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日本の音と東アジア音楽をレプリゼント

それ以前に、NJSの開祖であるテディ・ライリーであったり、1980年代を代表するジョルジオ・モロダーやトレヴァー・ホーンといった、250も敬愛するプロデューサーたちが、ローランド、ヤマハ、コルグといった日本のシンセサイザーやリズムマシンを愛用していたことも重要なポイントだ。250は、先人たちへのリスペクトと共に、この〈日本の音〉が音楽文化にもたらした貢献に対するリスペクトを、楽曲の中で表現している。一つ前のシングル曲“How Sweet”でマイアミベースを引用し、昨年末にリリースされたリミックスアルバム『NJWMX』において、“Attention”と“Hype Boy”をNJSにリアレンジしているが、いずれもローランドが誇るリズムマシンの名機、TR-808の音の良さを極限まで引き出しており、それは“Supernatural”でも同様だ。

また、彼は影響を受けたアーティストとして真っ先に言及するほどの坂本龍一ファンなのだが、彼の提示する音楽には韓国人としてのナショナリズムを感じざるを得ないものの、それ以前に東アジアの音楽をレプリゼントする意識が大前提として含まれている。

 

性急だった80~90年代韓国とK-POPの原点を回顧

さらに、“Supernatural“を語るには、250の音楽原体験が欠かせない。2

1982年生まれで現在42歳の彼の根底には、1980年代後期以降の韓国音楽がある。当時の韓国は、トロットが最もポピュラーな音楽で、ソバンチャという韓国初と言われるアイドルグループが活躍し始めた時代。日本でも、ダウンタウンがコントで彼らのヒット曲を“オジャパメン”(1987年)として取り上げて有名になったが、明らかに音楽文化は後進的であった。ただ、そんな中でもワールドトレンドと並走していたシン・ヘチョルのようなオーセンティックなミュージシャンが、250の音楽原体験にあったという。ティーンエイジを迎えた彼は、ソテジワアイドゥル(Seo Taiji And Boys)のような、本格的なヒップホップサウンドを取り入れたアーティストに興味を持つことになる。

ソテジワアイドゥルは、後のK-POPの礎を築いたグループとして知られており、少し後にデビューするヒップホップデュオのDEUXや、H.O.T.のような〈K-POP第1世代〉に道筋を示した。ちなみに、メンバーには後にYGエンターテインメントを設立するヤン・ヒョンソクも所属していた。

そんな彼らの1992年にリリースした1stアルバムは、ヒップホップやNJSを大きく取り入れた作品なのだが、非常に強度のあるサウンドで、今の耳で聴いても古びて聴こえない。中でも、250がフェイバリットに挙げる“너와 함께한 시간속에서(In The Time Spent With You)”は、幽玄でリッチなアンビエンスを纏ったシンセサウンドが印象的な、美麗なメロディのスローなNJSであり、このシンセサウンドは、“Supernatural”にも明らかに影響を与えている。

SEOTAIJI & BOYS 『Seotaiji & Boys』 Bando(1992)

なにより驚くべきは、ソバンチャの時代から約5年でここまできたこと。いかに当時の韓国のエンターテインメントが性急であったかが窺えるが、その流れが1997年のIMF通貨危機に向かって、全てが性急であった韓国という国自体もオーバーラップしてしまう。

NewJeansの“Ditto”のMVは1999年が舞台であり、YouTubeで公開されているスニペットの一つには、〈IMFを乗り越えよう 再び走り出す韓国〉というメッセージが込められていた。

MVに登場する、NewJeansを撮影する6人目の少女を演じたパク・ジフは、映画「はちどり」(2018年)の主人公を演じた女優として有名になったが、この映画は全てが性急だったが故に起きた、1994年の聖水大橋崩落事故を題材にしている。

NewJeansの音楽や映像には、様々な文脈で90年代の急ぎ過ぎた韓国の回顧や反省が込められているが、そんなどん底からエンターテインメントを軸に復活を遂げた一つの終着点がNewJeansであり、彼女たちが表現して然るべきものなのだ。