優美かつ不穏な音でダンスフロアを震撼させてきたフレンチ・エレクトロの覇者が帰還!
ガバとディスコ——相反する要素を合体させた新作で、キザな2人は何を証明する?
ゼロ年代にフレンチ・エレクトロを定義したグザヴィエ・ドゥ・ロズネとギャスパール・オジェから成る2人組、ジャスティスを取り巻く状況がにわかに騒がしい。リル・ウージー・ヴァートはジャスティス初期の名曲“Stress”をサンプリングした“Fire Alarm”を2023年にドロップ。そして先日、新作のリリースを告知したウィークエンドはSNSに突如ジャスティスの写真を連投し、〈ジャスティスが新作に参加しているのでは?〉とネットがどよめいた。
「若い人たちがジャスティスの音楽を発見するフェイズに来ている」とはオフィシャル・インタヴューでのグザヴィエの弁だが、確かにデビューから約20年が経つ彼らは〈リヴァイヴァル20年周期説〉にも当てはまる。そんなふたたび注目が集まる絶好のタイミングで送り出されるのが、約8年ぶりの新作『Hyperdrama』だ。ライヴ映像作品『Iris:A Space Opera By Justice』(2019年)やリミックスなどを収めた『Woman Worldwide』(2018年)、20世紀の映画音楽にインスパイアされたというギャスパールのソロ『Escapades』(2021年)など、2016年の前作『Woman』以降の多彩な活動を経て送り出されるこのアルバムは、ジャスティスらしい美学と音楽的アイデアの新しさが共存する快作である。
ここで言う〈ジャスティスらしい美学〉とは、一般的には相反すると思われているもの同士を組み合わせ、そこから新しくて刺激的な何かを生み出す方法論のことだ。この発想はデビュー当初から一貫している。彼らのファースト・アルバム『†』(2007年)はディスコとヘヴィ・メタルを衝突させ、のちにフレンチ・エレクトロ、あるいはシンプルにエレクトロ(80年代のそれとは異なる)と呼ばれるサウンドを創出した。そして今作においては、なんとディスコとガバを合体させている。ガバとは90年代にロッテルダムを中心に発展したハードコア・テクノの一種。超高速のBPM、強烈な重低音、不穏かつ仰々しいシンセなどが特徴だ。それをディスコと掛け合わせるという、悪趣味ギリギリの発想こそがジャスティスの真骨頂である。例えば“Generator”では、前半は激しいガバのサウンドが吹き荒れ、後半は流麗なディスコ・グルーヴへと突入する。テーム・インパラのケヴィン・パーカーが参加した“One Night/All Night”も基本的にはガバとディスコの往復だ。字面で見るとトリッキーに感じるかもしれないが、実際の聴き心地はかなりスムース。それはおそらく、ディスコ・パートと組み合わせるためにガバ・パートのBPMを思い切り落として、BPMを統一しているからだろう。こうしたシンプルだが大胆なアイデアに、彼らの巧さが感じられる。
今作でジャスティスが組み合わせた相反するものは音楽ジャンルだけではない。先述したディスコとガバ、あるいはサンダーキャットが美しいファルセットを聴かせる“The End”ではR&Bとガバなど、今作はいくつかのジャンルが1曲の中に詰め込まれているという点ではマキシマムだが、一方で「ほとんどの曲には1つのループしか使われていない」(グザヴィエ)という観点から見るとミニマムな作品でもある。また、アルバム前半はジャスティスならではのアグレッシヴな曲が多いが、後半はコナン・モカシンが歌うコズミック・バラード“Explorer”、ミゲルのセクシーな美声が光るフューチャリスティックなファンク“Saturnine”といったスペイシーでメロディアスな曲が目立つ。これも意識的な対比だろう。
静と動、ミニマムとマキシマム、そしてディスコとガバ――『Hyperdrama』では対極に位置するさまざまなものがぶつかり合っている。それは、この極端さこそが新しい興奮を生み、人々をインスパイアするとジャスティスが信じていることの証左である。
ジャスティスの過去作とメンバーのソロ作を一部紹介。
左から、ジャスティスの2007年作『†』、2016年作『Woman』、2018年作『Woman Worldwide』(すべてEd Banger/Because)、ギャスパール・オジェの2021年作『Escapades』(Genesis / Ed Banger / Because)
『Hyperdrama』に参加したアーティストの近作。
左からテーム・インパラの2020年作『The Slow Rush』(Modular)、リモンの2020年のEP『I Shine. U Shine』(Alle$)、コナン・モカシンの2021年作『Jassbusters Two』(Mexican Summer)、ミゲルの2017年作『War & Leisure』(Bystorm / RCA)、サンダーキャットの2020年作『It Is What It Is』(Brainfeeder)