ロック・バンドLACCO TOWERでも活動する松川ケイスケ、真一ジェットの二人からなるデュオの松川ジェット。彼らが2021年7月28日(水)にメジャー・デビュー・アルバム『彼女の出来事』をリリースする。

このアルバムの特徴は、収録される10曲すべてが往年の女性シンガーによる名曲のカヴァーである点だ。美空ひばりや中森明菜、山口百恵らによる時代を彩った名曲の数々を新たなサウンドメイクで表現し、松川ジェット色に昇華している。

今回は結成のエピソードを皮切りに、このアルバムがどのようにして生まれたのか、収録曲全10曲について解説をお願いした。松川ジェットとはどのようなアーティストなのか。この記事がそれを知っていただくきっかけになれば幸いだ。

松川ジェット 『彼女の出来事』 コロムビア(2021)

松川ジェットはLACCO TOWERの単なるスピンオフではない

――お二人がこのデュオを結成した経緯から教えてください。

松川ケイスケ「LACCO TOWERを結成して、5年目か6年目くらいのときかな。初代のギター(藤生和真)が抜けるという話になりまして。それまで僕たちは毎年7月に周年イベントをやっていたんですけど、そんなことがあったので〈今年はしょうがないかな〉と諦めかけていたんです。でもせっかくだから何かやりたいと思って、当時は別のバンド(鳥肌ジェット55)だった真一ジェットを誘い、それで〈ピアノと歌でライブをやれないか〉と声を掛けた。それが始まりですね」

――その当時からずっとカヴァーをやられている?

真一ジェット「LACCO TOWERの曲をピアノと歌でやるというのが最初のカヴァーですね。当時は他のアーティストのカヴァーはしていなかったと思います。あくまでLACCO TOWERの曲をピアノと歌でやるという感じでした」

松川「1曲だけ、真一が前にいたバンドの曲をやったよ」

真一「あー、あったかもしれないね」

松川「もしかしたら、それが初めのカヴァーかもしれない」

――そこから、どのような流れで他のアーティストをカヴァーしていくんですか?

真一「僕がLACCO TOWERに加入してからも松川と二人でやるときは、LACCOの曲がメインだった気がするんですが、せっかく二人なんだから他のアーティストのカヴァーもやってみたいという感じで自然とやるようになったんだと思います」

松川「たぶんきっかけは僕ですね。真ちゃんはなんでも弾けるから〈この曲がやりたい!〉って僕が最初にリクエストして(笑)。バンドだとカヴァーってなかなか難しいじゃないですか。だから好きだった曲、やりたかった曲を真ちゃんに〈弾ける?〉と訊いてそこから自然に始まった感じがあります」

――なるほど。現在の松川ジェットのコンセプトについても教えてください。

松川「今までもバンドから二人出ていってデュオで好きなようにやっているという感じではあったんですけど、今回デビューするにあたってはその自由度をより高めたいという思いがありました。せっかく二人でやるんだから、バンドでは出来ないことをもっとやっていきたい。だから明確な目標を決めずにYouTubeを始めたり、本当に好きな曲をただカヴァーしてみたりして。なので使命感に基づいてというよりは、楽しんでやっている感じかもしれないですね」

松川ジェットによる荒井由実“卒業写真”のカヴァー動画
 

真一「LACCO TOWERというバンドのヴォーカルとキーボードがやっているデュオという感じではなくて、松川ジェットという独立したアーティストとしてやっていきたいという思いはありますね」

 

松川ケイスケ

互いを〈天才〉と認め合うよき相棒たち

――お二人それぞれの互いに対する印象もお訊きしたくて。松川さんにとって真一さんはどういう存在ですか?

松川「考えたことがなかったな。18歳から一緒なんですよ。20年くらい一緒にいるので、本当に家族みたいな感じです。LACCO TOWERでも彼がメインで作曲をして僕がメインで作詞をするという感じで一緒に作っているので、そういう意味では〈相棒〉というのがしっくりきますかね……。〈友達〉というのとはちょっと違う気がするし(笑)。〈知り合い〉というと薄い感じもするし、みたいな。彼は一緒にいて、才能がある男だなと思いますね。僕はずっと彼のことを天才だと思っています」

――どういう部分で天才だと感じられます?

松川「のめり込み方ですかね。彼はスタジオで曲を作っているときに、丸椅子の上で体育座りをして4時間くらい動かないときがあるんです(笑)。それくらい何かを作る情熱があるんです。僕はどんどん作って、途中で変えていけばいいやと思うタイプなんだけど、彼は作るものに対しての熱量が高い。そこは僕にはない部分なのですごく尊敬しますし、作っているものを見ても他の人とは違うなと思います」

――では真一さんにとって松川さんは?

真一「さっきケイスケが言ったように、関係性でいくと〈家族〉が一番近いのかなって思います。兄弟的な感じ。

でも僕はね、本当の天才はケイスケだと常々思っています。僕はいろいろ道が見えてしまうので悩んでしまうんですけど、ケイスケは始めから見える道が一本に近いんじゃないかと。そこを見つけてすぐ手繰り寄せるみたいな人で、そういう人が本当の天才だと思っています。……こんな話したことないから、恥ずかしいですね(笑)」

松川「そうだね(笑)。初めてしましたよ」