西山瞳(ピアノ)

『Dot』は不思議なアルバムだ。メタルに大きな影響を受けた作品とのことだが、アコースティック楽器のみからなるアンサンブルは肌理細かく洗練されていて、全体的な印象は欧州の仄暗いジャズやチェンバーロックに近い。しかし、各パートの動きや楽曲の構成に注目してみると、耳馴染みのよさとは対照的に奇妙な展開が多く、そこには確かにメタルならではの考え方も活かされていることがわかる。例えば、“Dot”終盤のミニマルな展開が、ECMとドゥームメタルを自然に融け合わせたようなサウンドになっていること。また、“Baroness”でハーフタイムを連発するリズムアレンジが、メタルコアのブレイクダウンにも通ずること。

こうした音楽性は、近年増えてきたメタル影響下のジャズと似た質感を持ちながらも、成り立ちの面では大きく異なっているように思う。ティグラン・ハマシアンやキャメロン・グレイヴスがメシュガーやジェントの系譜に大きな影響を受けているのに対し、西山瞳は伝統的なハードロック/ヘヴィメタルから出発し、それ以降のメタルの要素も新たに学び取り入れている。このような経路をたどって築き上げられた音楽は、世界的にみても稀ではないだろうか。60年代のマイルス・デイヴィスなどを楽しむ感覚で浸ることもできるが、内部構造は特異で、センスオブワンダーをもって聴き込むほどに面白みが増していく。

今回のインタビューでは、以上のような音楽性についての興味深い話をたくさん聞くことができた。この素晴らしいアルバムを理解するにあたっての手がかりになれば幸いだ。

西山瞳 『Dot』 MEANTONE(2023)

 

メタルのように全員でゆっくり紡いでいくエネルギー

――いただいたコンセプト資料、すごく興味深かったです。今日はそちらをふまえてお話を伺えればと思います。まず、今回のアルバムはメタルの影響が大きいとのことですが、具体的にはどういった類のメタルを意識されたのでしょうか。

「意識したのは、メタルの中の何かのジャンルというよりも、ストリームの作り方や質感のほうですね。ジャズだともう少し刹那的にことが進んでいって、結果として何かができるようなところがあるんですけど、それとは違って、潮が満ちていくような感じ、全員でゆっくり同じことを紡いでいくようなエネルギーを意識しました。

最近、メタルもそうなんですけど、自分の意識がバチッと変わるきっかけになったのが、やっとレディオヘッドが聴けるようになったことなんですよ。私はすごく映画好きなので、コロナ前まではわりと映画館に行ってたんですけど、好きな映画の好きな劇伴を担当していたのがジョニー・グリーンウッド(レディオヘッドのギタリスト)だったんですよね。それを知った上で、彼やレディオヘッドのアルバムを聴いたら、私が苦手だったのはトム・ヨーク成分だったんじゃないかと気付いたんです(笑)。それでジョニー・グリーンウッドを掘り下げて聴いていって。

それと並行して、最近のメタルコアバンド、コード・オレンジなどを聴くようになったら、わりと楽しめるようになったんですね。そして、それが90年代当時は自分が嫌いだったグランジみたいな音楽からちゃんと繋がってることもわかって。それでいろんなものが聴けるようになったところがあります。コーンとかすっごい嫌いだったんですけど(笑)、そういう当時は敵視してたものを全部聴きなおしていきました。

なので、今回のアルバムについて言うと、自分が昔から好きだったものよりは、そうでないものの質感、インダストリアルっぽいものなどに興味が湧いたのが大きかったかもしれないです」

――90年代当時はインダストリアルやグランジ系が大嫌いだったとのことですが、その理由はご自身で分析されていますか。

「なんかね、景気が悪いという感じがして(笑)。私自身がずっとピアノを真面目に練習してきたこともあって、テクニカルなものを聴いてわっと驚き楽しむようなところもあったから。(インダストリアルやグランジには)それがないな、なんでやねん!みたいな(笑)」

――〈景気が悪い〉というのは、HR/HM(ハードロック/ヘヴィメタル)とニューメタルなどを分かつものとして、とてもよく核心をついている表現だと思います。

「なんか、(サウンドが)疲れてそうだったんですよね(笑)。あと、グルーヴの質的にも、ルーズに聞こえていたのが当時は好きじゃなかったんでしょうね」

――はい。それで、今回のアルバムにはそういったエッセンスも入っているということでしょうか。

「そうですね。“Tidal”などではそういうルーズさを意識しました。それから、レディオヘッドを聴けるようになったこともあって、フォークソングみたいなものからの影響もあります。“Red and Yellow”とかがその例ですね」

 

ジャズのフォーマットにメタルの考え方を取り入れる

――メタルのサウンド的な部分、質感みたいなところは意識されましたか? 例えばドラムのチューニングなど。

「それはいつも通りでしたね。(影響を)活かそうとしたのは(サウンドよりも)考え方みたいなところで、私が良いと思った根本の部分を持ってこようとしたんです。やっぱり、ジャズをずっとやっていると人の真似をしたくなるんですよ。でも、それが血となり肉となっていないと嘘になってしまう。

NHORHM(ヘヴィメタルの楽曲をピアノトリオでカバーするプロジェクト)をやっていたときも活かしたいなとは思っていたんですが、その頃はまだ全然リンクしていなくて、それ以前にやっていたパララックスというバンド(ベーシストの坂崎拓也、ドラマーの清水勇博とのトリオ)の考え方をそのままメタルに持ってきていたんです。そこから時間をおくことで、どういう部分が大事かということを客観的に考えられるようになり、実践してみてもいいかなと思えるようになりました。

今回は、自分の(ジャズ的な)フォーマットにメタルの考え方を取り入れたかったから、音に関してはなるべくアコースティックで良い音を録るだけにしました。ただ、ドラムの則武(諒)くんが元々すごくメタルが好きな人なので、音がぶっといんですよ。彼の音に支えられているところはわりとありますね」

――いま伺ったところが、今回のアルバムの文脈的に興味深いところ、個性的なところだと思うんですね。近年は、ティグラン・ハマシアンのようにメタルに影響を受けたジャズ、メタル的な硬い輪郭をプロダクションに反映させている作品も増えてきたじゃないですか。そういったものに通ずる質感はありつつ、構造や成り立ちに関しては異なる仕上がりになっていると思います。例えば“Dot”について言うと、終盤のサウンドがECMとドゥームメタルの間みたいに感じられたりもする。

「そうですね。私自身もそう思っているようなところがあります」

――ちなみに、ドゥームメタル的なものって聴かれます?

「あんまり聴かないですね。なんか、しんどくなるから(笑)」

――まさに〈景気が悪い〉音楽ですからね。それでは、バロネスはどうですか? ドゥームというよりはストーナー寄りではありますが。

「確かにそういうところに繋がってますね。バロネスについては、いろんな切り口があるから」

――今回のアルバムにもまさに“Baroness”という曲がありますね。

「そう。結局バロネスにはならなかったですけど(笑)。バロネスは、『Gold & Grey』(2019年)はかなり聴きましたね。

あの人たち、いろんなことをしてるけど、わりと歌が一直線でしょう。歌が一直線で、その周りが広がっていく。そういう感じが好きで。自分でもそういうことができないかなと思ったことはあります。でも、自分(の楽器)はピアノなので、あまり一直線なメロディは弾けない。一直線というのは、周りと比べるとあまり動いてないということですね」

 

メジャーかマイナーか曖昧なメロディ

――それに関連して資料で興味深かったのが、〈はっきりしたメロディを作らない〉ということで。この〈はっきりした〉というのは、具体的にはどのようなことなのでしょうか。

「メロディがない曲というのが、今回のアルバムでいえば“Dot”や“Tidal”で。譜面はあって、そこに一応メロディは書いてあるんですけど、コードの積み重ねの上にただ乗っているだけみたいな感じになっています。“Red and Yellow”と“Lighthouse”、あと“The Rider”あたりははっきりしたメロディがあるのですが、それ以外は、メジャーなのかマイナーなのか決めないようなメロディにしているところが多いですね。

ハーモニーに関しても、メジャーとマイナー、どちらにもとれるものにしている。その時々に誰がどう弾くかはわからない、音の動きがぶつかるかもしれないけれども、それも含めてアンサンブルにしましょうということで。光の角度を変えたら印象が変わってしまうような感じです。

メロディについて具体的なことを言うなら、3rd(の音)はなるべく通らないようにしていますね」

――そういったコンセプトを事前に共有した上で演奏しているということでしょうか。

「いちおうコンセプトは言ってますね。ただ、今までもそうなんですけど、メンバーにはあまり指示しない、好きにやってもらって出てきたもので考えたいという感じです」

――“Tidal”などでは、各人のソロに入るタイミングがあまり分かりやすく示されていないのがとても興味深く思えます。変化のグラデーションが細やかで、〈ここからソロが始まります〉みたいな気配が読みにくく、出来事の立ち上がりと終わりとが自然につながり推移していく感じがあるというか。

「“Tidal”は特にそうしてますね。バトンゾーンって言ってるんですけど、前の人のソロの半分あたりから次の人が入ってきて、というふうにしている。そのゾーンをかなり広めに取っています。そういう意味でも曖昧にしたところはありますね」

 

(左から)橋爪亮督(テナーサックス/フルート)、鈴木孝紀(クラリネット)、maiko(バイオリン)

等身大で人間味のある、自然に近い木管の音

――ここからは、コンセプト資料に沿って1曲目から伺っていきますね。まず“Turtledove”についてですが、家の近所で毎朝鳴いているキジバトの声に個性を感じて曲のモチーフにしたということで。こういう話を聞くと、どうしてもメシアンの“鳥のカタログ”などを連想してしまうのですが、そういった先行作との違いみたいなことは意識されましたか。

「結構やっている人が多いネタではありますよね。先行事例があるのは重々承知なうえで、いつも聞いているキジバトの声がいつもとちょっと違うやん、別の個体なのかな、と思ったから書いただけではあります。

ライブのときは、1曲目は毎回インプロビゼーションをすることにしてるんですよ。それで、ゼロから始めるよりは何かお題があったほうがいいなと思って、毎回曲を書いてるんです。そのうちの1曲がこれで、個人的にも手応えがあったので録音ものとして残しました」

――そのキジバトの声って、録音して分析されたりしました?

「してないです。でも、これくらいの低いピッチだったと思います」

――“Dot”については、まず最初に〈ピアノのうしろに木管楽器をドローンとして使いたい〉というアイデアがあり、それを“The Rider”などで試みたあと、〈ではピアノの自分がドローンになってみたらどうか〉と思い立ち、連打でピアノが背景となるように音楽を作ったとのことですが。

「木管楽器にドローンを吹き続けてもらうのはやっぱりしんどいことだから、それじゃ自分でもやってみようかなと思って始めたことでした。

実際にやってみると、他の人たちが思ったよりも自由に弾いてくれているから自分は(変化しないように)我慢していてもいいんだな、というのが後からの発見ではありましたね」

――木管(本作ではクラリネット・テナーサックス・フルート)を用いたのは〈肉声に近い体温を感じる音にしたかった〉からとのことですが、金管はそうでないということでしょうか。

「今回の件では、そうです。金管(の音)はやっぱり人を鼓舞する力が強くて、等身大以上に作用してしまい、それが良いときもありますが、今回は、できるだけ等身大で人間味のあるものというか、自然の音に近いものを採用したかった。最初にあったイメージが、森の中で弾いている感じだったんですね。なので、サックスにしても、金属的な音を出す人は違うかなと思っていました。

木管編成にバイオリンを加えたのは、バイオリンにしか出せない艶っぽさみたいなのがあるから。擦る感じとか。

それから、フルートをメインに入れなかったのは、フルート奏者って、もともと装飾的な音を入れる楽器なので、プロだとかなり音数を詰め込んでしまう可能性があるんです。なので、専業の人に頼むのではなくて、夫(テナーサックス担当の橋爪亮督)にサブ楽器として吹いてもらいました」

 

管弦楽器で笙のようなドローンを鳴らす

――“The Rider”については、〈管弦は笙(雅楽の管楽器)のように使いたかった〉とのことで。

「笙の音はすごく良いドローンという印象があるので、その感じを出すにはやはり木管でなければダメだろうと考えていました。

“The Rider”はもともと全然別の曲だったんですけど、それを弾いてみたらうまくいかなかったので、コード進行を倍に、2拍ずつだったのを4拍ずつに伸ばして、メロディも付け替えてみたいなことをやっていたんですね。そのうちにスペースができてきて、笙みたいな(音の)ドローンが合うなとイメージできて。あくまでピアノトリオを軸として、その後ろにドローンが鳴っている、というのに切り替えて作っていきました。

同じ音でロングトーンを弾くというのが、ミュージシャン的には一番底力が出るところですよね。良いピッチで、良い音色で。しかも全然音色が違う3本(の楽器)でやっているので、うまく混じるわけがないんですけど、ライブをやっているとだんだんくっついてくるんですよ。それが面白いところでしたね。

この曲(の影響源は)はジョニー・グリーンウッドですね。彼の何が良いかというと、アメリカの原風景的なものが、土着のものというよりも洗練されたかたちで出てくるところですね。そういうのを良いと思うことは今まであまりなかったんですけどね」

――“To Return”では、ドミナントモーションで解決する機能和声の逆回しを試みたとのことですが、この〈逆回し〉について具体的に説明していただけますか。

「最初は思いつきで並べただけだったんですけど(笑)。普通だったらG7からCに行けばいいのをC7からG7に行く、みたいに逆回しにしていけば、前者ならドミナントの次はトニックにしかなり得ないのが、後者なら、次のものがトニックにもサブドミナントにもとりうる曖昧な流れになる。それで、曲の途中まではそうやって行って、だんだんドミナントモーションで戻っていって一巡するみたいな。ゲーム的にやっただけですね。

あと、ジョン・テイラーとかも好きだったので、そういう〈よくわからなさ〉みたいなのも反映されているかもしれません」

 

西嶋徹(ベース)

音色は交わらないけど雰囲気やトーンで乗りきる

――“Pigeons”も、最初に5拍子で出てくるテーマが掴みどころのない展開を経て3拍子に変奏されるなど、流麗なんだけど歪でもあるというか、奇妙な構成が魅力になっていると感じます。

「この曲に関してはあまりコンセプトはないですね。今までも、そういうのを何曲かに一曲くらいのペースで書いてます。

曲の中盤では、ベースがテーマを奏でるところのハーモニーなどで、“Dot”などにもある異物感みたいなもの、音色は交わらないけど雰囲気や全体のトーンで乗りきるということを試しています」

――ちなみに、これはなぜ鳩(pigeon)なのでしょうか。

「私はいつも曲名は最後に直感でつけるんですが、これはなんとなく鳩になりましたね。鳩、好きなんですよ。近寄ってみるとなんとなく気持ち悪いところや、何を考えているのかわからないところも(笑)」

――“Lighthouse”は、〈鼻歌のように音楽をしたい」〈作為的なところから離れたい〉とずっと思ってきたのが実際にできて満足しているとのことですが。

「そうですね。どうやって作ったかも覚えてないくらい。実際にそういう鼻歌みたいな音楽ができたなと思ったのも、ライブで演奏してからでしたね。自然に出てきたものって、だいたいどこかで聞いたことがあるものなので、これも多分そうなんですよ。でも、それはそれでいいかなって」

 

空間の空気量や水分量は考え方にまで影響する

――ちなみに、録音の際は何テイクも録られました?

「“Tidal”は2回くらいでしたね。“Dot”は1回だけ。曲によりますね。何回もやっても変わらないし、1回目が良いに決まってるから(笑)」

――録音する際は、音楽の空気感や温度感、湿度感みたいなことはどう意識されましたか。例えば、スウェーデンのジャズとアメリカのジャズってかなり空気感が異なると思うんですね。メタルで言うなら、スウェーデンのメロディックデスメタルとアメリカのメタルコアも、フレーズ構成など似ている部分も多いんだけど、曲全体としてみれば全然違う空気感がある。

「全然違いますよね」

――そういったサウンドの空気感みたいなことで、他の国の音楽を意識して制作されたようなところはありましたか。

「それはなかったですね。ただ、以前スウェーデンで録音したときに思ったんですけど、もともと生活しているスペースの広さって音の響きにすごく関係がありますよね。街中なのか、森が多いところなのかなど。そういう環境自体がスタジオのつくりにも反映されていると思います。それに絡めて言うと、個人的にはあんまり狭いところは嫌だなというのはありますね」

――本作の音にもそういう感じが反映されているように思います。室内楽的な音楽性なんだけど開放感もあるというか、雲がどんより立ち込めている下で平原がどこまでも広がっているような印象もあります。

「はい。やっぱり、物理的に振動させる空気の量だったり、そこに含まれている水分の量みたいなものって、考え方に影響しているんだろうなと思います。日本でやると音がわりと詰まっちゃうから。私が以前スウェーデンで録音したときも、ちゃんと向こうの音がしましたからね。いつもの自分の音でもあるのに。そういう経験を若いときにできたのはすごく良かったと思います。

あと、前からやっているトリオのドラマーの池長一美さんという方が、もともとアメリカで活動されていて、デンマークなどいろんなところにも行かれていて。池長さんと何回もレコーディングしているんですけど、音決めをするときにその時々のビジョンをすごくよく反映させていたんですね。こうしてほしい、ああしてほしいというのをよく聞いていたので。そういうこともあって、やっぱり空間の容積ってある程度は必要だなと思っています。エンジニアの側からしても、あらかじめそういうことを聞いておかなければ全然意識できないわけで。ビジョンを持っておくのはとても大事だなと思いました」

TAGO STUDIO TAKASAKI

――ミキシングやマスタリングの際に、どういった音にしたいかというイメージはありましたか。

「最初にやったライブ(2023年2月20日に東京・渋谷の公園通りクラシックスで開催された〈西山瞳トリオ+3 Special Live〉)の音源をエンジニアさんに聴いてもらって、どういう音にしたらいいかという話はしていました。ただ、リファレンスとして聴かせた音源はないですね。とりあえずは自分のピアノの音色を優先して、ちゃんとスペースがある音にしたいということで。その上で、スタジオ選びからやっていただいた感じですね」

――アルバム全体に独特の薫り高い空気感があって、それを味わいたいがために聴きたくなる作品でもあるのですが、これはミキシングやマスタリングで作り込んだというよりは、演奏の出音の段階で得られていた響きということでしょうか。

「そうですね。それが生命なので。録音した後にあまり加工したくないから、一人のエンジニアにお願いしているというのもあります」

――今回のスタジオ(TAGO STUDIO TAKASAKI)で録音したのはファツィオリが置いてあるからだと伺いましたが、なぜそのピアノを選ばれたのでしょうか。

「これはね、私の意地みたいなものですね。もともとエンリコ・ピエラヌンツィが好きというところから始まってるんですけど、私が好きなエンリコのアルバムは大抵がファツィオリなんですよ。だから、私の中では〈良い音=ファツィオリ〉みたいな図式ができてしまっている、それで育ってしまっているようなところがあるんですね。

あと、そのスタジオでファツィオリの調律を担当されている越智晃さんが本当に素晴らしくて。その方が調整したもので録音したいという思いがすごくありました」

 

則武諒(ドラムス)

ピアノの窮屈さとメタルギターの格好良さの間のジレンマ

――アルバム全体の背景についていうと、資料の最初には、〈機能和声に息苦しさを感じることが多々あり、ピアノ以外のジャズ楽器の自由さと曖昧さに憧れがあった〉とあります。このあいだ長谷川白紙さんのインタビューをしたときにもそれに通ずる話が出ました。ピアノという12平均律しか出せない大きな塊があって、それが真ん中に居座っていることには権威性みたいなものがある。

「そうですね。全部ピアノが決めちゃうことってありますから。それがすごく窮屈に感じられるから、自分がライブに行くときも、ピアノが入ってないライブに行くことが多かったりして。自分の楽器だから気になるということもあるけど、そうやって決まるのではないほうが楽しく聴けるというのもありますね」

――それで、そういった感覚を持つ自分自身がピアノを弾くわけですよね。

「そうなんですよ。不自由ですよ(笑)。それで、私はやっぱりメタルのギターが好きで、ズレたものの格好良さをわかっているからそれをやりたいなというのもあるんですけどね。ジレンマではありますね。

2年前に出した『コーリング』(2021年)というアルバムは、機能和声の曲ばかりで、それならではのアンサンブルを主眼にして作ったものでした。そういうところからの反動というのもありますね。やっぱり違うことをしたいというのはすごくあって。それで、メタルをさんざん聴いてきたこともあって、それを結びつけようかなと思ったのはあります。

それから、制作のときに、CDを作れるのはもうこれで最後じゃないかなという意識も強くあって。サブスクでは(制作費を)回収できないし、CDを買う人もどんどん減ってくから。大掛かりに録音するなら、もう好きなことやってしまおうという意識はありました」

――7月のライブ(7月11日に公園通りクラシックスで開催された〈西山瞳トリオ+3  Special Live〉)で聴かせていただいた曲のうち、今回のアルバムに収録されていないものもたくさんあったと思うのですが。

「そうそう。それは2枚目に入れます。あと1枚作ろうと思ってレコーディングしてきたので」

――もう1枚にまとめるとしたら、本作と雰囲気はだいぶ変わりますか?

「変わりますね! 今回は、自分の好きなわりと暗めのやつばっかり集めてるので、もう1枚のほうは明るめの曲が中心になると思います。

20曲くらい録ってきたんですけど、並べてみたら混在できなかったんですよね。なので、パキッと分けてしまったほうがアルバムとしては良いものになるんじゃないかなと思いました。

もう1枚も来年中には出したいですね。別に最後にしなくてもいいんですけど、最後でもいいというくらい惜しみなくやった感じですね」

 


RELEASE INFORMATION

西山瞳 『Dot』 MEANTONE(2023)

リリース日:2023年11月22日(水)
品番:MT-12
価格:3,190円(税込)

TRACKLIST
1. Turtledove タートルダブ
2. Dot ドット
3. The Rider ザ・ライダー
4. To Return トゥ・リターン
5. Tidal タイダル
6. Red and Yellow レッド・アンド・イエロー
7. Pigeons ピジョンズ
8. Baroness バロネス
9. Lighthouse ライトハウス
(全曲 西山瞳作曲)

■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano, compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet  (on 2, 3, 5, 6, 9) 
橋爪亮督 テナーサックス、フルート Ryosuke Hashizume tenor sax, flute (on 2, 3, 5, 6, 9)
maiko バイオリン maiko violin (on 2, 3, 5, 6, 9) 

2023年7月12-14日 群馬県高崎市 TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音
録音、ミックス、マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
FAZIOLI F278使用
ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
アートディレクション:平岡直樹(yuu)

 

LIVE INFORMATION
2023年12月15日(金)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演/終演:19:00/19:30/22:00(予定)
チャージ:3,500円(税込)

2024年3月22日(金)神奈川・横浜 DOLPHY

出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)/西嶋徹(ベース)/則武諒(ドラムス)

★詳細やその他のライブについては西山瞳のオフィシャルサイトへ

 


PROFILE: 西山 瞳
79年生まれ。2005年、横濱ジャズプロムナード・ジャズコンペティションにおいて自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデン録音のファーストアルバム『Cubium』をアミューズよりリリースしデビュー。2007年には日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズフェスティバルに招聘され、以降2作のスウェーデン録音作品をリリース。2008年発表のアルバム『Parallax』ではスイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、米インターナショナル・ソングライティング・コンペティションで15,000曲のエントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。2011年発表の『Music In You』はCDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』を発表。マーティ・フリードマン、キコ・ルーレイロやYOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て発売前よりヘヴィメタルとジャズの両面から話題になりジャンルを超えたベストセラーとなった。シリーズ続編3作も高崎晃やデーモン閣下(聖飢魔II)の推薦を得て、いずれも高評価と好セールスを記録。以降、文筆活動を通じてもジャズとヘヴィメタルを横断した活動を継続中。タワーレコードが運営するサイト〈Mikiki〉(当サイト)にて継続中の連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉は圧倒的人気を誇る。横濱ジャズプロムナードをはじめ全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。これまでに24作品のCDをリリースし、いずれもジャズチャートで上位にランクインを続け、文筆活動を通じてのメディアの活動も多い。高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存したオリジナル曲はジャンルを超えた独自の音楽を形成し幅広い音楽ファンから支持されている。

■主な出演履歴(リーダーとしての出演のみ)
横濱ジャズプロムナード、よこはまSummer Jazz、O-CATジャズフェスティバル、高槻ジャズストリート、甲府ジャズストリート、すみだストリートジャズフェスティバル、定禅寺ストリートジャズフェスティバル、千葉ベイサイドジャズ、銀座オータムジャズライブ、ストックホルム・ジャズ・フェスティバル(スウェーデン)、新宿文化センター大ホール、武蔵野スイングホール、横浜市栄区リリスホール、栗東芸術文化会館さきら、枚方市立総合芸術文化センター、堺市東文化会館文化ホール、代々木上原ムジカーザ、アクトシティ浜松音楽工房ホール、山武市文化会館、箱根ポーラ美術館、日本昭和音楽村江口夜詩記念館音楽ホール、須坂市文化会館、横浜テアトルフォンテホール、東リいたみホール、美浜生涯学習センターなびあす、宝塚ベガホール、八幡市文化センター小ホール、仙川アヴェニューホールNHKセッション2008・2016・2019、NHK横浜放送局サウンドクルーズ、NHK「ぐるっと関西プラス」、NHK BS1「エルムンド」、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」 等

PROFILE: 西嶋 徹
5歳よりバイオリンを始め、高校の時にベースを始める。ジャズ、アルゼンチンタンゴを軸に幅広い音楽性で様々なジャンルのアーティストをサポート。これまでにJazztronik、パブロ・シーグレル、綾戸智恵、ウィリアムス浩子、小野リサ、カルメン・マキ、木住野佳子、小松亮太、葉加瀬太郎、長谷川きよしなどのレコーディングやコンサートに参加。2018年、ソロアルバム『Phenomenology』をリリース。2019年より弦楽カルテットを主宰。2021年、藤本一馬(ギター)、栗林すみれ(ピアノ)、福盛進也(ドラムス)とのグループ・Remboatoでアルバム『星を漕ぐもの』リリース。

PROFILE: 則武 諒
名古屋出身。14歳の時にドラムに出会い、ヘヴィメタル、ハードロックなどから影響を受けるが次第にジャズや即興音楽に傾倒する。甲陽音楽学院、バークリー音楽大学(B.M. Summa Cum Laude)を経てニュージャージーのウィリアムパターソン大学にて音楽修士号(M.M.)を取得。帰国後は名古屋を中心に活動したのち、2014年頃に上京し活動の幅を広げる。間や質感を大切にした演奏を信条とし、様々なミュージシャンのライブ、レコーディングなどに参加している。

PROFILE: 鈴木孝紀
大阪音楽大学卒業後、クラシック奏者として室内楽やオーケストラなど様々なコンサートを経験。ジャズサキソフォン奏者である父と兄の影響を受けジャズに傾倒し、現在多数のアーティストのCDに参加するほか、CM等のTV音楽など様々なレコーディングワークも精力的に行う。自身のユニットである鈴木孝紀TRIOでアルバムを3作リリース。2017年、日本クラリネットフェスティバルにおいてソリストを務める。ウォームで芯のある音色とジャンルにとらわれない独自のスタイルで新たなクラリネット音楽を提案し展開している。

PROFILE: 橋爪亮督
岡山大学在学中、ボストン・バークリー音楽大学から奨学金を受け渡米。96年、同校ジャズ作曲科を卒業。2作のリーダー作をアメリカでリリースし、97年に帰国。2006年、国内初となるリーダー作『WORDLESS』をリリース。以降、現在は全曲オリジナルによる自身のグループを中心に新宿ピットインを始め首都圏ライブハウス等で活動中。2010年、2019年にNHK FMセッション2010、セッション2019に橋爪亮督グループで出演。

PROFILE: maiko
神戸市出身。京都市立芸術大学音楽学部卒業。ジャズバイオリニスト・寺井尚子に師事。2001年からの8年間で2,000回を超える圧倒的な数のライブパフォーマンスを行い独自のジャズスタイルを確立する。第19回浅草Jazzコンテストでベストプレイヤー賞、2001年横濱ジャズプロムナード・コンペティションで向井滋春賞を受賞。コンポーザーとしての才能も高く、歌心あふれるオリジナル曲は好評を博している。2015年より伴奏者のいない完全なソロバイオリンのライブにライフワークとして取り組んでいる。