NOKKOのカラフルなソロ・キャリアを辿る豪華な10枚組ボックスが登場!

 80年代を代表するバンドのひとつであり、91年の解散や2015年の再結成を経てなお高い人気と影響力を誇るREBECCA。一方で、そのヴォーカルを務めるNOKKOも昨年の『土器土器』までコンスタントにソロ作を発表して現在進行形の姿を見せているわけだが、このたび彼女のソニー・ミュージック~アリスタジャパン(当時)所属時代におけるソロ活動の軌跡が初のボックスセット『NOKKO ARCHIVES 1992-2000』に集大成された。リマスタリングされたアルバム8枚+アルバム未収録曲集をBlu-Spec CD2仕様で収めた音源9枚と、初めてBlu-ray化された映像集から成る全10枚組は、彼女のソロ・アーティストとしての才に多面的な光を当てることになるだろう。

NOKKO 『NOKKO ARCHIVES 1992-2000』 ソニー(2024)

 まず、バンド解散後の92年3月に届いたソロ・デビュー作が、大半の詞曲を自身で手掛けた『ハレルヤ』だ。当時ソウルIIソウルやシンプリー・レッドの活動で脚光を浴びていた屋敷豪太がプロデュースを担当し、先行シングル“CRAZY CLOUDS”を筆頭にファンクやグラウンド・ビートを導入したグルーヴィーなサウンドを展開。Kenji Jammerやバーニー・ウォーレルらの演奏もパワフルな痛快作となった。

 そこにもあったハウスの快感にフォーカスしてクラブ・ミュージックへのさらなる傾倒を見せたのが93年4月の2作目『I Will Catch U.』である。ディー・ライトで世界的に名を馳せたテイ・トウワが表題曲を手掛け、ちょうど『So Tough』(93年)を全英ヒットさせていたセイント・エティエンヌの制作、さらにフランソワ・ケヴォーキアンのリミックス参加もあり、抑制の効いたクールな歌唱も相まって音楽性は大きく変化した。なお、翌5月には、1~2作目の収録曲を英詞で披露した海外デビュー作『CALL ME NIGHTLIFE』も残している。

 そうした海外志向に一段落つけて、幅広いポップなアレンジと親しみやすい歌心に揺り戻したのが94年12月の4作目『colored』であった。サトシ・トミイエと組んだラテン調の“Vivace”やキャッチーな“ライブがはねたら”などのシングル曲を軸に、岩﨑工やブラボー小松、佐久間正英らがアレンジを担当、小西康陽プロデュースの“CRYING ON MONDAY”やNOKKO自身が編曲した“Silver”も含む作風は多彩な歌唱の持ち味を活かすカラフルなもの。なかでもTVドラマ「時をかける少女」の主題歌だった筒美京平の作曲によるバラード“人魚”(NOKKOとテイ・トウワの共同プロデュース)はシングルが65万枚のセールスを記録するソロ最大のヒットとなり、安室奈美恵(同ドラマにも出演していた)らのカヴァーもあって歌い継がれる名曲となった。

 95年には阪神・淡路大震災の復興支援のために2日間限定でREBECCAの再結成が実現。それに続いた96年11月の5作目『RHYMING CAFE』は、実兄の山田貢司(REBECCAの結成メンバーでもあった)を共同プロデューサーに迎え、オーセンティックなロック主体のサウンドで原点回帰を表現する一作となる。埼玉にある実家の2階にスタジオを整えるというレコーディング環境もコンセプトを窺わせるもので、それ以前から関わってきた名エンジニアのGOH HOTODAがほぼ全編のミックスを担当しているのもポイントだろう。

 97年にはアリスタに移籍。そこでの初アルバムとなった〈のっこ〉名義での『ベランダの岸辺』(98年12月)は白井良明の全曲プロデュースによる隠れた名作だ。荒井由実“ベルベット・イースター”やミルトン・ナシメント“TRAVESSIA”のカヴァーを含み、川村結花が作曲した名曲“わすれな草”などの内省を深めた繊細でノスタルジックな歌世界は、現代の耳で聴いてもしっくり馴染むに違いない。

 そして20世紀最後のオリジナル作品となったのが2000年3月の7作目『Viaje』である。“フレンズ”のドラマ使用をきっかけにREBECCAが再注目を浴びていた状況下ながら、屋敷豪太のオーガニックなクラブ・サウンドと白井良明のブラジリアン風味を柱にした自然体の良品に仕上がっている。同年7月にはリミックス・アルバム『Remix NOKKO』も登場しているが、こちらはソニー時代の楽曲群をトランス~ドラムンベース~トリップ・ホップなどに仕立てた一枚だった。

 そして、それら8タイトル以上に今回のボックスセットの目玉となるのが、アルバム未収録のシングル音源をコンパイルしたDisc-9の『Non-Album Single Collection』だろう。特にアルバム単位での世界観を深めた90年代半ば以降はシングルが別軸で作られた例も多く、95年の『パレード/トカゲ』、シュープリームスのカヴァー“恋はあせらず”(97年)、アリスタ移籍作となったガレージ・ロック風の“水の中の小さな太陽”(97年)、高橋幸宏が編曲した“春雪うさぎ”(98年)など、曲単位での聴きどころもさまざま。ソロ・デビュー前の90年にNOKKOがMOTOKO(元NORMA JEANのギタリスト)と組んだSHORT HAIRS名義の唯一のシングル“トランジスタ グラマー”(BO GUMBOSのどんと、小嶋さちほも参加!)からの2曲が聴けるのも嬉しい。

 さらに、Blu-rayのDisc-10は『CLUB HALLELUJAH & CLIPS+』と題された映像作品集で、初作リリース後の92年8月に東京・晴海の特設会場で行われたゴージャスなライヴ〈CLUB HALLELUJAH〉の模様を中心にドキュメンタリー映像、MV集、TVスポットなどが収録されている。必見はやはりライヴ本編で、演奏にはKenji Jammer、バーニー・ウォーレル、ガイ・シグスワースらアルバム参加の面々に加え、キース・ルブラン(!)や無名時代のタルヴィン・シン(!)も参加。そんなバンドの紡ぎ出す強固なグルーヴを従え、しなやかな野性味を纏ったNOKKOのグラマラスなパフォーマンスが凄まじくかっこいい。

 そんな濃密な記録や記憶をパッケージした『NOKKO ARCHIVES 1992-2000』。長らく入手困難だった作品群の高音質な復刻という意味での価値はもちろんあるが、その時代ならではのフレッシュな表現と、その芯にあるNOKKOのタイムレスな魅力こそを改めて感じ取ってほしい。

左から、REBECCAのベスト盤『GOLDEN☆BEST REBECCA』(ソニー)、NOKKOの2023年作『土器土器』(Mastard)