
LEO今井が2017年から不定期に行っているライヴ・イヴェント〈大都会〉。彼自身がシンパシーを持つ強力な対バン相手を迎え、強靭なシティーのロック&ソウルを鳴らしてきたこの名物企画がスケールアップ、8月後半から全国各地にて開催されることが決定した。そのツアーの予告編という意味合いを持つEP『6 Japanese Covers』が7月24日(水)にリリースされる。
当イヴェントではこれまでツーマン相手との共演が楽しみのひとつとされてきたが、そのコーナーを作品化したのが6つのジャパニーズ・ロックの名曲をカヴァーした本作だと言える。ここに収められているのは、人間椅子、eastern youth、ZAZEN BOYS、呂布カルマ、前野健太、ペトロールズといった、これから各地で合戦を行う予定の6組の名曲。どの曲にも対戦相手に向けての敬愛や共感が込められているが、現在のLEO IMAI(LEO今井、岡村夏彦、シゲクニ、白根賢一から成るバンドの呼称)がどれだけ圧倒的なパワーを誇る集団であるかを如実に炙り出してみせる作品になっている点に注目したい。
どんな意気込みでもってこれらの楽曲と向き合ったのかを確かめるべく、メンバー4人の元へ向かった。

LEO今井 6 Japanese Covers コロムビア(2019)
一夜限りの絡み合いが観られる対バン・イヴェント〈大都会〉
――まずは〈大都会〉をスタートさせたきっかけから伺えますか?
LEO今井(ヴォーカル/ギター)「この4人でいっしょにプレイし始めたのが2012年からなんですが、ライヴを重ねていくことでどんどん肉が付いていくのがわかって、自主企画のイヴェントをやったこともなかったし、そろそろやってもいいんじゃないかと。それが2年半前ぐらいですかね」
――他のバンドと渡り合っても、負けねえぞという自信もつき始めて?
LEO「それは無かったですけど(笑)、でも対バンの場を増やしたいとは思ってました」
――毎回、対バン相手が変わることで、高ぶるものがあったりするのでしょうか?
岡村夏彦(ギター)「……高ぶらない」
シゲクニ(ベース)「高ぶれよ(笑)!」
岡村「“Tokyo Lights”って曲があるんですけど、それを対バンしてくれたいろんな方たちと最後にやるのが楽しいですね」
LEO「それがワンマンとのいちばんの違いかもしれない。一夜限りの絡み合い、一夜限りのライヴ・ヴァージョンが生まれるから、ワンマンよりも遊び心のあるものになる」
シゲクニ「LEOの曲ってヴァリエーションがすごくあって、昔は80sっぽいポップな曲が多かったけど、最近はハードなロックが多くなっている。本人はあまり意識していないかもしれないけど、選曲によってけっこうライヴの流れが変わったりするから。ファンキーなときもあれば、ハードで攻めるときもある。その変化が楽しいかな」

――今回はツアーという形を取るわけですが、これまでと違った心構えをお持ちなのではないかと。
LEO「そうですね、これまで4回やってきましたけど、このメンバーで何度もライヴを重ねてきているので、一回限りのイヴェントではなく、ツアーでいろんな人に見てほしいという気持ちがいままでにないほど高いところにきてます」
――いまのこの4人の状態がどんな感じなのかを、ぜひ白根さんにお訊きしたいです。
白根賢一(ドラムス)「さっきシゲクニくんも言ってたけど、LEOくんの音楽が年々ハードになっているので、個人的には大変ですね。そもそも僕はソフトな人間だから。どれもあきらかに2メートル以上の身長がないと叩けない曲ばっかりだし」
シゲクニ「2メートル近かったっけ?」
白根「ま、そろそろ2メートルだけどね」
LEO「(笑)。ライヴがどんどん体力試しになってきているところはありますね。ドラマーは特に辛いかもしれませんが」
『6 Japanese Covers』は肉体的なレコーディングから生まれた
――では続いて、EP『6 Japanese Covers』のお話を。
LEO「〈大都会ツアー〉をプランニングするうえで、対バンする相手の曲をどれかカヴァーしてみようか、となって。だったらそれをレコーディングしてみて、ライヴ会場限定で売るのはどうか?って最初に考えていたんです。そこから対バン相手全員の曲をやることになり、それだったらEPの形にするのもいいな、というふうにどんどん話が発展し、作品のイメージが膨らんでいった。
そういう遊び感覚も強い作品なんですが、大元には、現在のLEO IMAIバンドを見てください、というアピールする狙いがありました」
――それにしても、ツアーの予告編としても機能するという画期的な作品ですよね。
LEO「そうですね。それに加えて、私の根本にある音楽性や趣味、テイストをわかってもらえれば、って気持ちもあります」
――ある意味で、LEOさんのルーツを紐解く作品という側面もこのEPは持っているといっていいのでしょうか?
LEO「アレンジの部分からそういうところが垣間見えてくるかもしれませんね」
――曲を料理するうえでさまざまな試行錯誤があったと思うのですが、どういうことが思い出されますか?
LEO「そうだなぁ、例えばZAZEN BOYSの“ポテトサラダ”はシゲクニが、これしかないだろう、って推していて」
シゲクニ「大変だったことといえば、長い曲が多いんですよ。もう一回ってなったとき、心が折れそうになる(笑)。やっぱり体力勝負なところがあったんです。そこはいままででいちばんだったかな。
これまではシーケンスが入っていることも多かったから、パートパートで録ることもあったけど、今回は誰かがやり直すとノリが変わっちゃうから、じゃあもう一回、っていうその繰り返し。それが新鮮だった」
LEO「レコーディング期間が2日しかなかったんですよ。だからけっこうピリついてましたね。でもトンネルの向こう側には良いものがちゃんと出来てたから、良かったと思ってます」
――その勢いがどの曲にもしっかりと張り付いてますもんね。
岡村「張り付いてますね。というか、勢いしかねえな」

――だとすれば、あのときこういう出来事があってどうのこうの、と振り返るのもちょっと難しい?
岡村「うん、とにかく弾いてた(笑)。弾いて弾いて、そして聴いて、の繰り返し」
シゲクニ「『VLP』(2018年)のときもこの状態に近かったんですけど、これほどまでに肉体的なレコーディングじゃなかったかもしれない。今回は特にその印象が強い」
――しかし爽快なまでにヘヴィーな作品ですよね。
シゲクニ「ライヴ・テイクに近いのかもしれない。LEOも横でずっとシャウトしてたから」
LEO「そうね、そういうのも部分的に使ったりしている。アレンジは私がある程度決めてましたが、プレイ・スタイルや音色は注文しないので、そこにはそれぞれの個性が滲んでいるんじゃないかなと思いますね」
徹頭徹尾ヘヴィーな人間椅子“どだればち”
LEO今井のルーツであるeastern youth“夏の日の午後”
――カヴァー集ということもあって必然的に曲調がヴァラエティーに富む結果となっているのも聴きどころですね。では収録曲について順にお話してもらいたいのですが、まずは人間椅子の“どだればち”から。このうえなくインパクトのあるオープニングになりましたね。
LEO「録っているときはまだ彼らと面識なかったんです。この曲、最高ですよね。アレンジも個人的には気に入っています」
――オリジナルはもう少しコミカルな味がありますが、こちらのヴァージョンは徹頭徹尾ヘヴィー。LEOさんのヴォーカルも魂の叫びと形容するのが似合うものだし。
LEO「うん、そうね。滑稽な感じとかまったく意識せずやろうとしましたけど、やっぱりビデオとか観ると笑えるんですよね、どうしても。それはなんでだろ? 一所懸命だからかなぁ。まぁ、メンバー全員どっかで笑いを取ろうというヘンなクセも働いていると思います」
――あぁ(笑)。この曲自体かなりドメスティックな世界が展開しますけど、LEO IMAIバンドらしいエキゾ感があるといいますか、街の中華屋で食べるチキンライスのような無国籍感が素晴らしいと思いました。で、2曲目のeastern youth“夏の日の午後”のカヴァーにもどこかそんな感触があって、ベースにある和のテイストをどう料理するかが重要なポイントとなっている。
LEO「そうなんですよ。彼らは高校生のとき、大発見したと思えるぐらいすごく好きになったバンドなんですが、好きになったきっかけがこの曲だった。彼らの曲はどれも私に沁みついているから、選曲は迷いましたね。でもやるんだったら、自分にとって畏れ多いこの曲にチャレンジしてみようと思って」
――間違いなくLEOさんのルーツの一曲といえる“夏の日の午後”の良さってどういうものだと?
LEO「原曲のいちばんの良さは、吉野(寿)さんの歌だと思う。あんな嘆きのあるシャウトは、私には出せないから。なので曲のスピードを半分以下にして、メタルっぽいアレンジでカヴァーしたんです」
変拍子なのに〈ポテトサラダが食いてえ〉しか言っていないZAZEN BOYS“ポテトサラダ”
――3曲目はZAZEN BOYSの“ポテトサラダ”。
LEO「レコーディングはこの曲がいちばん大変でしたね。曲の拍子もタイム感もトリッキーだから」
シゲクニ「かなり時間がかかった。変拍子だからしっかり意識しないとどこがアタマだかわからなくなってしまう。とはいえ、頭を使ってばかりいて守りに入っちゃうと演奏の攻撃性がなくなっちゃうし、攻めつつ冷静に、ってバランスの取り方が難しかった」

――ドラマーとしてこの難曲にどう対しましたか?
LEO「白根さんは余裕でしたよね?」
白根「余裕じゃないよ(笑)。かなりトリッキーなリズムなので、けっこう考えてやって、ホント知恵熱出ましたよ。ふだんこういうのはあまり叩かないんでね。ただ、こっちは考えて考えてやっているんだけど、歌詞が〈ポテトサラダが食いてえ〉しか言ってなくって。だからそれがどうしたの?って」
一同「(爆笑)」
白根「イライラしてましたよ。それをストレートにぶつけたのがあの演奏ですよ」
LEO「なるほどね。歌詞にイラついてたんだ」
白根「でも、あれが向井(秀徳)さんの美学だからね。あの歌詞にトリッキーなオケを合わせるところがね。そういう意味ではZAZEN BOYSの良さを再発見する機会でもありました」
LEO「この曲のドラム・トラックを聴いていると、めっちゃシャッフルしていて面白いんですよね。オリジナルとはまったく別の曲に聴こえる。それが全体に溶け込んだとき、独特のグルーヴが出てるなと思えた。
アレンジしている段階では、NYのグルーヴィーなポスト・ハードコア・バンドの感じをイメージしてたんだけど、材料を組み合わせてみたら、なんでか知らないけどこういう面白い味になったから良かったなと」
ミクスチャー・バンドとして挑んだ呂布カルマ“ヤングたかじん”
――4曲目の呂布カルマ“ヤングたかじん”がまたスゴイ。個人的にはこのEPで最高の出来じゃないかと思っているんですが。
LEO「あぁ、そうですか。ラップ・ソングをこのバンドでカヴァーすることがなかったですけど、そもそもミクスチャー・バンドっぽさが強いバンドだと思っているので、やることに関してはすごく自然ではありましたね」
――つまりLEO IMAIバンドとしてはある意味で王道の一曲と言えると。
LEO「そうですね。これまで呂布カルマのライヴでこの曲を何度となく聴いていて、歌詞は所々しか聴き取れないんだけど、そこにはすごいインパクトとユーモアと知性が感じられた。サビもキャッチーだし、アルバムを買ってじっくり聴いたらトラックはDJシャドウ的な要素が感じられるし、とにかくカッコいいなと。
カヴァーする候補は他にもありましたが、この代表曲を採り上げることで多くの人が興味を示してくれるんじゃないかと思いまして。あと歌詞をしっかりおぼえて、って作業をやりつつ、なんか高校生の頃に戻った感覚がありましたね」
――その感覚って他の曲のときにもあったんですか?
LEO「何曲かは。でもその感覚を鮮明におぼえたのがこの曲でしたね」
普遍的なメロディーの前野健太“ファックミー”
〈一緒にやろうぜ!〉という思いを込めたペトロールズ“雨”
――なるほど。次は、彼の曲をやるならこの曲しかないだろ、と言っていい、前野健太の“ファックミー”。
LEO「この4人で初めてライヴをやったのが京都の磔磔だったんですけど、そのときの対バン相手が前野さんだったんですが、とにかく面白い人だなと。ライヴ後、いろいろ喋ってみたら、これは面白い!と思い知らされました」
岡村「そのとき彼は弾き語りだったんですが、リハで〈ファックミ~〉と始まったんで、おいおいちょっと待てよ!と驚いた(笑)。で、話をするうちに、こいつアホやんってすぐわかった。似たような不真面目さを持っていることもわかったし。
以前の〈大都会〉ではバンド・スタイルで出てもらってるんですが、そのときにLEOは“ファックミー”を前野さんバンドで歌って、前野さんは“Tokyo Lights”をLEO IMAIバンドで歌ったんですよ」
LEO「そのとき彼のバンドに入ってこの曲を歌わせてもらったんですけど、とにかく気持ち良かったんです」
――曲の世界観もしっくりきた?
LEO「そうですね、メロディーもしっくりきたし。今回アレンジはかなり変えてますが、ものすごくキャッチーな歌詞だし、メロディーも普遍的な良さがあって。どんなコードを当ててみてもこれは前野健太の曲だという揺るぎないものがあるので、思いっきり遊びました」
――キャッチーで普遍性の高い曲ということでは、最後に控えているペトロールズの“雨”もそうですよね。
LEO「静かで、EPのアウトロっぽい感じになってますね。いずれは〈大都会〉シリーズでペトロールズと一緒にやりたいと思っていたんです。ま、この曲をやってくださいよ、って彼らへのメッセージですね、このカヴァーは。やってください、というか、やろうぜ!って感じかな」
シゲクニ「回りくどいな(笑)」
LEO「彼らのトリビュート・アルバムにも参加しているし※、そういうコネクションのあるグループなんです」