Photo by Olivia Bee

 

2000年代中盤~後半、インディー×エレクトロのクロスオーヴァー期における最大のスターとしてフランスから登場したグザヴィエ・ドゥ・ロズネギャスパール・オジェによるデュオ、ジャスティスが5年ぶり3枚目のニュー・アルバム『Woman』をリリースした。彼らは同作を引っ提げて11月末に来日し、東京・代官山Sankeys TYOで開催されたプレミアム・ショウにDJで出演。その模様はFacebook上で中継され、健在ぶりをアピールしていた。今回はそのタイミングで行ったインタヴューでの発言を交えつつ、『Woman』の制作意図を掘り下げてみたい。

JUSTICE Woman Ed Banger/Because/ワーナー(2016)

 

アルバムのテーマは女性的なパワー

2005年のシングル“Waters Of Nazareth”で注目を集めたジャスティスは、ハード・ロックやメタル的な荒ぶるディストーションを駆使してエレクトロ世代のもっともエクストリームな存在として登場すると、デビュー作『†』(2007年)ではダフト・パンクの系譜に連なるフレンチ・エレクトロに、TTCアフィをはじめとしたフレンチ・ヒップホップ的な要素も加えてゴールド・ディスクを獲得。続く2011年の『Audio, Video, Disco』ではバンド的な方法論をより作品に落とし込んだミステリアスなディスコ・ミュージックで、フランス・アルバム・チャート5位を記録した。

2007年作『†』収録曲“Waters Of Nazareth”
2007年作『† (Cross)』収録曲“D.A.N.C.E.”
2011年作『Audio, Video, Disco』収録曲“Audio, Video, Disco”
 

そして今回の新作『Woman』は、キャリア史上もっともエレクトロと生音が自然に溶け合う、しなやかなエレクトロ・ファンクが揃っている。楽曲は〈愛〉をテーマにしたものが大きな割合を占め、パワー/エナジーの表現方法を大きく変化。その象徴が、女性性を前面に打ち出したアルバム・タイトルだ。男性的ではなく女性的であり、〈少女(=Girl)〉ではなく〈女性(=Woman)〉であるということ。これは新作の重要な要素になっている。

「タイトルの〈Woman〉はパワーの象徴なんだ。男性的なパワーとは種類が違うけれど、女性には生命を生み出す圧倒的な力がある。それに剣と天秤を持った正義(Justice)のシンボルも女性だし(ギリシャ神話のテミスやローマ神話のユースティティアなど)、そもそも音楽が持つパワーというのも、僕らは肉体的なものとは違う種類のものだと思う。その象徴として、今回〈Woman〉という言葉を使ったんだよ。音楽で考えてみても、ラヴソングには同じ意味があるよね。そこには優しさや柔らかさがあると同時に、人の意思が宿った力強さがある。クラシック音楽だってそうさ。ディストーションをかけて表現する直接的な力とはまた違う種類の圧倒的なパワー。今回の作品では、そういうものを表現したいと思ってた。もともと僕らは〈女性的なものは柔らかくて優しい、男性的なものはハードで力強い(だからそうあるべき)〉という偏見がない環境で生きてきた人間だしね」(グザヴィエ・ドゥ・ロズネ)

 

2016年11月、代官山Sankeys TYOにて Photo by Yoshiaki Kayaki
 

ゴスペルにインスパイアされた『Woman』制作秘話

なかでも作品を通して顕著なのは、これまでにもあったディスコ的な要素が、60~70年代のソウル/ファンクを思わせるオーガニックなものに置き換えられているということだろう。

「僕らはずっとソウル・ミュージックを聴いてきたけど、その要素をジャスティスとして出すことに警戒していた部分があったんだと思う。僕らが〈ジャスティスの音楽はこうあるべき〉と考えてきたのは、デュオ編成だけどあくまでバンドであるということで、これまでも一貫して、楽器や音がぶつかり合うようなエナジーを重視してきた。だから、そこにソウル・ミュージックを大々的に入れてしまっていいのかということは、いつも慎重に考えていたことだったんだ。でも、キャリアを通じて作品を出していくなかで、いまは何をやっても自分たちが本来好きなもの――ディスコの雰囲気やファンキーな感覚が出てくるようになった。この『Woman』も相変わらず自分たちはバンドだという認識で作ったアルバムなのは間違いないけど、これまで以上に素直に、自分たちが好きなさまざまな要素を取り込むことができたんだと思う」(グザヴィエ)

「あと、このアルバムを作りはじめた時、僕らはクワイアの要素を入れたいと思っていたんだ。ゴスペルのアルバムを作ろうと思っていたわけではないけど、みんなが大勢で歌う時のあのエネルギーや昂揚感を上手く採り入れられたらと思った。これまでより少しレイドバックした音にしたいと考えていたんだ。そういった要素に、普段から重視しているバンドっぽさやどうしても好きで出てきてしまうディスコっぽさが合わさって生まれたのが、今回のソウル・ミュージックっぽいフィーリングなんだと思う」(グザヴィエ)

特に初期の作品において、ジャスティスの音楽には、アートワークに登場する十字架のモチーフ=〈宗教における絶対神〉を連想させる、個を越えた圧倒的なスケールがあった。しかし今回の作品ではラヴソングが収録されていることにも象徴的なように、彼らのよりパーソナルな表情が作品から垣間見える。そうして人間的な温度をスケール感やエナジーをさらに感じさせる表現方法として、ゴスペルやクワイアに辿り着いた部分もあるのだろう。そして、カニエ・ウェスト『The Life Of Pablo』やチャンス・ザ・ラッパー『Coloring Book』、ボン・イヴェール『22, A Million』ジェイムズ・ブレイク『The Colour In Anything』フランシス・アンド・ザ・ライツ『Farewell, Starlite!』といったクワイアの和声を電子音楽と組み合わせた作品を筆頭に、エレクトロニクスとクワイアとの融合は2016年の音楽シーンに顕著に表われた傾向だった。そうしたアルバムの数々を、彼らはどんなふうに見ていたのだろう?

「ボン・イヴェールは同じ頃に作品を作っていたはずで、新作はまだ少ししか聴けていないんだけど、すごく好きなんだよ。彼は本来フォーク系シンガー・ソングライターと言ってもいい人だけど、そこにエレクトロニックな音楽要素を加えたり、マルチ・トラックでヴォーカルを重ねたり、オートチューンを効果的に使っている。その在り方がすごく好きなんだ。ジェイムズ・ブレイクも、彼の音楽自体はそれほど聴いているわけではないけど、哲学的に共感する部分がある。僕らとジェイムズ・ブレイクに共通しているのは〈黒人になりたい白人〉だということだよね。僕らと音楽性は違うけれど、彼もその気持ちをありのまま出すとただの真似になってしまうから、ミニマルな音を加えて説得力を持たせてる。それは僕らの在り方とも同じだと思う。カニエの新作は全然聴いていないけど、ゴスペル色の強い作品を作ったという話は聞いているよ。映画でも、一時期『インターステラー』(2014年)や『ゼロ・グラビティ』(2013年)といった宇宙をテーマにしている作品がたくさん作られたように、ある時期にみんなが同じことを考えはじめるのは本当に不思議だよね」(グザヴィエ)

 

Photo by Olivia Bee
 

若手世代とジャスティスの関係性、キャリアを重ねるということ

既述の通り、ジャスティスの新作『Woman』は、2003年の結成以来、音楽性を常に変化させてきた2人が辿り着いた、キャリア史上もっともしなやかなレコードだ。しかし一方で、ここ数年はベース・ミュージックと融合したトラップ勢の間でジャスティスの初期作に対する再評価が進むほか、彼らの登場をリアルタイムでは経験していない若手世代からの再評価も顕著になっている。シミアン・モバイル・ディスコデジタリズムなど、かつてエレクトロ×インディーのクロスオーヴァーのなかで登場した朋友たちと同じように、彼らもまた年齢を重ね、若手世代の登場を経験し、アーティストとしての円熟期を迎えつつある。

DJスネイク&アレシアが2012年に発表したジャスティス“Stress”のトラップ・ヴァージョン。DJスネイクは2016年作『Encore』でUSチャート8位を獲得している
日本ではTREKKIE TRAXから作品をリリースし、12月21日に発表されるDOTAMAのベスト盤『DOTAMA BEST』で新録曲“本音”のプロデュースを担当しているMasayoshi Iimoriも、ジャスティス曲のトラップ・ヴァージョンを多数アップしている
 

「確かに、いまは僕らのデビュー当時のことを知らない人たちも増えた。まぁ、若い世代がリアルタイムで知らないのは当然だよね。僕らだって60年代の音楽を後追いで聴いてきたわけだし」(ギャスパール・オジェ)

「とはいえ僕らの場合、アルバムを作るたびにゼロからのやり直しなんだよ。僕らは頻繁にTVに出るわけじゃないし、SNSを熱心にやっているわけでもなくて、アルバムを出してある程度活動したらすぐに籠ってしまう。毎回アルバムを作って、それを説明して、新しい人に聴いてもらって……という作業を、一番下から積み上げている感覚で。でも、そんな僕らの音楽を若い人たちが見つけてくれて、影響を受けてくれるのは嬉しい。ディプロみたいな昔からの知り合いだけじゃなくて、会ったことのない若い人たちに〈あなたたちに影響を受けた〉と言われる経験も実際にあって、いまは僕らが影響を与える側になったという自覚もある。僕らはいつも挑戦を続けてきたし、自分たちの音楽を信じてきた。ハードコア的な意味ではなくとも、僕らの作品にはどれもある種のラディカルさ――自分たちのやりたいことを突き詰める姿勢の過激さがあったと思う。例えば、同じ音を作ったとしても、有名なポップ・シンガーをフィーチャーすればもっと簡単にみんなの耳に届いたかもしれない。でも、僕らの野心は音楽を有名にすることではなくて、自分たちが最高だと思うものをできるだけ妥協せず人の耳に届けるということなんだ」(グザヴィエ)

 


★12月16日追記

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