カットアップ レベル1:減衰音を切る
――ところで、カットアップと通常のサンプリングのちがいをお2人に聞きたかったんです。先ほど中塚さんがおっしゃった〈笑い〉や通常の感覚からズレる驚きのようなものが、カットアップの要なのではないかと思うのですが。
有村「たとえばアクフェンのカットアップやコラージュって、素材が相当切り刻まれているじゃないですか。その粒度をデカくしていくと、ヒップホップのサンプリングぐらいになる。そういう切り刻む細かさというレイヤーが、まず一つありますね。あと、一曲の中でどれぐらい編集的な手法を使うか、そのバランスの幅があります」
――なるほど。
有村「昨日のライブでもやっていた土岐麻子さんが歌う“Your Voice”は、最初のドラムブレイクが開けて歌が入るところにドラムスタッター※が一瞬入るんです。〈ありふれた日々の〉って歌いはじめるのに、まったくありふれていないイカれた編集が施されている(笑)。全体的には生演奏を録音した曲なのに、スタッターが一瞬入る巧みな編集がされているだけで、めちゃめちゃ面白くなっているんです」
――その一滴のエッセンスが、中塚さんの〈笑い〉ということなのでしょうね。
有村「あれをできる人はあまりいないですね。そこも、中塚さんがいかに変かというポイントの一つです」
中塚「ヒップホップについては、MPCが出た時点で相当変わったと思うんです。それまでのスクラッチは音を切ったり頭を合わせたりするのが大変だったのが、MPCによってどんな素材でもポン出し、頭出しが簡単にできるようになった。その後、音の頭じゃなくお尻、デュレーションの最後を切ることに重点を置いた音楽が出てきて、カットアップが始まったと感じたんだよね。だから僕は、カットアップの面白さって〈お尻〉にあると思うんです」
有村「そうなんですよ! 〈カットアップって何が面白いんですか?〉と聞かれた時、僕は〈ADSR(アタック・ディケイ・サステイン・リリース)における音量の推移の、R(減衰音)の制御です〉といつも答えるんです。
自然界には垂直にスパッと切られてなくなる音って、存在しないんですね。あらゆる音は減衰するんです。だから、ケツがブチッて切れる音は、それだけでおもろくなる。それがカットアップのレベル1なんです」
中塚「ピアノの音も、リリースを切るだけでカットアップに聞こえるんだよね」
有村「YOASOBIのAyaseさんが使うリリースカットピアノが流行っていますが、あれも減衰をゼロにしてあるから人間が無意識に注目しちゃう音になっています」
中塚「で、僕はリバース(逆再生)がカットアップのレベル2だと思うんです。音のお尻に重点を置いて、リバースでパッパッと編集していくこと――それをわかっている人のカットアップは面白い。うまくできない人もいるから、カットアップはセンスによるとしか言えないかも」
有村「中塚さんが最初にカットアップをやったのは、何でだったんですか?」
中塚「最初はMPCだったかな?」
有村「なるほど。そういう話をするために、今日はカンペを準備してきたんです(笑)。中塚さんが何年にどの作品を作ったかを年表化して、横軸に当時のテクノロジーが何だったかを表にしたんですよ」
中塚「わーお!」
有村「ファーストアルバム『JOY』(2004年)では、音がまだ切れてないんです」
中塚「そう! その通り!」
有村「でも、セカンド『Laughin’』(2005年)では完全に切れている。世間的にもカットアップ技法が洗練された時期ですが、中塚さんが何の機材を使っていたかが気になるんです」
中塚「僕はずっとDigital Performerを使っているんだけど、Digital Performerって元々Performerっていうオーディオ編集ができないMIDIシーケンサーだったのね。オーディオ編集ができるようになって、Digital Performerになった。そこが始まりなんです」
有村「じゃあ、ソフトウェアで編集を始めたのは相当早いんですね」
中塚「そうだね。QYPTHONEをやっていた頃は、サンプラーのS500をMIDIコントローラーで操作していたかな。
当時、僕はナムコにいたのですが、ゲームで言うとハードの世代はNINTENDO64で、コントローラーに3Dスティックが付いた時期だったんです。で、僕が仕様を書いて、NINTENDO64のコントローラーをMIDI仕様にして1オクターブの音が出せてスティックでベンドできる基盤を会社の研究部の人に作ってもらったんですよ。それをライブで演奏していました」
有村「そんなことをやっていたんですか!?」