ヒットチャートを見るとき、好きなアーティストの順位を確認するだけでなく、全体の男女比を気にする人はどれくらいいるだろうか。さらにいうと、チャートにおける男女比が常に歪であると知っている人は、そのなかの何%であろうか。
現状のヒットチャートでは、男女比が5:5になることはほとんどない。これが実力や才能に基づいた純粋な評価であれば何の問題もないが、そこに性別による偏見や忖度がないと誰が断言できるのだろう。ギターを弾く女性をあえて〈ギタ女〉と呼んでみたり、女性だけのバンドをわざわざ〈ガールズバンド〉と呼称したり、音楽シーンで女性はいまだに枕詞をつけられる側だ。
そんな音楽業界における男女不平等に、音楽チャートを運営しているBillboard JAPANが切りこんだ。アメリカのBillboardが開催している〈Billboard Women In Music〉というアワードをもとに、女性をエンパワーするライブイベントにアレンジ。音楽業界における女性にフォーカスしたインタビューや業界関係者を集めたセッションを交えながら、音楽業界のジェンダーイコーリティーの向上にオピニオンを示していく。
本稿では、Billboard JAPANの高嶋直子編集長に〈Women In Music〉実施に至った経緯やこめられた願いを語ってもらった。権威になろうとせず、アーティストや一般リスナーと同じ目線で未来を変えていこうとする姿勢に希望を感じてもらえることだろう。
社会を映す鑑としてのチャートと歪な男女比
――まず〈Women In Music〉開催に至った経緯をお伺いできますか。
「アメリカのBillboardでは、その年に輝いていた女性を〈ウーマン・オブ・ザ・イヤー〉として表彰する〈Billboard Women In Music〉というプロジェクトが2007年から立ち上がりました。表彰することも目的のひとつではありますが、マドンナやテイラー・スウィフトといったアーティストに、これまで感じてきた課題やそれを乗り越えた方法などをスピーチしてもらうことで、世の中の女性をエンパワーするという側面もあります。日本でも、そういった取り組みをしていきたいと思ったのがきっかけです。
また、アメリカのBillboardがレイスミュージックと呼ばれていたアフリカ系アメリカ人のかたの音楽をR&Bという名称に改めたように、日本のBillboardも音楽情報を届けるだけでなく社会問題とも向き合っていくアイデンティティを有しています。ヒットチャートって、今一番売れている曲のランキングでありながら、社会を映す鑑でもあると思うんです。誰かが亡くなったり来日したりすると、ラジオやカラオケのランキング、ひいてはフィジカルの売上にも影響が出てヒットチャート全体が変わっていく。
そういった役割も持つチャートで、常に〈男性アーティストが多い〉と発表しているなら、私たちにもチャートの均衡を保つために努力する責任があるのではないかと。テレビ番組を通して、メインMCをするのは男性の役割だと無意識に刷りこまれていってしまうように、男性比率が高いチャートを常に見続けることで〈男性アーティストのほうが女性アーティストよりも才能があるんだ〉と思ってしまう可能性もある。それって、すごく責任の伴うことじゃないですか。だからこそ、〈現状を変えていきませんか〉と提案する義務が私たちにもあると思っています」
――問題意識を持つほど、ヒットチャートの男女比は歪なんですね。
「2019年から2022年のチャートを振り返ってみると、常に男性が多いです。だいたい50~60%が男性で、10%くらいが男女混合、30%くらいは女性なんですけど、そのうちの10~20%くらいはK-POP。チャートのなかで日本人の女性が非常に少ないという状況が、ずっと続いています。
年によってどちらかに寄ってしまうのは自然だと思うのですが、常に割合が変わらないのはどういうことなのか。私たちも、みなさんと一緒に考えていきたいと思っています」