含めて自分ですべてをやることも多かったんですけど、そうするとやはり、全部の曲が男のボーカルになってしまうんですよ。今回は、〈女性ボーカルが似合う曲なら女性のシンガーに歌ってもらおう〉とか、〈英語の曲はネイティブの人を呼んじゃおう〉とか、自分の頭に浮かんだイメージを制限しないことを大切にしました」
ナカムラ「中塚くんが歌っている“Just a Minute, please ~ Flashback”も面白かったです。〈これ何語なん?〉という雰囲気の箇所がある、中塚くんのライブの姿が浮かぶ楽曲で」
中塚「このボーカルは最初に自分で録った後に、QYPTHONEの石垣(健太郎)さんにOKテイクを選んでもらうということをしていて。ひとつ客観的な目線も加えてもらいました」
ナカムラ「自分の歌に対する線引きって難しいよね。この曲の(パッと聴くと日本語には聞こえない日本語詞の)〈ねえ、ちょっと待ってください〉も、〈これ自分で録ったんかな?〉って思ったりしていて。すごく面白かった。
この部分、中塚くんは桑田佳祐さんも好きだったりするから、最初はそういう影響もあるのかなとちょっと思ったけど、途中で〈いや違うな。これ中塚武や!〉と考え直しました(笑)。
あと、またピアノが上手くなってるよね」
中塚「ピアノに関しては、僕はヒロシのタッチを目指しているから。ナカムラヒロシのピアノは粒が綺麗なんですよ。風貌からは想像がつかないような綺麗な音が出るんです」
ナカムラ「やっぱり、昼間から素面で褒め合うのはよくないな……(笑)。
とにかく、今回のアルバムを聴いて〈努力を積み重ねた人が到達できる作品だな〉と思いました」
中塚「自分の努力というよりは、現場が育ててくれたんだと思います。20年間、色んなワンパク連中と切磋琢磨してこられたからこそなのかな、と」
――そのひとりがナカムラさんだということですね。
中塚「その通りですね」
20年積み重ねたからこその〈一筆書き〉
ナカムラ「ちなみに、中塚くんは自分で特に印象的だった楽曲はある?」
中塚「アルバムのラストになっているアニメ『がっこうぐらし!』に提供した楽曲“We took each other’s hand”はもう随分前、“JAPANESE BOY”と同じ時期につくったものだったんだけど、その頃ぐらいから、〈浮かんだものを自然に形にしよう〉という、今回のアルバムに繋がるテーマを考えはじめた記憶があります。
“JAPANESE BOY”はサウンド的には結構ガチャガチャしているものの、実際にはすんなりとできた楽曲で、“We took each other’s hand”も、音楽性は全然違いますけど、まるでところてんを押し出すようにするっと曲を形にした、つなぎ目のない一本麺のような感覚でできた楽曲で。曲順は最後ですけど、今回のアルバムを〈素直な作品にしよう〉と思いはじめた最初のきっかけになる曲でした」
――この曲をアルバムの最後にした理由はあるんですか?
中塚「それは単純に、最後っぽかったからです(笑)。
僕はブルース・リーが大好きなんですけど、映画『死亡遊戯』は音楽を(『007』シリーズの音楽などで知られる)ジョン・バリーが担当していて、その中でも僕は、コーリン・キャンプが歌っているエンディング曲“Will This Be The Song I’ll Be Singing Tomorrow”の〈どこも直さなかったんじゃないかな?〉と思えるような、サラーっとつくった感じがすごく好きなんです。“We took each other’s hand”は、自分でそういう曲がつくれたと思えた楽曲でした」
ナカムラ「まるで一筆書きみたいにね」
中塚「そう。そういう雰囲気は今回のアルバムを通して大切にしたことだったと思います」
ナカムラ「でも、これが一筆書きと言われるとぞっとするけどな(笑)。経験がこうさせてしまったっていうことだよね。
この間もちょっと中塚くんの転調のことについて話したけど、〈何も考えずにあの転調、行く?〉と思うような、複雑な構造をしている楽曲があるんです。これが一筆書きでできるっていうのは、やっぱりちょっとおかしいよ」
――中塚さんは「自然に」と言っていますが、ただの一筆書きではないということですね。
ナカムラ「そういうことですよね。20年積み重ねてきたからこそできる一筆書きというか。
そう考えると、田中知之さんと3人で制作した東京五輪の開会式の音楽も、まさにその一筆書きでした。あのときは制作の時間が24時間ほどしかなかったけれど、田中さんや中塚くんとじゃなかったら、あんなに円滑に進められなかったかもしれない。今の話を聞いてあのときのことを思い出しました」
中塚「ヒロシと一緒にスタジオで制作するのは、そのときが初めてだったんですよ」
ナカムラ「不思議な感覚だったよね。シンセを鳴らして〈これええなぁ〉と言っていたら、〈それ送って!〉と後ろから中塚くんの声が聞こえるという。時間の関係もあってモニターを2セット用意して複数の曲をひとつのスタジオで進めていったので、お互いの作業を聴きながら自分も作業を進めていくという状況で。
今考えると、よく完成したなとも思うんですけど、それも田中さんをはじめとする3人の経験があったからこそのかな、と思います」
中塚「ひとりひとりの経験があったからこそ、あの制作ができたのかな、と思います」
当たり前のことに〈YEAH!〉
――8月のはじめにはi-depの新曲“YEAH!”もリリースされました。この楽曲はライブに合うような雰囲気になっていますね。
中塚「サビのメロディが最高だった!」
ナカムラ「今回は制作の順番がいつもとは違って、まずはドラマーの(狩野)丈二が作詞をしてきたことからはじまりました。53か54歳にして第一子が生まれた彼が、〈君がいるだけで僕は天国だよ〉という、自分の子供に向けた歌詞を書いて、〈ヒロシくん、これにメロディをつけて〉と送ってきたんです。
そこから、ギターの井村(達也)さんが弾いたフレーズも届いたりする中で、自分がそれを踏まえてメロディを考えていくことになりました」
中塚「へええ」
ナカムラ「コロナが流行っていた最中にその制作がはじまったんですけど、その後サビ以外が浮かばないなと思っているうちに、徐々にコロナでの規制が解除される時期になって。その結果、たとえば誰かと一緒に会って話したり、飲んだりできることとか、そういう〈ちょっとしたことにもっと喜んでいこう〉ということを歌った曲になりました。
僕らはつい忘れがちですけど、たとえば病気になった人からしたら、今日も生きていること自体が〈YEAH!〉かもしれないし、人生の中でどれだけ〈YEAH!〉と思えるかが一番大事やな、と思ったというか。それで、Canaちゃんにも〈裏声で歌うのはやめよう。イェーーーイ!!って声出そう〉と言ったりしました。
〈自分たちの当たり前を忘れんなよ!〉〈当たり前のことを当たり前に『YEAH!』と言えることに感謝しようぜ〉ということを歌詞にしてみたんです」
中塚「サビの〈YEAH!〉という前の、Canaちゃんの声が昇っていくところが最高でした。その部分もそうだけれど、i-depの音楽って、人をワーッとさせちゃう何かがあるよね」
ナカムラ「自分の場合は、根底に何かちょっとムカついていることがあって、それを音楽にしているというのがちょっとは関係しているのかもしれない。ある種のレベルミュージックというか。
あと、i-depの場合は僕だけじゃなくて、それぞれ別々にも活動しているメンバーがいるからこそ、集まるとこういう音楽ができあがる、という感覚もありますね」
過去も未来もひっくるめて今を大事にしたい
――i-depのみなさんは、中塚さんのソロデビュー20周年を記念した8月20日のライブにも出演されていますね。
ナカムラ「中塚くんはいつも、大事なときに声をかけてくれるんですよ。中塚武が20周年を迎えるということは、来年で僕らも20周年です。お互いに20年も活動してこられたなんて、本当に嬉しいことですよね」
中塚「実は20周年イベントを企画するとき、最初に声をかけたのがi-depでした。日程的に無理だと言われたら違う日にするために、日付を決める前に声をかけました」
ナカムラ「確かに、そうだったわ!」
中塚「それぐらい、僕の中ではi-depやナカムラヒロシはすごく大事な存在で、僕自身〈i-depのライブが観たい〉と思っていたんですよ」
ナカムラ「いや、それは本当にありがたいことですね」
――中塚さんご自身は、20周年を迎えたことについてどう感じていますか?
中塚「僕自身は、実は20周年ということをそんなに意識しているわけではなかったりします。生涯現役でいるためには、過去を振り返る時間が多すぎるのはよくないことだと思うので。
ただ、一方で〈今だけよければいいじゃん〉というのも、あまり好きではないんです。もちろん、今はすごく大事だけれど、今だけよければいいという感覚にはなりたくない。むしろ過去も未来も全部ひっくるめた上で、今を大事にして活動したい、と思ったりしています」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2023年8月2日
品番:UVCA-9003/4
フォーマット:CD2枚組(初回限定盤)
価格:4,950円(税込)
TRACKLIST
DISC 1
1. Ladies and PAC-MAN
2. Forever and Ever (with orange pekoe)
3. Parade
4. Ms. 3D
5. Dreaming of the Future
6. CRYPTOMERIA
7. 僕は知ってる (with PET)
8. Just a Minute, please ~ Flashback
9. KIREI
10. We took each other’s hand
DISC 2
中塚武ワークス集
1. 中塚武 “その着せ替え人形は恋をする”
2. Rhodanthe* “My Best Friends -Garland Ver.-”
3. 宇都宮隆 “Self Control(方舟に曳かれて)”
4. 花澤香菜 “裸足のvacation!!”
5. 星屑スキャット “星屑スキャットのテーマ (2018 new mix)”
6. petit fleurs “ぷちふるぱありぃ♡”」
7. 小泉今日子 “なんてったってアイドル(K25 Remix)”
8. 野宮真貴 “ぼくらが旅に出る理由”
9. WHY@DOLL “Show Me Your Smile”
10. 中塚武 “Winnie the Pooh”
リリース日:2023年9月6日(水)
品番:UVAL-9001
フォーマット:12 inch Analog
価格:3,850円(税込)
トヨタ〈プリウス〉CM曲
TRACKLIST
Side A
1. Dreaming of the Future
2. Dreaming of the Future (in the blue shirt remix)
Side B
1. Dreaming of the Future (FPM Crystal Version)
2. Dreaming of the Future (Sasuke Haraguchi Remix)
LIVE INFORMATION
中塚武 20th Anniversary Party “PARADE”
2023年8月20日(日)東京・渋谷クラブクアトロ
開場/開演:15:30/16:30
出演:中塚武 with イガバンBB/須永辰緒/田中知之(FPM)/ROCKETMAN/i-dep/星屑スキャッ ト/TRI4TH/videobrother
Guest:野宮真貴/orange pekoe/土岐麻子/神谷えり/akiko/多和田えみ/The SKAMOTTS Horns
DJ:後藤 “shima” ヒロシ(escapade!)/ 神谷タロー(escapade!)/wallflower(escapade!)
Food:東京カリー番⻑/おやつ屋acope
前売り/当日:4,800円/5,800円(いずれもドリンク代別/税込)
スタンディング/再入場可
■プレイガイド
イープラス:https://eplus.jp/nakatsukatakeshi/
ローソンチケット:https://l-tike.com/nakatsukatakeshi/
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/nakatsukatakeshi-t/
お問い合わせ(キョードー東京):0570-550-799(平日11:00~18:00・土日祝10:00~18:00)
主催:株式会社J-WAVE(81.3FM)
企画制作:Delicatessen Recordings
PROFILE: 中塚 武
主宰バンド、QYPTHONEとしてドイツのコンピレーションアルバム『SUSHI4004』でデビュー。中塚武名義で7作のオリジナルアルバムをリリース。衝撃的なサウンドで日本の祝詞を新解釈した“JAPANESE BOY”が〈2020東京オリンピック開会式〉に使用され、話題となる。ソロ活動以外にも、数多くのアーティストへの楽曲提供・劇伴制作・CM音楽制作と幅広く活動。近年は、ディズニーの〈ピアノ・ジャズ〉シリーズの編曲、日本を代表するゲームキャラクター〈パックマン〉の誕生40周年記念アルバム『JOIN THE PAC』に参加、TVアニメ「その着せ替え人形は恋をする」の音楽担当、ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のリミックスアルバム『ぱか☆アゲ↑ミックス』に参加するなど、活動は多岐にわたる。
PROFILE: ナカムラヒロシ(i-dep/knowone)
2004年、イタリアのイルマ・レコーズよりデビューシングルをワールドリリース。〈SXSW〉や〈SUMMER SONIC〉などの大型音楽フェスにも多数出演し、国内外の音楽ファンから高い評価を得る。2009年にバンドとしての活動は休止し、i-depはナカムラヒロシのソロプロジェクトとして多数のアーティストのプロデュースやDJ活動を継続していた。バンドとしての活動休止から10年目となる2019年、オリジナルメンバーであるナカムラヒロシ(キーボード)、藤枝伸介(サックス)、井村達也(ギター)、高井亮士(ベース)、狩野丈二(ドラムス)、Cana(ボーカル)の6人が集結し、再びバンドとして本格的に始動。メンバーそれぞれのルーツであるエレクトロニックミュージック、ジャズ、ファンク、ボサノバをベースに様々な要素を取り込みオリジナリティあふれるサウンドへと変換するスタイルは、ポップでありながら唯一無二な世界を描き出し、色褪せることなくさらに進化を続ける。

