2024年末の特別企画として、〈J-POPのアルバム〉〈J-POPとアルバム〉についてのコラムをお送りします。現在のJ-POPシーンにおけるアルバムの在り方、アーティストごとの差異、タイアップソングとの関係などを、今年や昨年の具体的な話題作とともに考察しました。 *Mikiki編集部

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BUMP OF CHICKEN『Iris』の収録曲を巡る議論

2024年の音楽を振り返った時のトピックとして、9月4日にリリースされたBUMP OF CHICKENのニューアルバム『Iris』についての議論が忘れがたい。〈収録曲が既発曲ばかりではないか〉と疑問を呈したnoteの記事が公開され、一部のファンの間で波紋が広がった。5年ぶりのアルバムに収録された13曲中11曲がリリース済みのシングルなどで、ライブ映像作品に収録された“木漏れ日と一緒に”もカウントすると、純粋な未発表の新曲は“青の朔日”だけだったのだ。

BUMP OF CHICKEN 『Iris』 トイズファクトリー(2024)

そう思うファンの気持ちも、わからないでもない。私はリスナーとして今でもアルバムという作品形態、アートフォームを重要視しているし、プリンスが2015年のグラミー賞のスピーチで言った「みんな、アルバムって覚えてる?  アルバムは今も大事だよ。本や黒人の命と同じように」という言葉を反芻する機会は多い。

特にBUMP OF CHICKENのディスコグラフィは、当然ながら〈名盤〉だらけ。アルバムアーティストとしてのストーリーテリング、アルバムの世界に没入させることを得意としてきたイメージがあるだけに、シングル曲とアルバム曲の塩梅や配置によって〈アルバムならではの物語を体験したい〉と感じているファンは多いはず。また、ファンは単純に〈まだ聴いたことのない新しい曲を聴きたい〉〈新鮮な響きや景色に驚かされたい〉とも願っているはずで、〈これではベストやコンピレーションアルバムではないか〉という思いを抱いてしまった人がいたことは想像に難くない。

しかし、既発曲でも曲順や流れによって新しい意味や意外な聞こえ方が表れる、ということがアルバムのおもしろさでもある。そして、もう少し広い視点から考えると、既発曲すべてを網羅的に聴いていないライトなファンや、タイアップ曲などをきっかけに知った新たなリスナーにとっては、アルバムが最初の入り口になる可能性が高い(実際、私はBUMP OF CHICKENの既発曲をすべて追っていたわけではなかったので、『Iris』をフレッシュな作品として聴けた)。また、リアルタイムではなく数年後、数十年後に出会う未来のファンにとってはすべてのアルバムが〈新作〉であり、全曲が紛れもない〈新曲〉だ。

 

従来の方法が崩壊したJ-POPシーン

ストリーミングサービス、いわゆるサブスクやYouTubeで単曲をアーティストが配信すること、リスナーが曲単位やプレイリストの中の一曲として聴くこと、アルゴリズムによるサジェストで偶然耳に入ってくること、あるいはTikTokなどで曲の一部分だけに触れることが当然になった現在、アルバム全体を通して聴くというスタイルは以前ほど一般的でなくなってきてはいる(そんな状況だからこそ、熱心なファンほどアルバムでの表現の価値に重きを置く傾向は強まっているかもしれない)。

カップリングを含むシングルを2、3作リリースしてからアルバムを発表する、アルバムをまるっと制作してそこからシングルカットしていく、といったかつての方程式は、特にJ-POPシーンでは崩壊しつつある。その中でもメインストリームで大きな位置を占めているアーティストは、なおさらそうだろう。音楽制作と発表の方法、アーティストやマネージメントやレコード会社の体制、市場やリスナーの消費の仕方など、多数の変数が複雑に重なったことで、J-POPアーティストとアルバムの在り方は多様化している。

そういった観点から考えてみたい作品が、今年は特に多かった。そこで今回は、2024、2023年に発表されたJ-POPのアルバムと、アーティストのアルバムに対する姿勢を検討してみよう。