60年代から活躍する、アメリカ、いや世界を代表する偉大なるシンガーソングライター、ジャクソン・ブラウン。日本にも熱狂的なファンが多く、脱原発運動や環境保護活動にも以前から精力的に取り組み、コロナ禍中に届けられたポリティカルな新作『Downhill From Everywhere』も記憶に新しい。そんな彼が、本日3月20日の大阪公演を皮切りに、6年ぶりのジャパンツアーを行う。来日中のジャクソン・ブラウンに、音楽評論家・天辰保文がライブに懸ける思いを聞いた。 *Mikiki編集部


 

曲はアップデートできる。それがフォークの伝統だから

――パンデミックを経験して、ライブ会場で複数の人たち、例えば、男女や年齢や言語などいろんな違いを持つ人たちが、一緒に音楽を楽しむ、それが如何に大切で、貴重なことだったか改めて実感しました。今回の来日公演には、ファンはいろんな思いを抱えて会場に足を運ぶと思います。あなたは、どんな思いでステージに上がろうとしていますか。

「音楽は癒しだ。ぼくは、パンデミックのために二度、日本ツアーを延期しなければならなかった。こうやって、2年ほど前からツアーを再開しているけど、人が集まって生の音楽が聴けることをオーディエンスがどれほど楽しみ、そうできることに喜びを感じているか、この眼でみてきた。沢山の愛、まるで一つの共同体のような感情が会場にあふれていた。

ぼくらは、最大の感染対策をしてツアーを行なってきたので、キャンセルを出すことなく続けてこれたが、沢山のバンドが途中でツアーをキャンセルしなければならなかった。ぼくらのようなPCR検査を続けるのは正直お金がかかる(このインタビューの際も、取材陣は全員アメリカから同行した医療関係者によるPCR検査を受け、別室での隔離を経て、マスク着用でのインタビューだった)。

アメリカだと州ごとに知事の政治的判断で、マスク着用やワクチン接種のプロトコルも違っている。でも、ぼくらは何処へ行こうと、自分たちのやり方を徹底して続けてきた。それでも、ぼくらの中から感染者を出してしまうとツアーはキャンセルになるんだ。幸運にも、いや、運というよりは、それだけ注意を払い、プロトコルを設けてやっているからだけど、これまで続けてこれているよ」

――このパンデミックを通じて、改めて、“For Everyman”(73年)や“Before The Deluge”(74年)のような歌が、新しい価値というか、意味のある歌として響いてくるような気がしますね。

「時代を経ていちだん意味を持ってくる曲というのが確かにある。“For Everyman”や“Before The Deluge”もそうかもしれない。

73年作『For Everyman』収録曲“For Everyman”

74年作『Late For The Sky』収録曲“Before The Deluge”

同じことを“Lives In The Balance”(86年)に関しても言われるけれど、あれはもう余り歌わなくなった。何故ならいまの状況は、秘密の戦争ではなくなってしまったからだ。ウクライナでは公然と行なわれている。

86年作『Lives In The Balance』収録曲“Lives In The Balance”

20年以上前の“Anything Can Happen”(89年)は戦時下で愛し合う二人の男女のことを歌った曲で、これをウクライナのベネフィットのために再録することになり、歌詞を書き換えようとしたんだ。1、2行なんだけど、いまの時代にあうようにね。だけど、それが如何に難しいか、いい勉強になったよ。数カ月かかった。

89年作『World In Motion』収録曲“Anything Can Happen”

だけどぼくは、曲というのは、アップデートが可能だと思っている。それが、フォークミュージックの伝統だからね。つまり、既にあるフォークソングのコンテンポラリーなバージョンを書く、もしくは自分に合うように歌詞を変え、パーソナルな物語として生き返らせる。

“Lives In The Balance”と違って、“For Everyman”と“Before The Deluge”をいまも歌い続けていて、歌うことが楽しめるのは、限られた枠に縛られず、希望のようなもの、イノセンス、もしくはナイーブと言ってもいいかもしれない何かがあるからだ。いまも、自分がそれを自分のこととして感じられるからなんだ」