現在放送中のNHK朝ドラ「おむすび」の主題歌であり、日々視聴者の朝を彩っているB’zの新曲“イルミネーション”。ドラマの放送開始からしばらく経つが、ラウドなドラムと高らかに響くギターから幕を開ける同楽曲を耳にするたび、フレッシュな気持ちになる人も多いのでないだろうか。
B’zと朝ドラという新たな化学反応によって誕生した“イルミネーション”を、今回ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)に聴き込んでもらった。平成を舞台にしたドラマにB’zはどう寄り添ったのか。あまり大きくフィーチャーされることがない、B’zのある側面に注目した。 *Mikiki編集部
B’zのパブリックイメージを打破する朝ドラ主題歌
朝ドラにB’z――この組み合わせに驚いた方は多いかもしれない。今や日本を代表するロックバンドとなったギタリスト松本孝弘(Tak Matsumoto)とボーカリスト稲葉浩志による2人組ユニット。彼らの生み出すサウンドから広がるイメージとは、一般的にはアッパーなハードロックやヘヴィなギターサウンドなど、ロック色の強い作品を思い浮かべるリスナーが多いことだろう。
しかしながら、2024年9月よりスタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」の主題歌として書き下ろされた最新曲“イルミネーション”は、日常に寄り添った優しい音色を奏でるポップチューンへと仕上がった。主題歌へ起用された理由は、ドラマの時代設定がB’zが大躍進した時代=平成初期を舞台としていたからだという。
🎬#朝ドラおむすび オープニング映像を公開!
— 朝ドラ「おむすび」公式🍙放送中 (@asadora_bk_nhk) September 29, 2024
B'z(#Bz)が今作のために書き下ろした一曲「イルミネーション」に合わせて、#橋本環奈 さんが元気いっぱいに踊るオープニングです!
監督は #田向潤 さん。
振付は #TAKAHIRO さん。
イラスト担当は #サンレモ さんです。 pic.twitter.com/J9dcVkkUiI
平成生まれのヒロインが栄養士として、人の心と未来を結んでいく青春グラフィティである「おむすび」。朝ドラらしい、青春群像を描いたドラマに登場する主人公・米田結(橋本環奈)らの気持ちに寄り添うように歌われる、すっと心に染みわたる朝にふさわしい応援歌。タイトルの“イルミネーション”とは希望の光をあらわしており、生きていれば誰もがぶち当たるであろう、壁や試練を乗り越えていくために背中を押してくれる曲だ。
イントロから一聴してわかる松本のキャッチーなギターサウンド。稲葉による独特の譜割りから放たれる個性的な口語体の歌詞。〈ハイビーム〉などJ-POPの歌詞ではなかなか見ることのないカタカナ用語が登場する、きらめいた言葉遣い。思わず口ずさみたくなる中毒性の高いメロディ。間奏ではシンセサイザーによるブラスフレーズがネオンのように瞬き、中盤以降の間奏では、それまで優しく寄り添い続けていたギターのソロプレイが爆裂する。ラストは、アコースティックなパートを感傷的に挟むドラマティックな構成美が待っている。
稲葉によるオリジナリティに富んだ言葉遣いのリリックからは、結が持つ〈どんなときでも自分らしさを大切にするギャル魂〉とシンクロする点が多くあることにも気づかされた。
こうした世間が抱く一般的なB’zのイメージとは少し異なる“イルミネーション”について、もしかしたら彼らが朝ドラ=「おむすび」に合わせて特別にチューニングしてきた曲と思う人がいるかもしれない。
しかしながら“イルミネーション”以前にもB’zには、日常に寄り添ったポップソングが多数存在する。ポップスタイルへ突き進んだロマンティックな側面を表面化するには、朝ドラの主題歌はよきタイミングなのかもしれない。歴史あるレジェンダリーなアーティストにとってパブリックイメージの打破とは、乗り越えたい課題のひとつでもあるのだ。
“イルミネーション”にも通じるポップな面を打ち出した楽曲
そもそもB’zは1988年、日本を代表するポップスター的ポジションを目的として結成されたユニットだった。敢えてライブハウスで叩き上げていく手法を取らず、デビューライブはいきなりのホール公演となった日本青年館。松本が浜田麻里やTM NETWORKをはじめとした人気アーティストのサポートギタリストを務めていたこと、何よりギタースキルの高さと人柄のよさもあり、デビュー時から業界の垣根を越えてバックアップされてきた。デビュー直後は約半年に1枚のペースでアルバムをリリース。職人的にヒットを連発し、瞬く間にシーンの最前線へ躍り出た。
そんなB’zの歴史において、朝ドラの主題歌“イルミネーション”を読み解く上で欠かせない楽曲のひとつが、1991年リリースのアルバム『IN THE LIFE』に収録された“Wonderful Opportunity”だ。ミドルに跳ねるビートと〈シンパイナイ モンダイナイ ナイナイ/ ザッツライフ イッツオーライ〉という魔法めいた強いパンチラインが印象的な応援歌で、ファンの間でも人気なポップスタイル路線でのキラーチューンだ。
また、ヒットシングルとしても知られる“裸足の女神”(1993年)が解き放つキラキラ感も、もしかしたら”イルミネーション”のリファレンスになったのではないか、と妄想する。実際、ドラマの制作統括を務める宇佐川隆史のコメントによれば、平成が舞台である「おにぎり」の企画書を、平成を駆け抜けたB’zの曲を聴きながら作成していたという。
さらにもう1曲、1995年にリリースした“love me, I love you”も欠かせないだろう。全編で鳴りわたる寄り添うようなギターサウンド、煌めいたブラスによって青春期の輝きを哀愁をもって表現している。この展開は、”イルミネーション”にも通じる開放感とも言えよう。