
プロデューサーのジョナサン・ウィルソンが作る〈良いサウンド〉
――何よりも自分たちが楽しめることが大切だったんですね。
「やりたいことはたくさんあるけど、退屈な瞬間を生み出さないように、どうやって曲を繋げていくのか。どうやって曲を前に進めていくのかを意識した。
プロデューサーのジョナサン(・ウィルソン)は、いまロジャー・ウォーターズのライブの仕事をしていて10分以上あるピンク・フロイドの曲を手掛けている。その経験も生かされていると思うよ」
――ジョナサンとはファーストアルバム『North Hills』(2009年)以来の長い付き合いですが、彼の仕事のどんなところを気に入っていますか?

「ファーストの時は僕らがアイデンティティを見つけようとしている段階だった。曲はいっぱいあったし演奏もできたけど、まだ自分たちの個性を見つけられなかった。そんななかで、ジョナサンは僕ららしいサウンドを見つける手伝いをしてくれたんだ。そして、自分たちが進むべき道を見つけてからは、僕らが書く曲や詩に関して一切口を出さなかった。
彼がやってくれるのは良いサウンドを作ること。ジョナサンは、ドラム、ベース、ギター、キーボードといろんな楽器を弾けるから楽器のことも相談できる。アンプはこんな感じでペダルはこうっていう風に、サウンドやトーン作りにおいて彼の貢献度はすごく大きいんだ」
――かつてジョナサンはパーティーを開いて、世代を超えてミュージシャンを呼んだそうですね。そのパーティーが西海岸のロックシーンを豊かにしました。あなたはそのパーティーに参加していたそうですが印象に残るエピソードはありますか?
「ジョナサンはそういうパーティーをよくやっていて、僕はそこで(トム・ペティと一緒にやっていた)ハートブレイカーズのメンバーやコナー・オバーストと知り合い、その後、一緒にツアーをするようになったんだ。
ジョナサンはミュージシャンシップ、楽器を演奏するミュージシャンの腕を評価していた。Pro Toolsや機材に頼るのではなく、自分の技術でプレイすることに価値を見出す人で、そんな価値観に共鳴したミュージシャンが彼の元に集まっていたんだ。最近はみんな歳をとって、ジョナサンは結婚して、僕は子供ができて、パーティーは開かれなくなったけどね」

テイラーが考える西海岸ロックの個性と歴史
――あなたは10歳の頃から、ザ・バンドやジョニ・ミッチェルなど60〜70年代のアーティストを聴いていたそうですね。そういうリスニング体験がバンドサウンドに反映されていると思います。そういう音楽を聴いてたのは、ミュージシャンだったお父さんの影響もあったのでしょうか。
「そうだね。父はソウルやR&Bの人だったので※、JBやオーティス・レディング、フォー・トップスとかをよく聴いていた。ビートルズとローリング・ストーンズは親から教えられたけれど、その後、聴くようになったボブ・ディランとかグレイトフル・デッドは自分で見つけたんだ。
父親からの影響で一番大きいのは楽器を演奏すること。僕が楽器を演奏するようになった頃は、コンピュータで音楽を作るのが普通になっていた。父親が出演しているライブを観にいくと、父親がステージから〈上がってこい〉って誘う。それで楽器を持ってステージに上がり、他のミュージシャンの手を見ながら音を拾って演奏することを学んだ。そういう古風なやり方で楽器の弾き方を学んだのは父親の影響なんだ」
――父親から受け継いだミュージシャンシップがジョナサンとの交流に繋がったと思うと感慨深いですね。ドーズはウェストコーストロックの後継者と言われることが多いですが、ウェストコーストロックの重要な要素は何だと思いますか?
「実はジャクソン・ブラウンやウォーレン・ジヴォンといった(ウェストコーストを代表する)アーティストは、ファーストアルバムを作った時点では全然聴いたことがなかったんだ。その後、発見して大好きになったけどね。
そうだな……ウェストコーストロックのアイデンティティは思慮深い歌詞が個性の一つだと思う。例えばパティ・スミスのようなニューヨークのアーティストに比べたらエッジは効いていないかもしれないし、訴えかけてくる主張があるわけでもない。でも、僕に強く訴えかけてくる歌詞がすごく多いんだ。
カリフォルニアの豊かな歴史を振り返ると、ジャクソン・ブラウンやフリートウッド・マック、 スティーリー・ダンなんかは、レコーディングにこだわった作品を残している。そこも僕らが興味を持っている特徴なんだ。
あと、ウェストコーストロックは、いかにも〈ロック!〉という感じの激しいものではないのも特徴だね。僕らも〈ロック〉しているつもりなんだけれど、〈ロック〉な人たちに言わせるとライトみたい(笑)。これはグレイトフル・デッドなんかにも言えることで、ハードなことをやっているようでいてギターのトーンはクリーンだったりするんだよね」