『PIANO MAN PLAYS PIANO』のピクチャー・レーベル(イメージ)

 

〈Disney Rocks〉諸作をはじめ、ジャズにハウスにR&B、V系から宝塚……とさまざまな切り口でディズニー映画ソングのカヴァー・コンピを発表してきたシリーズの最新作『PIANO MAN PLAY DISNEY』が3月11日にリリース! こちらは日本の音楽シーンで活躍するピアノ・インスト・グループ/アーティストが参加し、オリジナルの良さを活かしながら各々のカラー/スタイルでディズニー曲に向き合った一枚となっている。今回は、そんな同作の参加アーティスト&収録曲を徹底解説! ピアノが歌う極上カヴァーをぜひお楽しみください。

VARIOUS ARTISTS PIANO MAN PLAYS DISNEY Walt Disney(2015)

 

★fox capture plan
彼こそが海賊(パイレーツ・オブ・カリビアン)
レット・イット・ゴー ~ありのままで~(アナと雪の女王)

 『PIANO MAN PLAYS DISNEY』の企画段階からメンバーがアドヴァイザー/影のオーガナイザー的な形で携わっていたというピアノ・トリオ、fox capture plan。今回コメントを寄せてくれた岸本亮(ピアノ)は、幼い頃から自宅にあったディズニーのビデオをよく観ていたそうで、「特に〈ビビディ・バビディ・ブー〉や〈ハイ・ホー〉といった劇中の印象的な場面で使われる挿入曲は、幼稚園や小学校の合唱でも歌った記憶があったり、〈星に願いを〉のようなメロディーが綺麗な曲は、母がピアノ教室で生徒さんに教えたりしていたので、そう考えると幼少期からあたりまえのように身の回りにディズニーの曲が溢れていましたね」と語っている。

 そんな〈ディズニー育ち〉と言っても過言ではない岸本擁するfcpが今回カヴァーしたのは、〈パイレーツ・オブ・カリビアン〉のテーマソング〈彼こそが海賊〉と、昨年の大ヒットも記憶に新しい「アナと雪の女王」でお馴染みの〈レット・イット・ゴー ~ありのままで〉。彼らの作品でもさまざまな楽曲のカヴァーを披露しているので、リアレンジの作業自体は慣れたもの。

「2曲ともスケールが大きくてもともと好きな曲だったので、難しいという意識はなく光栄に思いました。原曲のイメージを大切にしつつ、自分たちらしさも削がないように、アレンジに入る前の時点で意識してましたね。気負わず、いつも通り3人それぞれのプレイ・スタイルでやろうと」。

なかでも〈彼こそが海賊〉のほうはバンドみずからチョイスしたそうで、荘厳で重々しい空気感を持つオーケストラ・サウンドのナンバーが、貫禄はそのままにスリリングなジャズ・アレンジで生まれ変わっている。

「自分たちの最新作『UNDERGROUND』のレコーディングの時、〈スタジオハピネス〉のオーナー兼エンジニアで、今回の『PIANOMAN PLAYS DISNEY』のプロデューサーでもある平野さんに、〈僕この曲好きなんですよね〉って提案したのがきっかけだった気がします。アレンジに関しては少し専門的な話になってしまいますが、原曲が3連符を強調したシャッフル・フィーリングなのに対し、fox capture planのアレンジはベースとドラムの2人がダブステップのリズム・パターンを用いた16ビートのフィーリングで演奏しました。しかし、ピアノだけはあえて原曲のメロディーを崩さずに3連符のフィーリングのままメイン・テーマを演奏しています。リハーサル・スタジオで偶然生まれたアレンジですが、このポリフォニックな組み合わせが斬新さを際立たせていて、メンバー3人とも気に入ってますね」。

 一方の〈レット・イット・ゴー ~ありのままで〉は、ディズニーの名曲群のなかでも現時点で抜群の話題性を誇るだけに、気を遣った面もあるのかなと思ったが……。

「そこまで気を遣ったという感じはありませんが、朝の情報番組とかで何度も聴いていたので、自分たちのところへ公式カヴァーのオファーがあった時は驚いたのと同時に嬉しかったですね。もともとバンドでも海外ア—ティストの歌モノ曲のカヴァーはよくやりますが、メロディーはもちろん、アレンジまで原曲を尊重することが多いです。なので今回もメンバーと相談して、そういう意識で取り組みましたね。曲の展開が多くてドラマティックなので、その方向性で行くのがいちばん良いと思いました」。

 そう語る通り、オリジナルが持つ軽やかさや飛翔感、サビメロのダイナミズムを見事にfcp流で再現しており、それはそれは鳥肌もの。何度もリピートしたくなる仕上がりだ!

【参考動画】4月8日にリリースされるfox capture planのミニ・アルバム&ライヴDVD『UNDERGROUND』
収録曲“beyond the beyond”

 

★Schroeder-Headz 輝く未来(塔の上のラプンツェル)

「最初は、〈あんなにたくさんある名曲のなかから、いったいどの曲を!? とても自分じゃ選べない……〉と思いました(笑)。古いディズニー映画の曲は、ジャズのスタンダード曲となっていたり、ポピュラー・ミュージックのクラシックとして昔からたくさんの人に親しまれている、僕も好きな曲がいっぱいあります。実は曲は知っていても、映画自体はちゃんと観ていないものも結構あるような気がしますね」。

 確かに。よく知っている曲でも、実はディズニー映画のテーマソングだということを知らないことだってあるかもしれないし、一方で初めて耳にするナンバーだってあるはずだ。そのいずれかであっても、驚きと共に新しい扉を開いてくれるであろうカヴァー曲を披露したのは、佐野元春堂島孝平土岐麻子など数々のアーティストのサポート/共演などでも活躍する渡辺シュンスケのジャズ・プロジェクト=Schroeder-Headz。彼なら間違いない!と、聴く前からその仕上がりに確信めいた期待を寄せていたが、やはり素晴らしい。今回、渡辺が担当したのは「塔の上のラプンツェル」より〈輝く未来〉。オリジナルは劇中でとってもロマンティックなシーンで使われた、うっとりするような温かいデュエット曲だ。

「改めてしっかり聴いてみると、2人の男女の主人公が、前半・後半とで歌い分ける構造になっていて、女性と男性それぞれの声域に合わせて転調しつつ、絡み合いながらも最後は互いにハモってひとつになるという、デュエット・ソングとしても大変良く出来た曲だと感心しました。その後に、これをピアノ一本にどうやって落とし込むか、というところをしばらく悩みましたね。曲が持つメロディーの美しさを、自然に歌うように弾きたいと思いました。そのうえで、新しさや意外性を活かした現代のサウンドとして無理なくシンプルに曲を響かせられたらいいなと」。

 ファンタスティックな原曲のムードを引き継ぎながら、その合間を穏やかで快活なピアノのメロディーが吹き抜けるSchroeder-Headzヴァージョンの〈輝く未来〉。なかでも印象的なのは、そのサウンドに寄り添うほっこりとしたパーカッションの音色だ。

「ピアノ・トリオの編成で演奏していますが、ドラムの替わりにカホンというパーカッションを使っています。そこが今回のアイデアですが、それによってスピード感やダイナミズムを出しつつも、アコースティックで柔らかい空気感を上手く共存させることができたと思っています。また、後からカホンにエフェクトをかけて、ミニマルでダビーな空間の奥行き要素も足しています。初めての試みでしたが、とても効果的なサウンドになりました」。

【参考動画】Schroeder-Headzの2014年作『Synesthesia』収録曲“Follow Me”

 

★jizue 星に願いを(ピノキオ)

アルバムの冒頭を飾るのは、京都の4人組バンドであるJizueがスタイリッシュなジャズ・ロックに仕立てた「ピノキオ」のロマンテックな名曲。紅一点・片木希依のクリアで軽やかなピアノを軸に据えつつ、実はかなりテクニカルなアレンジながら最後までさらっと楽しく聴かせる演奏力は脱帽ものだ。なかでも、ドラマー・粉川心のスティック捌きに注目!

【参考動画】jizueの2014年作『shiori』収録曲“真黒”

 

★toconoma 美女と野獣(美女と野獣)

野外フェスをはじめ、活躍の場を拡げるクァルテットが、「美女と野獣」のテーマを持ち前の多彩なアレンジ力で調理。ハードバップ風のドラムの上で繰り広げられるインタープレイがポスト・ロック的に響いたり、リズム・チェンジ後のブレイクビーツがダウンテンポやトリップ・ホップに接近したりと、ニュー・チャプター時代ならではの折衷性が光る好演だ。

【参考動画】toconomaの2014年作『TENT』収録曲“relive”

 

★→Pia-no-jaC←
チム・チム・チェリー~スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス~踊ろう、調子よく ~お砂糖ひとさじで~笑うのが大好き(メリー・ポピンズ)
ホール・ニュー・ワールド(新しい世界)(アラジン)~パート・オブ・ユア・ワールド(リトル・マーメイド)

ピアノとカホンというミニマムな編成ながら、それを感じさせないほど縦横無尽に繰り出されるダイナミックで表情豊かなプレイが大きな魅力の2人組。今回は、彼らが登板した昨年発表の〈Disney Rocks〉シリーズ第4弾作品に収録された、対照的なカラーを持つ2曲がピックされている。いずれもメドレーで、「メリー・ポピンズ」曲の詰め合わせでは、→Pia-no-jaC←らしいドタバタ劇を思わせるアグレッシヴでドライヴィンな展開に手に汗握るアレンジ、そしてもう一方は原曲のスケール感を活かした豊かなサウンドスケープを描くバラードとなっている。

【参考動画】→Pia-no-jaC←の2014年のカヴァー・アルバム『EAT A CLASSIC 5』収録曲〈アイネクライネ〉

 

★中塚武
メインストリート・エレクトリカル・パレード(ディズニーランド)
ビビディ・バビディ・ブー(シンデレラ)
くまのプーさん(くまのプーさん)

〈ポスト渋谷系〉的なポジションで90年代から活躍したQYPTHONEでの経験を経て、10年選手となる自身のソロ活動ではもちろん、職業作家としても多数の楽曲提供をこなしながら自らの音楽性を磨いてきた中塚武。昨年にはビッグバンドのイガバンBBとのコラボ作を制作した彼は、その手腕を活かしたジャズ・アレンジでディズニーの名曲を聴かせる同年のアルバム〈Disney piano jazz〉より、誰しもが耳馴染みのある3曲を提供している。いずれもベニー・グッドマンカウント・ベイシーあたりのホットな楽団に通じる正攻法のスウィング・ジャズで、ゴージャスかつダンサブルな編曲に思わず踊りだしたくなること必至!

【参考動画】中塚武withイガバンBBの2014年作『Big Band Back Beat』メドレー

 

★Serph 夢はひそかに(シンデレラ)

近年はReliqN-qiaといったプロジェクトでもエレクトロニック・ミュージックの可能性を追求する孤高の電子音楽家は、「シンデレラ」からのナンバーを生ピアノとドラムの鳴りが耳に優しい〈疑似ジャズ風〉のトラックに改変。終盤に進むにつれ、電子音の装飾がマジカルかつドリーミーな色合いをひそかに増していき……心地良さ満点の一曲だ。

【参考動画】4月15日にリリースされるserphのニュー・アルバム『Hyperion Suites』収録曲
“happy turner”“nous”

 

★TLKY. アンダー・ザ・シー(リトル・マーメイド)

鍵盤×2とドラムスから成る3人組のTLKY.(テラコヤ)は、「リトル・マーメイド」よりカリプソ調の愉快なナンバー〈アンダー・ザ・シー〉を料理。彼らの持ち味である音が分厚くパワフルな演奏で、2台のピアノの掛け合いも楽しいアメリカン・ポップ風の一曲に仕上げている。突如顔を覗かせるヒップホップっぽいパートも◎。

【参考動画】TLKY.“TRICKY” ライヴ映像

 

★Kan Sano × Junpei Kamiya ふしぎの国のアリス(ふしぎの国のアリス)

ヒップホップ~ジャム・シーンを行き来するorigami PRODUCTIONSきっての鍵盤奏者/ビートメイカー、Kan Sanoと実力派ドラマーのJunpei Kamiyaのコンビが描くのは、グラスパー以降のジャズ・モードでドレスアップした「ふしぎの国のアリス」のテーマ。ナイトクラブ仕様のムーディーなピアノ・ソロと、それを支える人力ハウス・ビートのクール&ヒップなコンビネーションといったら!

【参考動画】Kan Sano × Jumpei Kamiyaの2014年の即興ライヴ映像

 

《お知らせ》
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