こっ、この仙人みたいな白髪の男はもしや!? 最後のピースが集まり、オリジナル・ラインナップが復活。無敵の4人が紡ぐ圧倒的なグルーヴ、サンシャインなメロディー……これこそクーラ・シェイカーだ!!!!
やはり最盛期を共に過ごしたメンバーたちというのは、特別な化学反応を起こせるものなのだろうか。オルガン/キーボード奏者のジェイ・ダーリントンが1年前に電撃復帰を果たし、約24年ぶりにオリジナル・ラインナップとなったクーラ・シェイカーのニュー・アルバム『Natural Magick』。ここには、初期の彼らを想起せずにはいられない圧倒的なグルーヴとゴキゲンなヴァイブスが漲っている。間違いなく2006年の再結成以降ではベストな一枚だろう。例えばオアシスの場合を想像しても、どの面々での再結成を望むかと言われたら、明らかにゲム&アンディよりボーンヘッド&ギグジーのほうにワクワクしてしまうわけで……無敵な時間のなかにいた仲間というものは、ふたたび集まるだけでマジックを宿すのかもしれない。
思い出しても、クリスピアン・ミルズ(ヴォーカル/ギター)、アロンザ・ベヴァン(ベース)、ポール・ウィンターハート(ドラムス)、そしてジェイの4人から成るクーラ・シェイカーの登場は鮮烈だった。96年の1月にデビューした彼らは、同年9月にファースト・アルバム『K』をリリース。ブリット・ポップ全盛だったシーンのなかでも、インド文化を取り入れた世界観や、70年代のサイケやハード・ロックをルーツに持つサウンドの独自性は抜きん出ており、アルバムは大ヒットを記録。翌年のブリット・アワードに4部門でノミネートされるなど、バンドは瞬く間にUKロックの新たなヒーローへと登り詰めた。
その後、インド趣味が文化的盗用だと批判されたり、メンバーの裕福な家庭環境ゆえに一部のミュージシャンやメディアから目の敵にされたりと、(多くの場合は)不当なバックラッシュを受けつつも、99年に2作目『Peasants, Pigs & Astronauts』を発表。メロウな人気曲“Shower Your Love”などを収録した同作は、よりディープにサイケデリアを探求しており、まったく悪い作品ではなかったのだが、セールス的には不調。バンドは失速し、同年の9月に解散した。
とはいえ上記の通り、2006年にはジェイを除く3人と新メンバーとで再結成を果たしており、2007年の『Strangefolk』から20曲入りとなった2022年の大作『1st Congregational Church Of Eternal Love And Free Hugs』(凄いタイトル)まで、4作のアルバムをリリースしている。動きのない期間もあるものの、パーマネントに活動を続けており、良くも悪くもバンドは安定期にある印象だった。
だからこそ今回のリユニオンと、それを経て完成したアルバムが傑作であることは嬉しい。何と言うかメンバー全員が回春したかのような、瑞々しさとエネルギーに溢れているのだ。オープナーにして切れ味の鋭いギター・ロック“Gaslighting”から飛び跳ねて踊りたくなる。さらに2曲目の“Waves”は、まぎれもない名曲だ。パーカッシヴなリズムとソウルフルなオルガンに、クリスピアンならではの陽性のメロディーが乗るこの曲は、新しいアンセムになるだろう。そして続く表題曲はマンチェなムードが漂うダンス・ナンバー。
以降も、インド映画音楽の大家、RD・バーマンによる楽曲のカヴァーであり、ヒンディー語を歌う女性ヴォーカリストとデュエットした“Chura Liya (You Stole My Heart)”や、戦争への苛立ちを込めたファンク・ナンバー“F-Bombs”など多彩なアンサンブルで飽きさせない楽曲群からは、バンドの上々なコンディションが伝わってくる。またシタールなどインドの楽器が使われた流麗なポップソング“Something Dangerous”にも注目したい。と言うのも、この曲でタブラをプレイしているヒマネーシュ・クスワーミーは、なんと『K』収録の名曲“Govinda”に参加していたタブラ奏者の息子。オリジナルの4人に戻ったタイミングでの、この座組の実現はなんとも心憎い。
クーラ・シェイカーは、かくも痛快すぎるアルバムを引っ提げて、2月中旬に日本へと戻ってくる。これは最高のライヴを期待できそうだ。
クーラ・シェイカーの作品を一部紹介。
左から、2022年作『1st Congregational Church Of Eternal Love And Free Hugs』(Strange F.O.L.K.)、96年作『K』、99年作『Peasants, Pigs & Astronauts』(共にColumbia)