俺は知ってる 全部全部知ってる――バンドを続け、向井秀徳が出した答えとは? 12年ぶりのニュー・アルバム『らんど』は、この男の生き様が凝縮された一枚だ!!

MIYAの加入がすべての始まり

 ZAZEN BOYSの12年ぶりとなる新作『らんど』が遂に完成した。2017年に吉田一郎が脱退するも、翌年に385のMIYAを新メンバーに迎え、新体制での活動を開始。向井秀徳は2019年にNUMBER GIRLを再始動させていたが、並行してZAZEN BOYSとしてもライヴを重ね、磨き抜かれた13曲を収録したアルバムへと結実させた。

 「NUMBER GIRLを再結成しようと思ったきっかけのひとつが、ZAZEN BOYSにMIYAが加入したことだったんです。MIYAが入って、新しい風が吹いたんですね。そこで私はすごく盛り上がりまして、この風に乗っかって、ババッと新作を作り、さらにはNUMBER GIRLを再結成したろうと、勢いでそう思ったわけです。ただNUMBER GIRLに関しては、最初は金だけある程度稼いで、やり逃げしようと思ってたんだけど、コロナ禍がありまして、長引いたんですよね。結局NUMBER GIRLの活動は2022年の12月に終了して、2023年からまたZAZEN BOYSとして集中的に活動することになり、いまの体制を形にしようと思ったんです」(向井秀徳、ヴォーカル/ギター:以下同)。

 BLEACHの解散と前後する形で2008年から385として活動していたMIYAは、野性味溢れるハードコアなプレイスタイルを特徴としつつ、その一方ではプリンスやマイケル・ジャクソンを愛する、まさにZAZEN BOYSにうってつけの人物。一時期はベースを辞めようと思った時期もあったそうだが、彼女の加入がバンドの大きな転機となった。

 「新たなベーシストを探し回るということは特になくて、ふとMIYAの姿が浮かび上がったんです。〈あの音がZAZEN BOYSに絡み合うとどうなるか〉と思ったわけ。ただMIYAは当時バンド活動を休んでて、沖縄で家庭に入ってたんですね。バンドから距離を置いてた時期、もしくはそうしようとしてた時期だったと思うんです。そこでいきなり私からの誘いがあって、最初はちょっと考えたいということだったけど、彼女は根っからの全身音楽家ですから、鳴らしてみたいと思ってくれたんだろうな。で、最初に我々が沖縄に行ったんだね。沖縄のライヴハウスの空き時間を貸してもらって、彼女とリハーサルをした瞬間、風がビュウッと吹いたんです。MIYAはハートがそのまま音に直結してるなと思いましたね。これは他のメンバーもそうで、その人の世界観や感情、それがそのまま音に表れている。私はそれを〈毒個性〉と言ってるんだけど、バンドっていうのは毒個性のぶつかり合いなんですよ」。

 新体制で作り上げた新作は、〈これぞZAZEN BOYS〉としか言いようのない仕上がりとなった。一時期は打ち込みに挑んでいたし、前作『すとーりーず』にもシンセが用いられていたが、このアルバムで鳴らされている楽器はほぼギター、ベース、ドラムのみ。コンプがかかってないようなMIYAのベースの音に象徴されるように、非常にロウな、生々しい音像がバンドの強烈な熱量を感じさせる。執拗な反復を基調としながら、そこに変拍子やキメを混ぜ込み、ときにハード・ロックのように重厚で、ときにファンキーに粘っこく跳ねる楽曲たち。新鮮さと円熟味が同居した、最新型の4人の姿がここにある。

 「ステレオ空間にバランスよく音を配置したら、さっぱりして聴きやすくなるんだけど、私がやると全部が真ん中に寄っていって、ひとつの塊に、団子になる。団子サウンドが私は好きなんだな。だからファースト・アルバムからそんなに音像は変わってないと思うね。そういうサウンドが好きだし、もしくはそこしか聴こえてない。デイヴ・フリッドマンにやってもらった4作目は、彼の客観的な視点があったから、音の広がりがすごくあったと思う。とはいえやっぱりZAZEN BOYSの毒個性には違いないし、それにしかならないから、結局誰に頼んでも同じにはなるだろうね」。

 

人の心を2ミリ動かしたいんですよ

ZAZEN BOYS 『らんど』 MATSURI STUDIO(2024)

 ニュー・アルバムのタイトルは『らんど』。〈乱土世界の夕焼けにとり憑かれ続けている人間の歌がここにある〉と向井は本作を評するが、彼が見た日々の風景が綴られている。

 「私は電動アシスト付き自転車でタラタラ都内を巡り巡って、最終的には銭湯に行くんです。MATSURI STUDIOがある渋谷区から、ときには荒川を渡り、埼玉県まで行ったりする。しかも、ずっと住宅街を通っていく。そうすると、街の空気が変わる瞬間があるんですね。それを感じながら、タラタラ自転車で走っているわけ。そうすると、〈ここにはこういう人が住んでて、こういう営みがあって〉っていうのを実感できるわけ。そして、想像するんですね。それが自分にとって生きてる実感に思えて、それをそのまま歌にしてます。“YAKIIMO”はそのときに見た風景をそのまま曲にしてるだけ。〈私はこう思った〉ではなく、〈そこに世界を感じた〉ということを表していきたいと思ってる。ただ少しだけ、1ミリぐらいハートが揺れた――そういうことを歌ったり、音楽という形にしたい。それを聴いてもらって、人の心を2ミリぐらい揺らしたい。そういうコミュニケーションをしたいと思ってバンドをやってるんですね」。

 東京オリンピックで表彰台に上がるロシア人射撃選手の姿と夕暮れ空の感覚が交差する“チャイコフスキーでよろしく”、寂しげな公園の風景を朗々と歌い上げる“公園には誰もいない”、土砂降りに打たれる高校生を見つめる“ブッカツ帰りのハイスクールボーイ”などを経て、本作のハイライトを飾るのが“永遠少女”。鋭角なコード・ストロークとともに、〈1945年 焼け死んだあの娘は15才だった〉〈君は確かめている 大人はみんなうそばかり〉と、言葉を紡いでいく。

 「この曲は最初から最後まで2コードだけなんですよ。でもテレキャスターでその2コードを鳴らしたときに、これを人のハートに突き刺して、背中まで貫きたいぐらいの衝動に駆られたんです。そのためには抜け作みたいな言葉じゃ成り立たんなと、その瞬間に思った。“自問自答”を作ったときも同じような感覚だったんです。あれも最初から最後まで4コードの繰り返しですから。この曲は戦争の風景を描写しているし、いま世界は戦争中ですよ。ただ〈戦争から目を逸らすな〉と言いたいがためにこの曲を作ったわけではないんです。なぜなら、ロシアのウクライナ侵攻が始まる前に曲と歌詞は出来てた。とにかく俺は人の心を3.5ミリ揺り動かしたいんですよ。戦争は悲惨である、戦争には反対だ、これは当たり前のことで、歌にするようなことでもない。〈この曲を聴いて、こう思いなさい〉っていうことをするのがいちばん嘘っぽい。何かを感じて、それがよくわからなかったら自分で探せと。世の中は嘘しかないから。それははっきり申し上げたい」。

 衝撃のデビューからちょうど20年。USODARAKEのこの世の中で、それでも生の実感だけは持ち続けるために、自問自答を繰り返してきた日々の歴史。いつものように〈繰り返される諸行は無常 それでも蘇る性的衝動〉から始まる1曲目“DANBIRA”で、向井は〈知ってる 俺は知ってる 全部全部知ってる〉と繰り返す。

 「ZAZEN BOYSという名前で20年間続けられてきたのは嬉しいことだし、幸せなことだし、これからもそうしていきたい。そうやって続けてきて、こうにしかならないことはよくわかってきた。NUMBER GIRLのときから薄々そうだと思ってたけど、俺はもうこうなんだと。だからそれを続けていくしかないし、続けていきたいんだよね。凝り固まりたくはないけど、これしかないし、これが好きだし、こういうことをしたい。20年やってきて、それはもう答えですよ」。

NUMBER GIRLのライヴ盤『LIVE ALBUM「NUMBER GIRL 無常の日」』(ユニバーサル)

 

『らんど』に繋がるハードコア~アヴァンギャルドな六つの音塊

BLACK MIDI 『Cavalcade』 Rough Trade/BEAT(2021)

プログレッシヴな演奏で独自の地位を築き上げたUKバンドの2作目は、冒頭曲の“John L”におけるストップ&ゴーなアンサンブルにZAZEN BOYSを感じたリスナーも多いとか。イマジナティヴに単語を並べながら、刹那な感情を炙り出す歌詞も近いかも。

 

the hatch 『shape of raw to come』 十三月(2022)

GEZAN主宰のレーベルからリリースを続けるポスト・ハードコアの注目株による2作目。マス・ロックを思わせるキメの多い演奏とラテンやアフロのしなやかなノリという相反した要素を組み合わせる様がフレッシュだ。よく見るとジャケが異常に怖い。

 

ANGEL DU$T 『Brand New Soul』 Pop Wig(2023)

ターンスタイルのメンバーが在籍していたことでも知られるボルチモアの5人組による5作目。激烈なハードコア・パンクを基調にフォークやファンクを切り貼りするストレンジな質感がおもしろい。ギター・ポップ調の曲はNUMBER GIRLっぽかったりも。

 

PERSHER 『Man With The Magic Soap』 Thrill Jockey(2022)

カレンでも共作してきたエレクトロニック畑のトラックメイカー、ブラワンとパリアがインダストリアル・パンク~ドゥーム・メタルへの愛情を思う存分にぶつける新ユニットを結成。デス・ヴォイスと過剰なノイズにまみれた電子音を鳴らしており、極めて狂暴です。

 

YVES TUMOR 『Heaven To A Tortured Mind』 Warp/BEAT(2020)

ZAZEN BOYSの持つプリンス的なファンクネスは、このカルトな音楽家にも共有されている。毒々しいまでにファズの効いたギターとねっとりとしたリズム・セクションを背景に、妖しく身悶える――以降も続くグラムなロックスター化は本作で始まった。

 

CRYAMY 『世界/WORLD』 nine point eight(2023)

6月に日比谷野音でのワンマンを控えるなど存在感を高めている4人組の新作は、スティーヴ・アルビニを迎えてのシカゴ録音。喉が潰れそうな絶唱とメタリックなリフに苛立ちや絶望が映し出され、ヒリヒリとした空気が全編を覆い尽くす。この緊張感は格別だ。

 

繰り返される諸行……ZAZEN BOYS(と向井秀徳)の20年小史

 2002年11月にNUMBER GIRLが(最初の)解散。その後、向井秀徳はみずから運営するスタジオ〈MATSURI STUDIO〉を設立し、2003年にZAZEN BOYSを結成した。当初のメンバーは向井、アヒト・イナザワ(ドラムス)、日向秀和(ベース)、吉兼聡(ギター)の4人。2004年1月にファースト・アルバム『ZAZEN BOYS』、同年9月に2作目『ZAZEN BOYS II』とハイペースに2作を発表した。2005年に、アヒトからBuffalo Daughterのサポートなどで知られる松下敦へとドラマーが交代。2006年の3作目『ZAZEN BOYS III』後に、日向が脱退し、吉田一郎が加入した。

 NUMBER GIRLの後半以来となったデイヴ・フリッドマンとの共同プロデュース作にして4作目『ZAZEN BOYS 4』(2008年)を経て、2010年に向井はLEO今井とエレクトロ・ファンクを志向するユニット、KIMONOSを結成。同年にアルバム『KIMONOS』をリリースした。

 2012年の5作目『すとーりーず』以降、本隊としてのリリースは今回の新作まで途絶えるが、楽曲提供やゲスト参加など向井の外仕事は多数。椎名林檎や百々和宏、eastern youthら旧友たちを筆頭に、香取慎吾、SOIL & "PIMP" SESSIONS、切腹ピストルズ、skillkillsなど多彩な面々の作品に、向井カラーと言うべき〈毒個性〉を加えてきた。加えて、宮藤官九郎の作品を筆頭に「ディストラクション・ベイビーズ」や「渇水」など映画音楽を手掛けることも多い。また松下もドラマーとして各方面で重宝されており、最近でも秋山黄色やAdoの楽曲で叩いている。吉兼はタルトタタンの2015年作『シロ・デューサー』で演奏していた。

 そして2018年、前年に脱退した吉田の後釜として、MIYAが新ベーシストに。2019年のNUMBER GIRL再結成~(2度目の)解散を含む以降の動向はインタヴュー本文で語られている。 *田中亮太

左から、ZAZEN BOYSの2004年作『ZAZEN BOYS』、『ZAZEN BOYS II』、2006年作『ZAZEN BOYS III』、2008年作『ZAZEN BOYS 4』、2012年作『すとーりーず』(すべてMATSURI STUDIO) 、KIMONOSの2010年作『KIMONOS』、椎名林檎の2019年作『三毒史』(共にユニバーサル)、 香取慎吾の2022年作『東京SNG』(ワーナー)、切腹ピストルズの2020年のシングル“日本列島やり直し音頭二〇二〇”’(DURA)、秋山黄色の2019年のミニ・アルバム『Hello my shoes』(BUG TYPE) 、タルトタタンの2015年作『シロ・デューサー』(EMISSION)