5組の元恋人同士が集まり、刺激的な恋模様を繰り広げる恋愛リアリティ番組「ラブ トランジット」。シーズン1に続き、Prime Videoで現在配信中のシーズン2の主題歌を務めるのが、シンガーソングライター・eillだ。シーズン1でさまざまなシーンを彩った“happy ending”から約1年。シーズン2の主題歌“happy ever after”は、ピアノとボーカルを軸に、ぬくもりと激情が共存するラブソングに仕上がった。作り込まれたアレンジと歌に、eillはどんな想いを込めたのか。さらに、自身のルーツからこの先の展望まで、じっくり語ってもらった。

eill 『happy ever after』 ポニーキャニオン(2024)

 

「ラブ トランジット」には初恋に近いくらいのピュアさがある

――「ラブ トランジット」シーズン1に続いて、シーズン2でも主題歌のオファーが来たときのお気持ちはいかがでしたか?

「またご一緒できることがすごく嬉しかったです。こうして、作品とニコイチのような関係になれることはなかなかないので。シーズン1では、主題歌以外にも私の過去の曲を挿入歌として使っていただいたんですけど、音楽によって見ている方が感情移入するポイントになったという感想をたくさん耳にしたんですよね。だから、今回は〈シーズン1を知っている私はひと味違うぞ〉と思って(笑)。〈こういうシーンで流れてほしい〉みたいなイメージも湧きましたし、作る中でさらに寄り添えている気持ちがありました」

――経験を踏まえて、ちょっと狙っていける部分はありますよね。

「はい。実はシーズン1のとき、番組自体の流れが“happy ending”を作りながら私の中で想像していたものとは、結果的に180度違う方向にいった感覚があったんです。というのも、元恋人同士の恋愛リアリティ番組だから、もっとバトルロワイアル的な、バチバチした戦いが繰り広げられるんじゃないかと思っていて。自分の恋愛だったらどうなるだろうとか、たくさん考えて歌詞を書いたんです。そうしたら、実際は初恋に近いくらいのピュアさがありました。感情的にはそっちなんだ!と思って、シーズン2に挑む気持ちが完全に変わりました」

――具体的に、“happy ever after”はどういうふうに作り上げていったんですか。

「シーズン1の挿入歌として“片っぽ”というアコースティックバラードが使われていたんですけど、胸がギュンと苦しくなるようなシーンにすごく合っていたんですよね。だから、そういうシーンに寄り添える楽曲でもありたいし、かつ“happy ending”のように〈悲しかったとしても前に進んでいくんだよ〉みたいな強さもあってほしいなと思って。最初はピアノから始まって、どんどんふたりの物語が進んでいって、最後が幸せな終わりであっても、望んだものとは違う終わりであってもひとつの物語になる――みたいなイメージで作っていきました」

――ストックしてあったデモが基になっているそうですね。

「5年前くらい前に書いたデモから作りました。いつもピアノの弾き語りをボイスメモみたいな感じで録っているんですけど、“happy ever after”のデモは、友達と恋バナをした帰りに録音していて(笑)。そのときの自分の感情を言葉とメロディにして残しておいたような感じでしたね」

――そうなんですね。そのままピアノをメインにしたバラードにしようというのは、最初から決めていたんですか。

「音って、重ねれば重ねるほど説得力が増す場合もあるし、説得力がなくなる場合もあると思うんですけど、私は結構重ねがちなんです。本当はピアノと歌だけのシンプルなアレンジのほうがいいこともあるのに、今までは怖がってあんまりチャレンジできていませんでした。でも、何か物語があると音楽そのものの力が必要になるから。今回は『ラブ トランジット』の存在が、〈このままピアノでいこう〉と思える大きな後ろ盾になりました。

あとは、以前から自分の中に〈オルタナ〉というキーワードがあったので、オルタナっぽい歪んでるギターや低い音と、爆発しそうな感情の切ないメロディや歌詞をうまくひとつにできたらと思ってアレンジしました」

――だから、ピアノの音が全体的にくぐもったような音になっているんですね。

「最近、ビリー・アイリッシュやオリヴィア・ロドリゴも、トイピアノのようなちょっとビンテージ感がある音を使っていたりするので、自分もやってみたいと思っていたんです。ボーカルも、SHUREのSM58という会議とかでも使われるような定番マイクで録っていて。すごく近くで歌っているようなところから始まって、後半の英語のセクションでずっと堪えていた涙が爆発する――ここは私のなかでは回想シーンみたいなイメージなんですけど、冒頭の雰囲気と対照的になって良かったなと思います」