©Michael McGlynn

アンビエントなコーラスが時空を超えた夢幻を誘う

 U2、エンヤ、チーフタンズ、リバーダンスなどをはじめとするアイルランドの音楽が、単発ではなく、継続的に多彩な形で世界で親しまれるようになったのは80年代以降のことで、初代のリバーダンスに参加していたアヌーナもその一翼をなすグループのひとつだ。

 彼らはマイケル・マクグリンの構想のもと、アイルランドの伝統的な音楽を参照したクラシック的なコーラスにジャズやポップの要素を加え、歌詞に古今の思潮や物語を反映させ、時間的にも空間的にも広がりのある音楽を作り出してきた。現在のメンバーにはヨーロッパ各地の出身者が含まれ、歌は多様な言語に対応している。

 たとえば新作『アザーワールド』の“ウィ・アー・ザ・チョーズン・ワンズ”はジャジーでポップな英語の歌。ゲール語の“セルキーの唄”やラテン語の“預言者たちの封印”には古楽的な部分があり、アイスランド語の“眠れ、我が若き愛よ”は古い伝統を感じさせる現代の讃美歌だ。彼らが参加した「ゼノブレイド2」の光田康典作曲のゲーム音楽も英語詞で4曲、他の曲と違和感がない形でアルバムの各所に散りばめられている。

 11月から12月にかけて行なわれるケルティック・クリスマス2024と題した日本ツアーでは、『アザーワールド』や『レヴェレーション』の曲など、これまでの日本公演では聞けなかった曲も披露する予定。

 アヌーナの音楽を聞いて、新しさと同時にある種の懐かしさを感じる人が多いという。それは日本ではアイルランドの旋律が唱歌への翻訳を通じて長年にわたって親しまれ、無意識の記憶として蓄積されてきたこととも、両国の神話や伝説の共通性とも無縁ではないだろう。

 その意味でも注目されるのが、東京のすみだトリフォニーホールの公演で上演される〈「雪女」の幻想〉だ。小泉八雲の怪談「雪女」の物語によるこの演目には、能楽師津村禮次郎、笙奏者の東野珠実、能の大鼓の柿原光博がゲスト参加する。

 アヌーナはイェーツ原作の現代能「鷹姫」で能との共同作業を体験ずみだが、そのときは能の大鼓や笛や謡の間をアヌーナのコーラスが包み込む編曲が目立っていた。

 マイケル・マクグリンは「鷹姫」での音楽の影響は、新作の“エアレンデル”や“セルキーの唄”につながると語っているが、今回の〈「雪女」の幻想〉ではどんなコーラスを聞かせてくれるのだろう。能では使われない雅楽の管楽器笙を加えた編成なので、「鷹姫」とは次元の異なる音楽空間が登場するのではないだろうか。それも楽しみのひとつだ。

 


LIVE INFORMATION
ケルティック・クリスマス 2024
アヌーナ来日公演

2024年11月22日(金)兵庫県立芸術文化センター
2024年11月23日(土)大阪・ザ・フェニックスホール
2024年11月24日(日)愛知・東海市芸術劇場
2024年11月26日(火)北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
2024年11月29日(金)静岡音楽館AOI
2024年11月30日(土)神奈川・青葉区民文化センター フィリアホール
2024年12月1日(日)埼玉・所沢市民文化センター ミューズ
2024年12月7日(土)東京・すみだトリフォニーホール(特別公演)
2024年12月8日(日)東京・三鷹市芸術文化センター
https://plankton.co.jp/xmas24/

ケルティック・クリスマス 2024
アヌーナ特別公演「雪女の幻想」~神秘のコーラスと能舞~

2024年12月7日(土)すみだトリフォニーホール 大ホール
開場/開演:16:45/17:30
出演:アヌーナ(コーラス)
ゲスト:津村禮次郎(能)/東野珠実(笙)/柿原光博(大鼓)
https://www.plankton.co.jp/xmas24/sumida.html