吉田一郎不可触世界『えぴせし』怪人が生み出す人工物+人間の圧倒的美しさ

2020.05.12

ZAZEN BOYSを脱退して以降、TK from 凛として時雨からももいろクローバーZに至るさまざまなサポートを務めてきた吉田一郎が、5年ぶりの新作をついに完成。前作と同様に、作詞/作曲、アレンジ、楽器演奏、エンジニアリングまでをみずからが手掛けた本作は、80年代のエレポップ~ニューウェイヴへの愛情を基盤に、マシーン・ファンクやバレアリックなダンス・ミュージックを横断する当人の作家性がより色濃く反映された作品に。シンコペーションするリズムにラップを乗せた“B面のまほろば”、岡村ちゃんばりの歌唱を披露する“phoenixboy”あたりは表現力の高まりを感じさせるが、ただ快楽的というわけではなくどこか寂寥感が漂っているのは、シンガー・ソングライターとしての彼の本分だと言えよう。

 


もはやZAZEN BOYSの元ベーシストという肩書は不要な吉田一郎によるソロ・プロジェクトの、初作にして名作『あぱんだ』(2015年)より5年ぶりとなるセカンド・アルバム。前作の流れは汲みつつも、ちょっと照れ笑いが含まれていたような前作を真顔でアップデートしたような全10曲が並ぶ。人工的なビートに吉田の歌やベースが交わって、全体的に得も言われぬ美しさを醸し出しており、タイトルの『えぴせし』(EPITHESI)も、〈EPITHESIS〉(エピテーゼ=欠損した身体の一部を補う人工の医療具)からさらに一文字欠損した言葉だと思えば納得がいく。喩えるなら、無機質な箱の中に怪しい画家がいて、何年もひたすら美しい風景画を描いているとか、武道の達人がひたすら美しい演武を繰り広げているとかいったような……ある種の狂気すら感じられる美しさ。

歌唱、トラックはもちろんのこと、前作の名曲“暗渠”をそのままアップデートしたような“B面のまほろば”でのラップ的フロウやバッキバキのベースなど、細部に宿る個性も聴きどころでありつつ、それでいてスムーズに聴けて切なさも残るのがニクい。前作を超える大傑作。

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