中塚武

中塚武の活動20周年を飾る、7年ぶりのオリジナルアルバムとして話題の新作『PARADE』。同作から、トヨタ〈プリウス〉のCMに起用されたことで多くの人にとって聴きなじみのある名曲“Dreaming of the Future”がシングルカットされた。その12インチ盤には、FPM(田中知之)、in the blue shirt、原口沙輔という世代の異なる豪華なプロデューサー/トラックメイカーが参加し、三者三様の解釈が施されたリミックスが収められている。

今回はこれを記念して、中塚と、音楽家の先輩として彼を深くリスペクトするin the blue shirtこと有村崚の対談をおこなった。収録は、2023年8月20日に開催されたイベント〈中塚武 20th Anniversary Party『PARADE』〉の翌日に実施。ハッピーなバイブスに溢れたライブで有村が受けた感動から対談はスタートし、2人の浅からぬ共通点から音楽人生論まで、話題は尽きることがなかった。

中塚武 『Dreaming of the Future』 P.S.C.(2023)

 

打ち込み音楽におけるライブの問題

――有村さんは昨日のライブをご覧になっていたんですよね。

有村崚(in the blue shirt)「そうです! (原口)沙輔くんと見たんですけど、〈中塚さんの人徳がとにかくすごい〉と話したんです。あと、沙輔くんはワンマンをしたことがないそうで、〈沙輔くんのキャリアと人気を考えたらやったほうがいいよ。みんな見たいはず〉なんて話もしましたね。

そもそも僕らが作る打ち込みの音楽は、ライブをする音楽じゃないという意識がどうしてもあって。でも中塚さんのライブは、がっつり演奏するじゃないですか」

中塚武 × 五十嵐誠 with Big Bandの2021年のライブ動画

中塚武「曲を作っている最中は、ライブのことはまったく考えていないんだけどね。だから〈これ、本当にやるの!?〉ってメンバーに言われる(笑)」

有村「僕にとって中塚さんはカットアップの先輩なんですけど、ビッグバンドを従えての演奏も中塚さんの本懐だったと改めて気づきました」

中塚「有村くんだって、ギターがめちゃくちゃうまいじゃん」

有村「いやいや。対外的に弾く機会はないですし、意図的に避けているところもあるんです」

中塚「どうして?」

有村​「面倒くさいから……。練習するのが嫌で(笑)」

中塚「わかる(笑)!」

有村​「あとラップトップの前でギターを弾くライブって、良くなった試しがなくて。

ライブで出す音の何割を人間が演奏しているかで、あかんくなる割合があるんですよね。9割が生演奏で1割が同期音源、というライブはよくあるじゃないですか。でも生演奏の割合を縮小していくと、急激におもんなくなる瞬間があるんです。例外的に歌やラップやと9割が同期でもいけるんですけど、それがギターになると〈ジャイアンリサイタル〉になっちゃう。打ち込み音楽のライブはマシーンオンリーにするか生演奏の割合を工夫するかしかなくて、成功例が少ないんですね。そういうインチキライブを、僕はすごく研究していて(笑)」

中塚「面白い(笑)! DJセットのことを〈ライブ〉と言う人もいるよね」

有村​「僕もそのタイプです。選曲をリアルタイムでしないとか自分の曲しかかけないとかそういう意味での〈ライブ〉なんですが、一般的な意味でのライブ性はないので難しいですよね。

たとえばライブ音源を、つまみを正確に操作しないとうまく鳴らない状態にしておくと、手順を覚えられないからうまくいかない。逆に音源をかけるだけだと何もしていないことになる。ライブでどれぐらいのことをせなあかん状態にしておくか、リスクをどれぐらい背負うかが、インチキライブの肝なんです(笑)」

〈in the blue shirt 3rd album “Park with a Pond” Release Party〉のダイジェスト動画

中塚「なるほどね。クインシー・ジョーンズのように全編生演奏で本人名義なのに、本人が何もやらないタイプのライブもあるよね。〈ジェイムズ・ブラウンは何もやっていない〉と言う人もいるくらいだけど」

――指揮者やプロデューサー名義のライブということですね。

有村​「現場監督と大工の関係ですね。〈現場監督は建築物を建てていない〉と言うのは野暮ですから、実際は作業する人もガントチャートを引いているだけの人もいるわけで、関わっている人全員が〈建てている〉んです」

 

in the blue shirt

中塚武の音楽は〈泣き〉ではなく〈笑い〉

――ライブの話題を続けると、有村さんが先ほど言っていた歌やラップについてはいかがですか?

中塚「ライブで歌が占める割合は、チートなぐらい大きいと思う。ただ、それはアジア特有なのかなと思うこともある」

有村​「どうでしょう? DJを楽しむ文化がないとか、日本人は演奏じゃなく歌ばかり聴くとか、よく言われますが、そんなことはないんじゃないかと思います」

中塚「いや、僕が言いたいのは、〈泣き〉のメロディがどれだけ好きかの問題」

有村​「それはあると思います。和音や旋律から想起される感情の問題ですよね。たとえば、久石譲の曲を聴いて〈歌がない〉なんて言う人はいないですから」

中塚「そう。昔、バンドでヨーロッパツアーをした時、ロシアに入った瞬間、感覚が急に変わったのが忘れられなくて。ライブのセットリストは同じなんだけど、盛り上がる曲が変わるの。泣きのメロディがある曲がウケるようになったんだよね。だから、〈ロシア以東はアジアなんだ!〉って気づいて。街や店でかかっている曲もロシアではかなりメロディアスで、東洋的な単音メロディの文化なんです。それが、歌への偏重に繋がっているのかなと思って」

有村​「日本だと、『情熱大陸』のテーマ曲ぐらいメロディを弾かないといけないわけですね」

――(笑)。バイオリンやピアノが、ボーカルの代わりにわかりやすい単旋律を奏でていると。

有村​「欧米の音楽にも口で歌えるリフやジャズのテーマ部分はありますが、単音のメロディとはちがいますもんね」

中塚「モチーフとしてのメロディだよね」

有村​「中塚さんの曲には、J-POP的な泣きメロがたまに入っていますよね。作品全体の中での割合は、かなり少ないですが」

中塚「僕は基本的に、音楽を〈笑い〉で作っているから。学生の時にテイ・トウワさんの音楽を聴いて、これは〈泣き〉の音楽じゃない、〈笑い〉だと思ったんだよね。YMOも絶妙にそう」

有村​「中塚さんはポップな音楽を作っていて、CMやテレビのお仕事もされているのに、泣き要素はたまに現れるだけでそれほど多くない。それが珍しいので、そこが中塚さんの〈変ポイント〉の一つだと思います(笑)」

――逆にin the blue shirtの作品は、センチメンタルなところがあると思うんです。

有村​「僕はそっちに偏っているからこそ、中塚さんの曲を聴くと、泣き要素を意図的に回避していると感じるんです。だから〈泣き〉がたまに現れると、意志を持ってぶち込まれているなと思います」

中塚「なるほどね。僕は性質上の問題で、〈泣き〉が得意じゃないんだよね。だからin the blue shirtのエモい部分、キュンとくる部分を、僕は度外視してしまっていると思う(笑)。手法のすごさに特化して聴いているんだよね」

in the blue shirtの2022年作『Park with a Pond』

有村​「クラブミュージック的な手法で音楽を作る人には、そのバランス感がそれぞれありますよね。たとえば、ハウスを作るのが上手でも和音の感覚に興味がなくて、レイヴスタブをぶち込む人もいるわけで」

中塚「その点、in the blue shirtの音楽は、コラージュ感がすごく強いよね。泣き要素も一つでいいところを、別々の要素を複数入れて継ぎ接ぎしているのがすごい」

有村​「厚かましいぐらいに入れていますね(笑)。今回リミックスさせていただいた中塚さんの“Dreaming of the Future”は、すごく綺麗なメロディで、和音の展開にも泣き要素がありますよね。ただ、全体的に過剰なエモさはないのがすごい。メロディや和音は自分の手癖に近いんですが、泣き要素を意図的にかわしているんです」

中塚「リスナーを泣かせられるなら泣かせてみたいんだけどね(笑)」

“Dreaming of the Future” 

『Dreaming of the Future』収録曲“Dreaming of the Future (in the blue shirt Remix)”

 

カットアップ レベル1:減衰音を切る

――ところで、カットアップと通常のサンプリングのちがいをお2人に聞きたかったんです。先ほど中塚さんがおっしゃった〈笑い〉や通常の感覚からズレる驚きのようなものが、カットアップの要なのではないかと思うのですが。

有村​「たとえばアクフェンのカットアップやコラージュって、素材が相当切り刻まれているじゃないですか。その粒度をデカくしていくと、ヒップホップのサンプリングぐらいになる。そういう切り刻む細かさというレイヤーが、まず一つありますね。あと、一曲の中でどれぐらい編集的な手法を使うか、そのバランスの幅があります」

アクフェンの2002年作『My Way』収録曲“Deck The House”

――なるほど。

有村​「昨日のライブでもやっていた土岐麻子さんが歌う“Your Voice”は、最初のドラムブレイクが開けて歌が入るところにドラムスタッター※が一瞬入るんです。〈ありふれた日々の〉って歌いはじめるのに、まったくありふれていないイカれた編集が施されている(笑)。全体的には生演奏を録音した曲なのに、スタッターが一瞬入る巧みな編集がされているだけで、めちゃめちゃ面白くなっているんです」

※細かく切り刻まれたフレーズをループさせるエフェクトのこと。スタッター(stutter)は〈どもり〉の意味

中塚武の2006年作『BOYS & GIRLS』収録曲“Your Voice”

――その一滴のエッセンスが、中塚さんの〈笑い〉ということなのでしょうね。

有村​「あれをできる人はあまりいないですね。そこも、中塚さんがいかに変かというポイントの一つです」

中塚「ヒップホップについては、MPCが出た時点で相当変わったと思うんです。それまでのスクラッチは音を切ったり頭を合わせたりするのが大変だったのが、MPCによってどんな素材でもポン出し、頭出しが簡単にできるようになった。その後、音の頭じゃなくお尻、デュレーションの最後を切ることに重点を置いた音楽が出てきて、カットアップが始まったと感じたんだよね。だから僕は、カットアップの面白さって〈お尻〉にあると思うんです」

有村​「そうなんですよ! 〈カットアップって何が面白いんですか?〉と聞かれた時、僕は〈ADSR(アタック・ディケイ・サステイン・リリース)における音量の推移の、R(減衰音)の制御です〉といつも答えるんです。

自然界には垂直にスパッと切られてなくなる音って、存在しないんですね。あらゆる音は減衰するんです。だから、ケツがブチッて切れる音は、それだけでおもろくなる。それがカットアップのレベル1なんです」

中塚「ピアノの音も、リリースを切るだけでカットアップに聞こえるんだよね」

有村​「YOASOBIのAyaseさんが使うリリースカットピアノが流行っていますが、あれも減衰をゼロにしてあるから人間が無意識に注目しちゃう音になっています」

中塚「で、僕はリバース(逆再生)がカットアップのレベル2だと思うんです。音のお尻に重点を置いて、リバースでパッパッと編集していくこと――それをわかっている人のカットアップは面白い。うまくできない人もいるから、カットアップはセンスによるとしか言えないかも」

有村​「中塚さんが最初にカットアップをやったのは、何でだったんですか?」

中塚「最初はMPCだったかな?」

有村​「なるほど。そういう話をするために、今日はカンペを準備してきたんです(笑)。中塚さんが何年にどの作品を作ったかを年表化して、横軸に当時のテクノロジーが何だったかを表にしたんですよ」

中塚「わーお!」

有村​「ファーストアルバム『JOY』(2004年)では、音がまだ切れてないんです」

中塚「そう! その通り!」

中塚武の2004年作『JOY』収録曲“Cherie!”

有村​「でも、セカンド『Laughin’』(2005年)では完全に切れている。世間的にもカットアップ技法が洗練された時期ですが、中塚さんが何の機材を使っていたかが気になるんです」

中塚武の2005年作『Laughin’』収録曲“Melody Fair”

中塚「僕はずっとDigital Performerを使っているんだけど、Digital Performerって元々Performerっていうオーディオ編集ができないMIDIシーケンサーだったのね。オーディオ編集ができるようになって、Digital Performerになった。そこが始まりなんです」

有村​「じゃあ、ソフトウェアで編集を始めたのは相当早いんですね」

中塚「そうだね。QYPTHONEをやっていた頃は、サンプラーのS500をMIDIコントローラーで操作していたかな。

当時、僕はナムコにいたのですが、ゲームで言うとハードの世代はNINTENDO64で、コントローラーに3Dスティックが付いた時期だったんです。で、僕が仕様を書いて、NINTENDO64のコントローラーをMIDI仕様にして1オクターブの音が出せてスティックでベンドできる基盤を会社の研究部の人に作ってもらったんですよ。それをライブで演奏していました」

有村​「そんなことをやっていたんですか!?」

 

ミニマルハウスの洗礼から4つ打ちDJに傾倒

――面白い話ですね。一方で、カットアップなどの編集技法とともに、ビートも重要な要素だと思うんです。

有村​「中塚さんの気になるポイントがもう一つあって、セカンドから2ステップ/UKガラージ感のあるダンスミュージックのエッセンスが急に現れるんです。2000年にはMJ・コールをはじめとする2ステップのアーティストが既に流行っていたわけですが、中塚さんの場合はどこから来たんでしょう?」

中塚武の2006年作『GIRLS & BOYS』収録曲“Stars In Your Eyes”

中塚「鋭いね~! それは、DJをやりはじめたタイミングが大きいんです。

2004年頃にバンドでオーストリアのフェスに呼ばれて行ったことがあったのね。田舎のお城を借り切って、各部屋で演奏するすごいフェスだったんだけど、僕らはアジアのバンドだから〈エキゾチックだ〉〈PIZZICATO FIVEみたい〉って結構ウケたんです。僕らが終わったのは午前4時くらい。その後は、イギリスのミニマルハウスDJのティム・“ラヴ”・リーでした。〈えっ、今レコード替えたの?〉って思うようなミニマルハウスを彼は延々とかけていて、観客がいなくなっちゃったんだよね。僕らはライブが終わったあと遊びに出ていたんだけど、2時間後に楽器をピックアップしようと戻ってきたら、部屋がパンパンになっていたんです。かけている曲は、2時間前と変わらない〈ドッチッドッチッ〉っていうミニマルハウスなんだけど(笑)」

有村​「火を入れた状態をずっと保っていたわけですね」

中塚「そう! まさに炭火みたいな感じ(笑)。〈これはかっこいいな〉と思って、日本に帰ったらDJをやろうって決意したの」

有村​「そんな洗礼を受けたんですね。DJって、良い感じの7インチをかけていくセレクター的なDJと、ちゃんとミックスする4つ打ちマナーのDJがいるじゃないですか。当時、中塚さんが遊びに行っていた現場って、どっちが主流だったんですか?」

中塚「東京では、〈いかにレアなものを知っているか〉というセレクター的なDJが主流だった。オルガンバーが全盛期だったからね。僕のバンドもオルガンバーで定期イベントをやっていたし。

だけど、ティム・“ラヴ”・リーを見て帰ってきて、まずスペイン坂にできた直後のLA FABRIQUEというジャミロクワイがプロデュースした箱に行って、〈イベントをやりたい〉と掛け合ったんだよね。それから毎日練習して、4つ打ちだけをかけるDJを始めて」

――中塚さん史の転換点ですね。

中塚「ダフト・パンクがブレイクした時にフレンチエレクトロの萌芽は芽生えていたから、LA FABRIQUEでもおしゃれでライトなエレクトロやフレンチハウスのイベントをやっていたけど、当時はゴツい人たちが多くて、実は意外と怖いムードだったの。

そんなこんなで時代の流れとリンクしているように見えるかもしれないけど、僕はそれと関係なくミニマルハウスやトライバルハウスのDJをやっていたんです。僕がダンスミュージックに傾倒したのは、個人的な経験からなんだよね」

有村​「世間的な流れ、リアルタイムのムーブメントとシンクロしていたわけじゃないと。そういうことなんだ! 4つ打ちの懐の深さって、そういうところですよね。

フレンチエレクトロといえば、2010年作の『ROCK‘N’ROLL CIRCUS』でその要素が出て来るじゃないですか。あれもトレンドからズレていて、なんでなんだろうなと。ジャスティスがブレイクするのが2007年頃だから辛うじてその影響かな?とか、めちゃくちゃ考えていたんですが」

中塚武の2010年作『ROCK‘N’ROLL CIRCUS』収録曲“On and On”

中塚「あれはね、フレンチじゃないの。良いノコギリ波が入ってきたから、使い倒せるなと思って(笑)」

有村​「あ~! 機材的な更新があったんですね!」

中塚「そう。だから、自分の名義で出すものに関しては、世間的な流行とほぼ連動していない。全部、個人的な動機で作っているんだよね。僕は流行りものに対するアンテナは低いというか、むしろアンテナを出していない」

有村​「今、すべての謎が解けました」

中塚「有村くん、すごい分析能力だな~! 怖い(笑)」

 

興味があるのは音楽文化ではなく手法

――音楽シーンって、流行にキャッチアップできるかどうかのレースが重要でもありますよね。

有村​「今キてる最新のものに対して順張りするのか逆張りするのか、そのポジション取りにどうしてもなりがちですからね。たとえば、最近はアンダーグラウンドもNewJeansなどのK-POPも、UKのダンスミュージックのリバイバルが来ていますよね。その流れに順張りで乗るのか、〈俺はアメリカのトラップをやるわ〉などと逆張りするのか、そういう感覚のちがいがクラブミュージックには常にある。それが、中塚さんにはないんです(笑)」

中塚「順張りも逆張りも、流行りを意識してることには変わりないからね。もし流行りを意識した曲を作るんだったら、自分の名義じゃなくて使い捨てのユニット名でやるかな。自分の名義でやっちゃうと、自分の歴史、地層になっちゃうから、〈ここでこれに飽きたんだ〉という記録もはっきり残っちゃうじゃん」

――なるほど。

有村​「中塚さんの4つ打ちの曲って、DJでかけられるような、4つ打ちとしてちゃんと機能するものになっているんですよね。浅知恵や付け焼き刃で作られたクラブミュージックっぽい曲って、そこがダメなものが多いんです。そういう風に中塚さんはマナーを理解している人しか行けない地平に立っているのに、世間的なトレンドに沿っていないというのが奇妙だなと(笑)」

中塚「ミニマルハウスのロングミックスの手法のかっこよさだけを追求していたから、こうなっちゃったんだろうね。

僕はセレブや素人がDJをやるような文化が苦手なんだけど、クラブミュージックの楽しさって、そういう周辺の風俗を全部取り込んでいくところにもあるじゃない。でも僕は、文化やキラーチューンじゃなくて手法にしか興味がなかった。ヒップホップも同じで、文化じゃなくてスクラッチの技法とかに興味があったんです」

有村​「中塚さんがヒップホップ的なサンプリングをしている曲って、本当にないですよね。中塚さんのサンプリングがMPCによるものじゃないのは、直感的にわかります」

中塚「そういえば、スタッターっていつからやるようになったんだろう?」

有村​「それも昨日調べていたんですけど、93年頃からやっていたみたいです。ブライアン・トランソーが自分の技法を落とし込んだ、iZotopeの〈Stutter Edit〉というプラグインがあるんですよね」

中塚「93年って早いね」

有村​「89年にミュージ郎※が出たので技術的には可能で、オタクはやっていたんでしょうね。97年にはCorneliusの『FANTASMA』が、翌年にはWindows 98が出た、という時系列です。そう考えると、中塚さんは最新のものをリアルタイムで取り入れていった技術オタクタイプじゃないんだろうな、と推測していたんですよね」

※ローランドが発売したDTM用のソフトウェアや音源のバンドル。88年に発売された〈ミュージくん〉の上位互換製品

中塚「そうだね。僕、技術由来の音楽って全部〈テクノ〉だと思っているの。エッジーな技術を駆使して聴いたことのない音を出して、後進に示唆を与えるテクノ気質の音楽が得意な人たちっているじゃない? そういう人に、自分はなれないんだよね。たとえば、FPMの田中(知之)さんは、そういう〈テクノ〉をポップに落とし込めるんだけど」

有村​「直輸入じゃなくてポップに翻訳する、そのすごみですよね」

 

音楽をやる理由は勝ち負けがないから

――先ほど、中塚さんは「最新の音楽に対してアンテナを張っていない」と話されていましたが、一方で若手のフックアップをされていますよね。

有村​「そうなんですよ! そんな人が突然、僕にDMを送ってくるわけないので※、嘘を吐いていると思います(笑)」

※in the blue shirtがファーストアルバム『sensation of blueness』(2016年)をリリースした後、中塚は有村に〈ファンです〉とTwitter(現X)でDMを送ったという

中塚「単純に、新しい音楽に対するリスナーとしての興味は常にあるからね。新しい音楽は、いつでも耳が聴きたがるじゃない。でも、自分の音楽に反映させようとは全然思わない。

たとえば、in the blue shirtを発見して〈うわっ、かっこいい!〉と思ったら、その手法を自分の曲に内緒で取り入れて、連絡を取らない人もいるかもしれない。でも僕は〈他人の音楽は他人の音楽、自分の音楽は自分の音楽〉という考え方だから、in the blue shirtを見つけた時に〈ファンです!〉とすぐ言っちゃうんです(笑)」

有村​「大事な話ですね。そういう技術交流における仁義の切り方は、人によってちがいますから」

――なるほど。先ほどの話に繋げると、中塚さんの音楽は徹底的に個人的な部分から生まれていると。

中塚「新しい曲を作るとなったら、自分の中から出した方がいいと思っているんですよね。他の人が持っていない自分の個さえ出せれば、それが他人にとっては新しさに映るだろうし」

有村​「そういう意味では、音楽って優劣をつけづらいから、競争になりづらいじゃないですか。ただ、最新のトレンドにキャッチアップできるかどうかは競争やゲームに近いから、わかりやすく優劣をつけたがる人が得意なんです。でも、中塚さんの音楽に対するスタンスには、競争的な要素や〈誰よりも秀でてやろう〉という思いがない。面白さを求めて、それに駆動されて音楽をやっているんだろうなって」

中塚「そう! すごいね! 今、びっくりしたよ。僕が音楽を始めたのは、まさに勝ち負けがないからなんだよね」

有村​「僕は、勝ちようがないスタート地点から音楽を始めているから、勝ち負けを放棄しているんです。そうすると、勝ち負けを放棄している人が、なんとなくわかるようになる(笑)。

中塚さんの昨日のライブは、レースで他人を打ちのめしてきた人にはできない雰囲気のライブだったんです。ライブの最後の方で、〈みなさん、趣味が合いますね〉と話されていたじゃないですか。あの言葉がすべてだと思うんですね。つまり、ステージに立っていた人たちも、中塚さんの曲を聴きに来ていた僕らも、戦闘民族ではないんですよ」

中塚「有村くんに〈音楽は勝ち負けじゃない〉というスタンスを見破られたのはびっくりしたな。僕は『パックマン』が大好きでゲームを作る仕事に就いたんだけど、僕がやるゲームってパズルやシミュレーションばかりなんですよ」

有村​「なるほど! 相手を打ち負かす格闘や対戦ものじゃなくて、己との闘い、求道者のゲームですね」

中塚武の2023年作『PARADE』収録曲“Ladies and PAC-MAN”

――そう考えると、中塚さんがヒップホップの手法のみに興味があるというのはよくわかります。DJやラップカルチャーにはバトル的な側面もありますから。

中塚「もちろん文化を学んで成り立ちをセットで理解した方がいい側面もあるんだけど、そういうものを全部受け入れるのが元々好きじゃなくて」

有村​「ヒップホップの4つのエレメントを全部押さえていないやつはワックだ、という価値観もありますからね。そういうルールを設けることで、そこまで至っているやつと至っていないやつ、内野と外野を分けて差をつけられるから、〈あいつは偽物だ〉という競争の勝敗がわかりやすくなる」

中塚「それはヒップホップに限らず茶道とか、色んな文化に存在するだろうね」

有村​「J-POPのフィールドでも、〈そんなに転調せんでも〉という詰め込みゲームがありますし」

中塚「この間、〈こんなのはシティポップじゃない〉という論争をネットで見て笑っちゃったんだよね(笑)」

――オーセンティックなものしか認めないという価値観は、どの領域にもありますね。

中塚「原理主義だよね」

有村​「そういうものから距離を置きたいから音楽をやっているのに(笑)!」

中塚「ほんとそう!」

――権威や中心こそを是とする価値観ですよね。

有村​「そう。音楽って、音という意味のわからない、得体が知れないものを扱うわけじゃないですか。得体が知れないから面白くてかっこいいのに、わかりやすい中心軸を通したがる欲望がどうしても湧いてきてしまうんです」

中塚「そうなの! だから、何でもふわっとしている状態の時が、いちばん面白いんだよね。ふわっとしているものに誰かが名前をつけた時点で、面白くなくなっちゃう。名前がつく前の状態がいいんです」

 

内から表現する音楽家は枯れない

――お2人は、レースやゲームから距離を置いている音楽家なんですね。

中塚「僕がin the blue shirtの音楽を好きなのは、有村くんが優劣をつけないタイプの人だからだと思うんです」

有村​「そのタイプかどうかは曲に出るので、絶対にわかりますね」

中塚「それが今日、よ~くわかった(笑)。だから有村くんは、他人の音楽も大切にするだろうし。

外から輸入した何かじゃなく内から出ている音楽だなって、聴いていてわかるんです。じゃないと、あんなコラージュの仕方はしない(笑)。in the blue shirtの音楽はわかりやすくなくてすごく歪だったから、〈個人で試行錯誤しているタイプの人だ〉って確信したんだよね」

in the blue shirtの2016年作『sensation of blueness』トレーラー

――有村さんは作品をリリースするたびに、ブログに解説を書いていますよね。それが毎回面白いのですが、そこでもやはり個人的な出来事や内面的な動きと作った音楽との関係が綴られています。

有村​「他人からしたらどうでもいいことなので、トレンディではないんですよ」

中塚「だけど、個の内から出ているから新しく感じるんだよ。思うんだけど、僕や有村くんのように内から表現するタイプの人って、源泉が枯れないんだよね。アンテナを常に高くして新しいものを外から取り入れている人の方が枯れなさそうだけど、アンテナってやっぱり錆びちゃうんです。音楽以外の何かをモチベーションにして音楽に変える作業が、重要なんですよね」

有村​「音楽を参照した音楽より、内から表現する方が豊かで広い感じがしますね」

中塚「他人の音楽を参照して音楽を作ったって自分の人生においては意味ないから、自分の名前でやる必要はないなって思う。それは、自分の人生のための音楽じゃないと思う」

有村​「なので、中塚さんに褒められるのは、〈褒め〉の中でも名誉ランクが高い、誉れ高さがすごいんですよ(笑)。〈貶し〉にもどうでもいい貶しと真摯に受け止めなきゃいけない貶しがあるんですけど、〈褒め〉にもそれがあって。評価が定まっていないものに無条件の称賛を与える人って、やっぱりすごいんです。流行っているもの、誰もが認める明らかにすごいものに〈追いすごい〉を与えることは、無しか生まないですから」

――有村さんも、下の世代との交流やフックアップを積極的にやっていますよね。

有村​「僕も後輩に対する誉れ高さを高めたいんですけど、そのためには結局、自分が頑張らなきゃいけないんです。中塚さんは、積み上げてきたものがあるから今の誉れ高さを生んでいるので」

中塚「いやいや、僕はもう一生こうだと思うし、変わりようがないだろうね」

有村​「僕は音楽を作りはじめたのが遅かったですし、家族や親戚に音楽をやっている人どころか自営業の人もいないので、いま偶然こうなっているんです」

中塚「環境まで同じだね。僕の家庭にも音楽の素地は全然なかったし、楽器を始めるのも遅かったから、有村くんの話を聞いていると、やっぱり似ているなと」

有村​「そういう同じ性質を持っていることは、その人の音楽を信用していい大きな理由になりますよね」

中塚「フィルターの性質が似ているんだね」

有村​「自分以外にも同じ状況の、機会がないだけの人間はいるやろうなと思うことが多いんですね。たとえば〈お父さんが音楽をやっていた〉とか〈家にジャズのレコードがたくさんあった〉とか、そういうミュージシャンは多いじゃないですか」

――文化資本の問題ですね。

有村​「そう。でも、お父さんが山下達郎を聴いていた家庭で育った子も、再生機もない家庭で育った子も、素体的なポテンシャルは同じぐらいあるはずなのに、後者の子たちの可能性が潰れていっているのが悲しいんです。自分の活動の動機は、そういうところにもありますね」

 

音楽に失敗はない

――本日はありがとうございました。お2人の共通点や共感ポイントが、かなりはっきり言語化されたと思います。

中塚「有村くんの話、めちゃくちゃ面白いね! 僕も講義を受けたいよ※」

※有村は2023年4月から京都精華大学の非常勤講師を務めている

有村​「こんなに褒められるとは(笑)。僕と沙輔くんは、〈引き続き頑張ろう〉というメッセージを昨日のライブでもらったんです。長いキャリアを経て、こうなれるように頑張ろうと」

中塚「責任重大だね。〈こんな風になっちゃうんだ〉と思われなくてよかったけど(笑)」

有村​「僕らのようなスタンスだと、失敗しようがないですから」

中塚「音楽に失敗なんてないからね。誰かの耳を壊しさえしなければ(笑)」

有村​「大暴れして会場の機材をぶっ壊すとか、倫理に反することは別ですね(笑)。本質的に、音楽に失敗はないですね」

2023年7月13日に配信された〈中塚武「Dreaming of the Future」先行配信&アナログ発売記念【トーク番組生配信】〉。in the blue shirt(有村崚)が出演

 


RELEASE INFORMATION

中塚武 『Dreaming of the Future』 P.S.C.(2023)

リリース日:2023年9月6日(水)
品番:UVAL-9001
フォーマット:12 inch Analog
価格:3,850円(税込)
トヨタ〈プリウス〉CM曲

TRACKLIST
Side A
1. Dreaming of the Future 
2. Dreaming of the Future (in the blue shirt remix) 

Side B
1. Dreaming of the Future (FPM Crystal Version) 
2. Dreaming of the Future (Sasuke Haraguchi Remix) 

 

中塚武 『PARADE』 P.S.C.(2023)

リリース日:2023年8月2日
品番:UVCA-9003/4
フォーマット:CD2枚組(初回限定盤)
価格:4,950円(税込)

TRACKLIST
DISC 1
1. Ladies and PAC-MAN
2. Forever and Ever (with orange pekoe)
3. Parade
4. Ms. 3D
5. Dreaming of the Future
6. CRYPTOMERIA
7. 僕は知ってる (with PET)
8. Just a Minute, please ~ Flashback
9. KIREI
10. We took each other’s hand

DISC 2
中塚武ワークス集 
1. 中塚武 “その着せ替え人形は恋をする”
2. Rhodanthe* “My Best Friends -Garland Ver.-”
3. 宇都宮隆 “Self Control(方舟に曳かれて)” 
4. 花澤香菜 “裸足のvacation!!”
5. 星屑スキャット “星屑スキャットのテーマ (2018 new mix)”
6. petit fleurs “ぷちふるぱありぃ♡”」 
7. 小泉今日子 “なんてったってアイドル(K25 Remix)”
8. 野宮真貴 “ぼくらが旅に出る理由”
9. WHY@DOLL “Show Me Your Smile”
10. 中塚武 “Winnie the Pooh”

 


PROFILE: 中塚 武
主宰バンド、QYPTHONEとしてドイツのコンピレーションアルバム『SUSHI4004』でデビュー。中塚武名義で7作のオリジナルアルバムをリリース。衝撃的なサウンドで日本の祝詞を新解釈した“JAPANESE BOY”が〈2020東京オリンピック開会式〉に使用され、話題となる。ソロ活動以外にも、数多くのアーティストへの楽曲提供・劇伴制作・CM音楽制作と幅広く活動。近年は、ディズニーの〈ピアノ・ジャズ〉シリーズの編曲、日本を代表するゲームキャラクター〈パックマン〉の誕生40周年記念アルバム『JOIN THE PAC』に参加、TVアニメ「その着せ替え人形は恋をする」の音楽担当、ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のリミックスアルバム『ぱか☆アゲ↑ミックス』に参加するなど、活動は多岐にわたる。

PROFILE: in the blue shirt
91年生まれ、大阪在住、有村崚(ありむら・りょう)によるソロプロジェクト。自身の作品のほか、TVドラマの劇伴、CMやウェブ広告の音楽も手がける。2022年8月にサードアルバム『Park with a Pond』をリリース。