ロックンロールの未来を掴むためなら、ならず者にだってなるぜ――覚悟を刻んだ新作には、パブからスタジアムまで合唱を引き起こすアンセムが並んでいる!!
やはりこの4人組は、ひたすらグッド・メロディーを紡ぐロックンロール・バンドだ。アトランタ出身でバイターズのフロントマンとして活躍していたタック・スミスが2020年に結成したタック・スミス&ザ・レストレス・ハーツ。2022年のファースト・アルバム『Ballad Of A Misspent Youth(邦題:しくじった青春のバラッド)』で鳴らした、70~80年代の先達ロッカーたちの影響を随所に滲ませたサウンドは、往年のロック・ファンからも快哉をもって迎えられた。
そんな彼らが、待望のセカンド・アルバム『Rogue To Redemption(邦題:ならず者の代償)』を完成。前作と同様すべての曲タイムが3分台という潔さだ。アルバムの幕開けを飾る“Rogue To Redemption”と続く“Take The Long Way”は、イントロ~Aメロはハードエッジに立ち上がるのに、Bメロやサビに突入するとフックの利いたメロディーとユニゾンするヴォーカルで爽快に畳み掛けていくアッパー・チューン。この冒頭のワンツーパンチを聴くだけでもファースト・アルバム以上に強固なメロディーが展開されていることに気付くだろう。前作にあったハード・ロック色はやや薄れ、“Glorybound”や“Little Renegade”のようなシンガロング必至のパワー・ポップや、後述するグラム・ロック調のナンバーが鮮やかな印象を残す一枚だ。実にキャッチーで痛快なアルバムに仕上がっている。
ところで、タック・スミスに対するレコード会社側のキャッチフレーズは〈遅れてきたピュア・ロックンローラー〉というものだけど、これについて僕は半分正解で半分は違うんじゃないかなと思っている。もちろん彼の音楽が多分にピュアネスを含んでいることは確かだし、3分間の中でどれだけ魅力的なメロディーを紡ぐかということに全力を傾ける実直な男だとも感じる。でも、彼は決して天然ロック野郎というわけではない。マーク・ボランやデヴィッド・ボウイらグラムの先人たちが〈ロックスターを演じる〉というメタ視点を内包していたように、彼らを敬愛するタックもまたみずからをどこか客観視しているように思えるのだ。
彼はもともとブラック・フラッグやバズコックスに夢中なパンク・キッズだったが、クラッシュのルーツを遡るうちにモット・ザ・フープルやT・レックスなどグラム・ロックに辿り着き、そこからシン・リジィやチープ・トリックといったオーセンティックなロック・バンドにまで興味の幅を広げていった。2020年に配信オンリーでリリースされた全編カヴァー曲のEP『Covers From The Quarantine』では、デヴィッド・ボウイやザ・フーと共にINXSやラナ・デル・レイの曲までを披露している。要は思いのほか雑多な嗜好なのだが、彼はみずからの楽曲をもっとも引き立てるであろうサウンドのエレメントを、この引き出しの中から常に慎重にセレクトしているのではないか。彼の音楽がヴィンテージではあっても何か特定のジャンルには収まらない新鮮さを孕んでいるのは、この繊細な作業によるものだろう。決してただのピュアロッカーではない。
もうひとつ、僕はデビュー時からタック・スミスをオアシスと並列で語ってもおかしくないと思っていたのだけど、本作で改めて確信した。オアシスがグラム・ロックに影響を受けていることは知られているが、それが顕著な“Cigarettes & Alcohol”や“Some Might Say”と、本作収録の“Still A Dreamer”や“When The Party’s Over”との間に果たしてどれほどの音楽的な差異があるのか。少なくとも僕にはどちらも同じスピリットを宿した、ひたすら〈グッド・メロディーのロックンロール〉に聴こえるのだ。
タック・スミス&ザ・レストレス・ハーツの2022年作『Ballad Of A Misspent Youth』(MRG)