サザンらしい選曲で幕を開けたロッキンのステージ
サザンオールスターズが〈最後の夏フェス出演〉を発表したのは、46回目のデビュー記念日である2024年6月25日。その舞台は〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 in HITACHINAKA〉だ。錚々たるアーティストたちが出演する同フェス最終日のヘッドライナーとしてサザンが登場し、夏フェスを勇退するという一報は、長年のファンだけでなく日本のエンタメ界全体に大きな衝撃を与えた。
出演発表の際、桑田佳祐は〈我々高齢者バンドにとって、令和の夏は暑すぎるよ(笑)〉〈後進の素晴らしいミュージシャンたちに日本の夏フェスの未来は託したいと思います〉とコメントしていた。この思いは当日ステージ上でも桑田本人の口から語られていたが、当初アナウンスされた際は少しばかり寂しい思いを抱いてしまった。
結局その寂しさは、この先のサザンの未来を思う明るい希望へと変わっていった。〈最後〉だからではなく、せっかくの夏フェスなんだからというフレッシュな思い。しみったれた感情など一切持たず、ただフェスという祭りを楽しむつもりで、サザンはロッキンのステージに登場した。
サザンの登場まで、海側から吹く風に凍えていた観客たちだったが、開演を告げるBGMが鳴ると同時にボルテージを上げていく。斎藤誠らお馴染みのサポートメンバーに続いて、サザンの5人がステージに姿を見せる。拍手と歓声のなか迎え入れられたバンドが1曲目に選んだのは“女呼んでブギ”。昨年の〈茅ヶ崎ライブ2023〉でも開始序盤に披露され、デビューアルバム『熱い胸さわぎ』(1978年)収録の楽曲ともあって、サザンらしい選曲だ。
曲の途中、「ひたちなかに来てくれた皆さん、ありがとう〜!」と桑田が感謝を述べ、アウトロではお馴染みの尻フリも飛び出す。〈最後の夏フェス〉のステージの幕開けに、5万人の観客も興奮を抑えきれないようだ。
「よい天気にしてくれて本当にありがとう! 最後にノコノコ出てまいりました。今日みなさんに会えるのを心から楽しみにしておりました。サザンオールスターズでーす!」。桑田の丁寧かつ陽気な挨拶にオーディエンスが大歓声で反応するなか、間髪入れずに「THE YELLOW MONKEYが終わったら半分ぐらい帰るって聞いてたんですけど(笑)。残ってくれてありがとう!」とオトすあたり、なんともサザンらしい。ちなみに、サザンの直前に登場したTHE YELLOW MONKEYの吉井和哉は、学生時代に生まれて初めてステージで歌ったのがサザンオールスターズの曲だったとMCで明かしていた。
“女呼んでブギ”に続くナンバーとして選ばれたのが、最新シングルの“ジャンヌ・ダルクによろしく”だったことに驚く。ひたちなかに集結した人たちも、ライブビューイングで鑑賞している全国のファンもライブでの披露を期待していた楽曲のひとつだったはずで、こんなにも早々に演奏されるとは。そうした予想を見事に裏切ったタイミングで投下された最新曲は、1970年代のUSロックを感じさせるギターリフのイントロから拳を握りたくなる、サザン流の王道ロックだ。
真っ赤な照明と激しい特効を受け、会場全体にステージの熱が広がっていく。間奏のボトルネックでのギターソロも音源以上に桑田のテクニックが反映されていて、強烈なライブ感に圧倒された。その勢いは“My Foreplay Music”でも失速することなく、印象的な原由子のピアノと松田弘の力強いドラムを筆頭に、ライブバンドとしてのサザンの強靭なポップネスが際立っていた。
思い出を更新していく名曲の数々
怒涛の流れから一転、ブレイクタイムと言わんばかりに挟まれた“海”によって会場は甘美なムードへ。ここまでの3曲で熱った身体を冷ますような人懐っこいメロディ、そして幻想的なコーラスワークが過ぎ去っていく夏をもう一度引き戻す。寄せては返す波のようなひと夏の恋のときめきを歌った名曲を耳にして、5万人が恍惚の表情を浮かべている。
久々の披露となった“神の島遥か国”では、ひたちなかに沖縄の風を吹かせ、桑田の私小説的な表現が胸に刺さる“栄光の男”では山本拓夫のハーモニカが哀愁を増幅させる。
そうしたヒットナンバーが続くライブ前半で、個人的なハイライトが“愛の言霊(ことだま)~Spiritual Message~”だった。1990年代のサザンを代表するミリオンヒット曲は、時代や国籍を超越した桑田によるラップ、アジアにも欧米にも該当しない独自のサウンドデザインなど、J-POPシーンにおいても特に異彩を放つナンバーだ。シンプルなリズムパターンの上をソウルフルなボーカル、重厚なブラスが縦横無尽に駆け抜けていく。
おそらくサザンは意図していないとは思うが、“愛の言霊”はこの日に出演したCreepy Nutsと〈ラップ〉という共通項で紐づけることができる。終演後に気づいたが、サザンが披露した楽曲のいずれかはCreepy Nutsと同様、同日に出演した各アーティストとなにかしら繋がる要素があるように思えた。サザンのこれまでの音楽的挑戦があってこそ見出すことができた気づきに、改めて彼らの偉大さを強く感じる。
“いとしのエリー”“思い過ごしも恋のうち”と1979年リリースの3rd〜4thシングルが立て続けに披露された流れも秀逸だった。発売当時にリアルタイムで聴いていたファンも、自分のように後追いで触れた世代も、各々がサザンとの出会いを思い出す。そうした楽曲との記憶が、こうしたライブを経てまた更新されていくのだ。
一旦MCを挟むと、桑田がライブビューイングで見ている全国のファンに向けて手を振る場面も。また、このロッキンのステージがサザンにとって〈最後の夏フェス〉であることに再度触れると、「まぁ、夏フェスは最後だけど……秋はね(笑)」と笑いを誘う。さらにヤバイTシャツ屋さん、WANIMA、ももいろクローバーZなど出演者たちと交流したことも明かした。ここでのMCがライブ最後の大団円の伏線になっているとは、さすがにこのときは気づきもしなかった。