サザンオールスターズが4日間におよぶ〈茅ヶ崎ライブ2023〉を無事終えた。茅ヶ崎公園野球場で開催された同ライブのうち、2公演は全国の映画館にてライブビューイングが行われるなど、現地に足を運んだ観客だけでなく日本全土のサザンファンがその特別なステージを目撃したことだろう。〈次なる計画〉への宣言もあった記念すべき〈茅ヶ崎ライブ2023〉、その最終日の模様をライターの長谷川誠がレポートする。 *Mikiki編集部
茅ヶ崎がサザン一色に染まった4日間
茅ヶ崎の街全体がフェス会場みたいだった。駅の改札を抜けた瞬間に、気分が高揚した人もいたのではないだろうか。桑田佳祐の生まれ育った街であり、サザンオールスターズの聖地である茅ヶ崎でライブを観るのは、特別な体験だ。茅ヶ崎公園野球場での開催は2000年、2013年についで3回目である。45周年イヤーにあたる今回は、史上初の4日間の開催となった。その〈茅ヶ崎ライブ2023〉最終日の10月1日、日曜日。
頭上に広がる空には、すでに秋の気配が漂っていた。淡いブルーの空に浮かぶ白いうろこ雲、かすかに吹く心地よい潮風、空も海も街もライブの壮大なセットの一部であるかのようだ。桑田と同じく茅ヶ崎出身の大スター、加山雄三の“夕陽は赤く”、“君といつまでも”が場内に流れて、桑田佳祐(ボーカル/ギター)、原 由子(キーボード/ボーカル)、関口和之(ベース)、野沢秀行(パーカッション)、松田弘(ドラム)がそれぞれの肩に手をかけて縦一列で登場した。ステージ背後に設置された巨大なLEDスクリーンからも、メンバーの様子が確認できる。
「どうもありがとう!」という桑田の挨拶に続いて、オープニングナンバーの“C調言葉に御用心”が始まった瞬間に、祝砲のような花火が上がり、大きな歓声とハンドクラップが起こった。メンバーのドリーミーなコーラスに続いて、桑田の歌が加わり、サザンオールスターズの音楽の世界が会場内に広がっていく。
海に隣接する茅ヶ崎公園野球場で聴いていると、〈波に消えた〉〈砂の浜辺〉などのフレーズがリアルに響いてくる。軽薄な男を主人公とした妄想まじりのエロソングでありながら、明るさの背後からせつなさがにじむ名曲として成立しているところに、サザンオールスターズの音楽の懐の深さがある。続いての“女呼んでブギ”も観客のハンドクラップの中での演奏。桑田が歌っている途中で「帰ってきたよ~」と替え歌もはさむと、大きな歓声が起こった。

「愛とロマンを歌うサザンオールスターズです。個人的には里帰りさせていただきました。茅ヶ崎へようこそ」との桑田の挨拶から〈ようこそここへ クック クック〉(“わたしの青い鳥”)と口ずさむ場面もあった。もちろん観客も「クック クック」とレスポンス。「熱いご声援とパワーをいっぱいください。最終日、なんでもやります!!」と桑田。
“YOU”、“My Foreplay Music”、“涙のキッス”など、デビュー45周年ということで、さまざまな年代の代表曲や人気曲が並ぶセットリストだ。“夏をあきらめて”では、〈江ノ島が遠くにボンヤリ寝てる〉というフレーズを、江ノ島の近くで聴けることの幸せを感じた。バンドと観客と茅ヶ崎という場所が共鳴しあうことで、魔法のようなライブ空間が出現していた。
ライブだからこそ伝わるサザンオールスターズの独自性
“Moon Light Lover”ではLEDスクリーンに月が映っていて、まるで野球場の上空にひと足早く月が上ったかのようだった。“栄光の男”では〈喜びを誰かと/分かち合うのが人生さ〉というフレーズにグッときてしまった。この場所のこの瞬間に、会場内の全員が喜びを分かち合っていると感じたからだ。“OH!! SUMMER QUEEN ~夏の女王様~”では桑田がスライドギターのソロを弾く場面もあった。サポートメンバーは斎藤誠(ギター)、片山敦夫(キーボード)、TIGER(コーラス)、山本拓夫(サックス/コーラス)、吉田治(サックス)、菅坡雅彦(トランペット)の6人。全員で1つのバンドと言いたくなるような一体感あふれる演奏の数々に胸が躍った。
メンバーが持ち回りで、曲の終わりの合図を出していた。桑田がその担当メンバーを見つめて、タイミングを図る様子がたびたび映し出されていた。バンドが思う存分楽しんで演奏していることが伝わってくる場面だ。楽器を演奏するのが楽しくてしょうがないアマチュアバンドのようなピュアさと、音楽としての完成度の高さを徹底的に追求するプロフェッショナルとしてのストイックさを併せ持っているところにも、サザンオールスターズというバンドの独自性があるのではないだろうか。

日が暮れて、空が暗くなって始まった“そんなヒロシに騙されて”では、原がハンドマイクを持ち、ステージのセンターで歌った。艶やかな歌声に合わせて観客もシンガロングしている。バンドの生み出すグルーヴに客席が揺れている。関口、原、桑田、野沢が横一列になって演奏すると、ひときわ歓声が大きくなった。
思いの詰まった歌声とソウルフルな演奏が圧巻だったのは“いとしのエリー”だ。こんなに愛情深い歌声はそうはない。聴き手を浄化するようなパワーを備えている。曲が終わった瞬間、まばゆいほどのライトが客席を照らしていた。
〈茅ヶ崎ライブ2023〉のテーマソングとして配信・ストリーミングで8月2日にリリースされた“歌えニッポンの空”は、松田のカウントで始まり、華やかな衣装に身を包んだダンサーがこの日初めて登場。そこに観客のハンドクラップも加わった。茅ヶ崎の景色も盛り込まれており、この場所で歌われるべくして生まれた歌でもあるだろう。温かな歌声とコーラス、丹念な演奏が茅ヶ崎の空や海に響きわたっていく。〈ありがとう!〉という歌詞のところでは、観客も「ありがっとう!」と歌って応えている。「こちらこそだよ!」と桑田。なんと麗しきコール&レスポンスだろうか。〈ここは茅ヶ崎〉と桑田が歌詞を替えて歌うと、「ヒューッ!」という歓声が起こった。この曲はタイトルに〈ニッポンの空〉とあるように、それぞれの人の故郷への思いを描いた歌でもあるだろう。すべての街はひとつの空でつながっている。地域も時間軸も越えた大きな大きな歌。セットリストのほぼ真ん中で演奏されたのだが、45年の間に発表された名曲の数々の中で自然に馴染んでいた。
“真夏の果実”など茅ヶ崎に響く名曲の数々
夢のような瞬間が出現した“君だけに夢をもう一度”に続いての“東京VICTORY”では、会場の四方から空に向かってレーザー光線が放たれる演出があった。その光の筋がアリーナ上空の宙の一点で交わり、まるで星のように輝いていた。一点に交わっていたのはレーザー光線だけではない。桑田の雄叫びに観客の雄叫びが交わっていく。会場内が一体となってシャウトし、こぶしを挙げて、拍手し、そして歌っている。観客に配布されたリストバンド型ライト〈烏帽子ライト〉も輝き、上からも横からも光が降りそそいだ。
“栞(しおり)のテーマ”、“太陽は罪な奴”、“真夏の果実”、“LOVE AFFAIR~秘密のデート~”、“ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)”と、これでもかと名曲の数々が演奏され、イントロが流れるたびに、悲鳴にも似た歓声が起こった。7月に配信でリリースされた新曲“盆ギリ恋歌”は、妖しいトランペットの響きに導かれるようにして始まった。呪文のようなギターリフ、ロックや音頭や子守歌を融合したようなグルーヴがクセになる。時代もジャンルもミックス、お盆もお祭りもエロも魑魅魍魎もシャッフルした猥雑なパワーを放つ歌の世界をバンドが見事に表現して演奏している。〈江ノ島が見えてきた 俺の家も近い〉など、桑田が念仏のように歌う。茅ヶ崎公園野球場が混沌としたエネルギー渦巻く魔界になったかのようだ。
ジャジーなピアノの演奏に乗って「水に流すのはどうだい?」と即興でブルースを歌ったかと思うと、そのまま“みんなのうた”へ。桑田がホースを手にして、観客に水を撒く場面もあった。かつて恒例となっていた放水の演出の復活で、客席のテンションもさらに高くなっていく。“みんなのうた”をみんなが歌っている。観客が両手を横に振っていて、野球場内が江ノ島の海の波のように揺れている。〈故郷への帰還〉だけでなく、コロナ禍を経て、〈本来のライブへの帰還〉を象徴する場面だった。

「もっとやるかー、茅ヶ崎!」と桑田があおって始まった本編ラストは“マンピーのG★SPOT”。無礼講的な、自在な演出満載のエロティックなロックンロールだ。桑田は〈G〉マークが〈爺〉になった被り物をしている。こんなエネルギッシュでワイルドなベテランがいるだろうか? セクシーなダンサーも登場しての華々しいフィナーレだ。本編が終了すると、拍手、歓声、ウェーブが起こった。
アンコール1曲目は“ロックンロール・スーパーマン~Rock’n Roll Superman~”。最終日のみの演奏とのことだが、ライブという非日常の空間から日常の中へと戻った時に、現実に立ち向かっていくためのエールの歌のようにも響いてきた。“Ya Ya (あの時代(とき)を忘れない)”、“希望の轍”と時代を越えて輝く名曲が演奏されていく。
サザンオールスターズの次なる計画
この日演奏された歌の数々から郷愁の念を感じた瞬間が多々あった。それは、海の波の音を聞きながら育った人が曲を作っているからなのかもしれない。波の音は母なるものの象徴とされている。郷愁の思いは年月を経ても薄れることのないものだ。むしろ、年を重ねて多くの別れを経験することにより、さらに強くなっていくものだろう。
サザンオールスターズの音楽が常にみずみずしく響いてくる要因のひとつは、曲の根底に流れる郷愁ゆえなのではないだろうか。そして郷愁をノスタルジーとして完結させるのではなく、未来に進むための糧とし、希望の歌として描けるところに、サザンオールスターズの素晴らしさがあると思うのだ。
もちろん“盆ギリ恋歌”のような得体の知れない歌もある。理屈抜きで、いつまでもフレッシュかつエネルギッシュな曲もたくさんある。アンコールの最後“勝手にシンドバッド”もそんな曲のひとつだ。一瞬にして、頭の中を真っ白にしてくれる歌。大きな声でのコール&レスポンスで会場内は熱狂に包まれた。
「フレー! フレー! 茅ヶ崎!」というコール&レスポンスが茅ヶ崎の夜空に響く。サンバダンサーが踊り、上手と下手では神輿が担がれ、祭のようなにぎやかな場面が出現した。45年前にこの歌で始まり、45周年のライブをこの歌で閉じるのは、必然的な流れだろう。「10タイムス・ジャンプ!」という桑田のかけ声で、会場内が一緒に10回ジャンプしてのフィニッシュ。

26曲、約2時間半。最後は最新曲“Relay〜杜の詩”をバックにエンドロールが流れた。感動させたり、熱狂させたり、泣かせたり、笑わせたり、驚かせたりの濃密なライブ。会場内の観客をもれなくハッピーにする歌と演奏の連続だった。4日間トータルで7万2000人、全国各地の映画館での2日間のライブビューイング参加者が各約10万人でトータル27万2000人。〈茅ヶ崎ライブ2023〉はこれで終演となったが、バンドにとってはあくまでもひとつの区切りだろう。
桑田からこんな言葉もあった。「たくさんの方のご理解とご協力があって、4日間ここまでやることができました。幸せでございます。ありがとうございました。また楽しい逢瀬が叶いますように、サザンオールスターズ、次なる計画を練りまして、ご報告することをお約束します」。
アントニオ猪木に向けて放った闘魂注入
コンサートが始まる前に、サザンビーチや周辺の道路を回ったのだが、茅ヶ崎の住民に迷惑がかからないように、可能な限り配慮をしての開催であることがわかった。会場へのルートには数十メートルおきにスタッフや警備員が配置されており、民家のある道路への交通規制が行われていた。炎天下の中で、スタッフが道行く人に丁寧に「ありがとうございます」と声をかけていたのが印象的だった。茅ヶ崎公園野球場でこんなにも大規模なライブをやることの困難さは、計り知れないものがあるだろう。地域住民や多くの人の理解や協力があるからこそ、そして多くのスタッフが支えているからこそ、成立していることも実感した。サザンオールスターズの音楽の素晴らしさとともに、チームとしての素晴らしさを感じた一日でもあった。
終演後の最後の最後に桑田からこんな言葉もあった。
「奇しくも今日は私の大好きだったアントニオ猪木さんのご命日です。心を込めてご唱和願います」との言葉に続いて、「1、2、3、ダー!」と闘魂を注入したのだ。迎え火や送り火のようでもあり、夏の終わりを告げるようでもある花火も上がった。たくさんの歌が観客の胸の中を彩り、花火が夜空を彩った〈茅ヶ崎ライブ2023〉。ライブ中にドローンとともにトンボが飛んでいて、秋の到来を感じた瞬間もあった。だが、季節が巡り、やがてまた夏が訪れるように、サザンオールスターズも次なるお楽しみを携えて帰ってくるだろう。

SETLIST
1. C調言葉に御用心
2. 女呼んでブギ
3. YOU
4. My Foreplay Music
5. 涙のキッス
6. 夏をあきらめて
7. Moon Light Lover
8. 栄光の男
9. OH!! SUMMER QUEEN ~夏の女王様~
10. そんなヒロシに騙されて
11. いとしのエリー
12. 歌えニッポンの空
13. 君だけに夢をもう一度
14. 東京VICTORY
15. 栞(しおり)のテーマ
16. 太陽は罪な奴
17. 真夏の果実
18. LOVE AFFAIR~秘密のデート~
19. ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)
20. 盆ギリ恋歌
21. みんなのうた
22. マンピーのG★SPOT
23. ロックンロール・スーパーマン~Rock’n Roll Superman~
24. Ya Ya (あの時代(とき)を忘れない)
25. 希望の轍
26. 勝手にシンドバッド
サザンオールスターズの〈茅ヶ崎ライブ2023〉公式セットリストが公開中
https://taishita.lnk.to/CHIGASAKILIVE2023


