
コロナ禍とソロ演奏から辿り着いた〈回想〉というコンセプト
――全曲オリジナルで固められ、『Reminiscence』(回想)と名付けられた本作は、25年の節目にこれまで培ってきたものを文字通り〈回想〉して作りあげたキャリアの集大成であると同時に、今後も見据えた〈現在地〉と捉えてよろしいでしょうか?
「まさに〈現在地〉といえますね。でも最初からそういうコンセプトで作ったわけではなく、曲を選んで録音したものを聴いてみたら、自分のキャリアの〈回想〉であると同時に現在地点の確認だったりすることにも気づきました。
収録曲はこの3~4年の間、つまりコロナ禍の間に書き溜めたものが中心になっています。コロナ禍ではソロバイオリンでライブを行い、ソロバイオリンのアルバムも作って……ということをしていたのですが、そんな活動の中、自分と向き合う時間も増えた結果、〈回想〉というテーマが自分の中で生まれました。だから、今作にはそんな思いを馳せるような曲を集めています」
――1曲目“Mirage”は、藤本一馬さんによるトレモロの効いたギターが印象的です。
「藤本さんのことは、ピアノの伊藤志宏さんと共演していることもあり、以前からずっと〈共演したいな〉と思っていて、それがかなったのは3年前のことでした。本作ではトリオ、デュオ、そしてこのカルテットの3曲で参加していただくことができました。
“Mirage”は、まずトリオで録音したのですが、藤本さんはその録音を聴きながら弾いてくれたんです。最初のリハーサルにはなかったさまざまなアイデアをトリオの演奏に重ねてくださり、曲に新たな生命を与えてくれました」
――続く“Windmill”は、黒沢綾さんによるボイスがミニマルな曲想を引き立てていますね。
「特に意識しているわけではないのですが、ここ最近は不思議とミニマルな曲を作ることが多いですね。黒沢さんとはコロナ禍になってから共演することが多くなり、ボイスの透明感やインプロバイズの感触がこの曲に合っているな、と思って参加していただきました。
彼女はブラジルの知性派シンガー、タチアナ・パーハに傾倒していて、彼女のアルバムをいろいろ紹介してもらったり、いつも刺激をもらっています」
伊藤志宏や伊東佑季ら信頼する盟友たち
――“Migratory Bird”はピアノの伊藤志宏さんの曲にインスパイアされたそうですね。
「志宏さんとは本作に参加してくださったメンバーの中でもダントツに関係が長く、もうかれこれ20年以上一緒に音楽をやり続けています。ですから私の音楽的な遍歴もずっと近くで見てくださっているし、かなり深いところで私の音楽やその意図を理解してくださっている人です。
私の作品に彼が参加してくださるのはもちろん、ボーカリストのサポートや大編成のバンドなど、彼が手がけているプロジェクトに私が参加させていただいたり、本当にさまざまな音楽をこれまでに共有してきた〈盟友〉といってもいい、とても大きな存在ですね。
“Migratory Bird”は、そんな彼の“啼く鳥を探して”という曲にインスパイアされたんです。志宏さんとベースの伊東佑季さんとのトリオを思い浮かべながら作りました」
――伊東佑季さんについては?
「佑季さんと一緒に演奏すると、いつも不思議と解放される自分がいるんです。豊かなベースの音に加え、熱のあるアプローチで音楽をいつも前に進めてくれる頼もしい存在なので、トリオに誘いました。これまでにいろいろな編成で共演していますが、やはりベースとバイオリンのデュオの感触が信頼関係の礎になっていると思います」
――黒沢さんが歌う“ふと、”は、どこか古き良きシンガーソングライター的世界が広がる前半のハイライトだと思います。
「黒沢さんとはコロナ禍の頃に連絡を取り合うようになり、共演する機会も増えました。
私、弾き語りにとても惹かれるんです。さまざまな方の弾き語りを聴いて、独特な呼吸の感覚があるというか……。黒沢さんの弾き語りもとても素敵で、その弾き語りとのデュオがしたい!と思って、彼女と一緒にツアーもしたし、今回は〈一緒に曲を作れたらいいね〉といって作った2曲のうちの1曲がこの“ふと、”なんです。もう1曲は、今後どのようなカタチで世に出るか……お楽しみに」