ひたすらグッド・メロディーを紡ぐロックンロール・ニューカマーの登場である。と言ってもフロントマンのタック・スミスはすでに10年以上のバンド・キャリアを積み重ねてきたツワモノなので、ポッと出の新人とはわけが違う。
ジョージア州アトランタの郊外で生まれたタックは、子どもの頃からクラッシュやブラック・フラッグなどのパンク~ハードコアを聴いて育ったというのだから、ませた悪童だったことは想像に難くない。とはいえ、彼がそのまま田舎のルード・ボーイとして終わらなかった理由は、次第に興味の範疇を往年のグラム・ロックやパワー・ポップ、ハード・ロックなどに拡大していった、音楽的探求心の貪欲さにあるように思える。
2009年にみずからが率いるバンド、バイターズを結成し、2015年にはファースト・アルバム『Electric Blood』をリリース。タワーレコードをはじめとする一部の輸入盤CDショップでも紹介されていたので、記憶にある方もいるかもしれない。2018年には解散してしまうのだが、その間に3作のアルバムと3作のEPを残しているのだからかなり精力的な活動を行っていたといえるだろう。
そして2020年1月には新たなユニットであるタック・スミス&ザ・レストレス・ハーツとして、シングル”What Kind Love"にてデビュー。同年にモトリー・クルー&デフ・レパードによるスタジアム・ツアーのオープニング・アクトにいきなり大抜擢されるのだが、不運にもコロナ禍でキャンセルの憂き目に遭ってしまう。その後の活動もままならない状況だったが、捨てる神あれば拾う神ありで、新たに設立されたMRGレーベルと契約を交わすことに成功。第1弾アーティストとして、このたびリリースされたのが本作『Ballad Of A Misspent Youth』(邦題:しくじった青春のバラッド)である。
バイターズ時代と比べるとスタイル自体が著しく変化しているわけではないが、タックがコロナ禍の中でとことんソングライティングに時間を費やしたことが反映されたのか、よりメロディー・オリエンテッドかつスタジオワーク重視の傾向が強まっている。以前はAC/DC的なところに軸足を置いていたものを、本作ではチープ・トリック的な位置に比重を移したと言えば伝わるだろうか。
一例として、日本での配信ファースト・シングル”Girls On The East Side Of Town"を挙げてみよう。曲の骨子としてはハード・ブギなのだが、歌メロは非常にキャッチー。またヴォーカルをユニゾンしたり、エレキ・ギターの間奏前後にあえてアコギでアクセントを入れたりしてサウンドの彩りを工夫している。明快な旋律とアレンジへのこだわりが、シンプルなブギを膨らみのあるポップなロックンロールへと昇華させているのだ。
ハスキーな男気ヴォーカルにハードなギター・サウンド、そしてキャッチーなメロディーという組み合わせは、70年代のハード・ロックや80年代のグラム・メタル、あるいはメインストリームのパワー・ポップなどが好きならば直球で突き刺さるに違いない。ただ一方で(みずから例を出しておきながら相反してしまうことは承知で言うが)、そうした偏狭なジャンル括りは彼らには不要な気もまたするのだ。
たとえば、アルバム中でもっともエモーショナルな楽曲”Everybody Loves You When You’re Dead"は、ハード・ロック視点ではパワー・バラードということになるだろう。でももっと単純に〈歌心溢れるこみ上げソング〉と捉えれば、オアシスの”Don’t Look Back In Anger"と並べてみても別段おかしくはないのである。
ひたすらグッド・メロディーを紡ぐロックンロール・バンド。それだけで最高じゃないか。
タック・スミス&ザ・レストレス・ハーツ
タック・スミス(ヴォーカル/ギター)、リッキー・ドーヴァーJr(ギター)、シェイン・リッカーソン(ベース)、ナイジェル・デュプリー(ドラムス)から成る4人組バンド。現在は米ナッシュヴィルを拠点に活動している。2020年の“What Kinda Love”を皮切りに数々の楽曲とカヴァーEP『Covers From The Quarantine』を配信で発表。その後、MRGの第1弾アーティストとして契約し、このたびファースト・アルバム『Ballad Of A Misspent Youth』(MRG/ソニー)をリリースしたばかり。