5人組男性アーティスト、Da-iCEのリーダーである工藤大輝。彼の双子の兄とされるソロ・アーティストがclaquepotだ。2019年の配信シングル“むすんで”を皮切りに、〈真っ新な状態で音楽に触れてほしい〉という意図のもと、匿名性の高い活動を行いながら、2019年の『DEMO』と2020年の『press kit』という2作の配信EPを経て、2022年にはそれまでの楽曲を網羅したベスト盤さながらのファースト・アルバム『the test』を発表。音楽家としての成長を作品に色濃く投影してきた。

 「みずから音楽を作っていることが内側の人間にさえ認知されていないことへの反骨心から、最初の作品に『DEMO』というタイトルを付けて。メディアに送る宣伝素材を意味する『press kit』も、〈周りが誰もやってくれないから自分で作りましたよ〉という当てつけの意味がありました(笑)。収録曲の“resume”(履歴書の意)にも、履歴書を一緒に送らないと聴いてくれない人ばかりだし、送っても聴いてくれなかったりする状況に対してのアンチテーゼの意味を込めてみたり。そして『the test』は人生を駆け上がっていく学生や社会人とリンクするようにと付けたタイトル。レーベル移籍作でもある今回の『recruitment』は自分のなかでは〈転職〉をイメージしつつ、新しい場所でいろんな人とチームアップして、新しい音楽を作っていこうという意志も込めていますし、いろんな意味に受け取れるんじゃないかと思います」。

claquepot 『recruitment』 SPACE SHOWER(2023)

 前作までのclaquepotは、 ルーツである90年代のヒップホップ、R&B、アシッド・ジャズや2000年代の日本のR&Bに培われたグルーヴ感とヴォーカル、J-Popのキャッチーなメロディーを絶妙なバランスで融合していたが、7曲入りのEPとライヴ・アルバムから成るCD2枚組の新作『recruitment』では作風が大きな進化を遂げている。

 「自分が中高生のとき、宇多田ヒカルさんや平井堅さん、CHEMISTRYさんといった方々が軒並みチャートで1位を取っていたんですけど、そうしたアーティストの曲のなかでも、2ステップやUKガラージを取り入れたエッジーなものよりバラードのほうが世間的には人気でしたよね。でも、僕はむしろ前者のテイストのほうが好きだったので、自分の好みの方向性で花を咲かせるのは難しいのかもしれないなって。だから、いままでの作品はJ-Pop然とした作品に仕上げていたんですけど、時代が一周したのか、UKのテイストが最近のトレンドになってきていますよね。いまだったら自分が好きなサウンドで勝負できるんじゃないかなと考えられるようになりました」。

 ゲストに竹内アンナと宮川大聖、Aile The Shotaをフィーチャーした本作では、コーラスを極力重ねず、音数を削ぎ落としたミニマムなトラックを下敷きに、メロディーの抑揚よりも歌とラップが紡ぐフロウの心地良さに重きを置いたクールでナチュラルなサウンドを志向。一方のリリックは、トレンド消費の空虚さと距離を置いた“メロー・イエロー feat. Aile The Shota”をはじめ、SNSやデジタル全盛の時代における心の平穏な在り方をしなやかなメッセージへと昇華したことで、claquepotの地に足が着いたスタンスを際立たせている。

 「いまの音楽はイントロをカットして歌始まりにしたり、アウトロがスパッとカットされたり、ぎゅっと凝縮された曲が多いんだけど、同時に音楽から情緒や余韻が損なわれている時代でもある。なので、バランスが難しいんですよね。だから、今回EPとセットにしたライヴ音源を聴いていただければおわかりのように、作品ではコンパクトな楽曲をライヴにおいては膨らませてみたりしています。いろんな角度から音楽の新しい可能性を追求していきたいですね」。

 


claquepot
87年生まれのシンガー・ソングライター/プロデューサー。2019年の初楽曲“むすんで“から活動を本格化させ、同年にファーストEP『DEMO』、2020年にセカンドEP『press kit』を配信で発表。2021年4月に、Rung Hyang、向井太一とのコラボEP「PARK」をリリースした。同年12月に初アルバム『the test』を発表し、リリース・ライヴを大阪と横浜のZeppで開催。今年は配信での楽曲発表を続け、このたびEP『recruitment』(SPACE SHOWER)をリリースしたばかり。