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©Simon Fowler

近年の意欲的な活動

 その後のハワードは自主レーベルを設立して動いていくことになるが、90年代当時はメジャー/インディー間の違いはとんでもなく大きかだった。少し前までツアーで世界を飛び回り、大規模なフェスやアワードに出席し、人気者としての多忙な活動を謳歌していた彼にとって不遇な時期だったのは言うまでもない。それでも自分のレーベルを自分で動かし、レコーディング環境なども整えてインディペンデントな活動をこの時期にスタートしていたことのアドヴァンテージは、(結果的にだが)00年代以降の彼自身の舵取りに大きく好作用した。

 今世紀に入ってからのライヴやリリースは実に活発なもので、ピアノ・ソロ・アルバムやライヴ盤なども含めて作品もコンスタントに届けられている。そんななかで、90年代には古臭いものと思われていたようなシンセ・ポップのサウンド、80年代テイストの音楽というものが徐々に復権し、過去の音源もフラットに聴かれるような状況が出来上がってきたというわけだ。そうした雰囲気もあって、一時は自身のサウンド・カラーを模索していたこともあった彼も、衒いなく自身のスタイルを改めて追求するようになった。2015年にリリースされた『Engage』と、BTも参加した2019年の『Transform』と近年は自分の求められているものを熟知したエレクトロニックなダンス・ポップ回帰で作品が好調で、それに続くのがこのたび2CDで日本盤化される2022年のアルバム『Dialogue』である(Disc-2には84年9月のNHKホール公演を収めたライヴ盤がそのまま付いてくる!)。

HOWARD JONES 『Dialogue』 Dtox/ソニー(2022)

 先述したような本人のモチヴェーションは、今作の音にもありありと聴いて取れる。オリジナルなニューウェイヴ時代のテイストをそのまま聴かせる楽曲があるかと思えば、別文脈でエレクトロ・ハウス系のサウンドもあったり、ダークウェイヴ調があったり、とにかく全編がダンサブルで楽しい雰囲気に仕上がっているのだ。資料によると本作の制作期間はそのままパンデミック期間と丸ごと重なっていたそうだが、歌詞がネガティヴになることを防ぐため、見通しがつくまで彼は作詞することを控えていたのだという。そうした効果もあってか今作は解放感や祝祭感がいつも以上に伝わってくるが、それが単なる現実逃避でないのは、医療関係者へのチャリティーを主旨とした〈Global Citizen Live〉などの取り組みを行っていることからも明らかだ。なお、年内にはリリースされるかもしれないエレクトロニックなダンス・ポップ回帰シリーズの第4弾は、その名も『Global Citizen』というタイトルが冠されているようだ。

 てなわけで今回のベスト『Japanese Singles Collection -Greatest Hits-』とスペシャル仕様の『Dialogue』はハワードのデビュー40周年記念と来日記念を兼ねたリリースとなる。9月に東京と大阪で控える4年ぶりの来日ステージが心待ちになるような2タイトルだろう。

ハワード・ジョーンズの初期作。
左から、84年作『Human's Lib』、85年作『Dream Into Action』、86年作『One To One』、89年作『Cross That Line』、92年作『In The Running』(すべてElektra)

ハワード・ジョーンズの近作。
左から、2009年作『Ordinary Heroes』、2015年作『Engage』、2019年作『Transform』(すべてDtox)