ソニック・ユースやダイナソーJrを彷彿とさせるUSオルタナ譲りの爆音と胸に突き刺さる歌詞~歌唱で注目を集めてきたSACOYANS。もともとソロで活動していたヴォーカリスト/ギタリストのSACOYANが東京から福岡に移住し、現在のメンバーと出会って結成された4人組だ。着実に歩を進めてきた彼らだが、前作『Gasoline Rainbow』(2021年)のリリース後、SACOYANの産休でいったん活動休止することに。そしてその間、ドラマーのみわこが遠方へ引っ越した。

 「最初はみんな不安で、バンドが終わるものだと少し思ってました。でも、みわこさんから〈5曲くらいのEPを最後にサクッと作りませんか?〉って提案があったんです。それで、いざ制作を始めてみたら私も欲が出てきて、5曲録るのもアルバム1枚録るのも変わらないかって(笑)」(SACOYAN)。

SACOYANS 『SUN』 WAREHOUSE TRACKS(2024)

 そうして完成したのが、このたびリリースされた3作目『SUN』だ。ささくれ立ったサウンドはそのままに、演奏やアレンジの完成度が格段に上がっている。本作の制作時、すでにバンドは遠距離の状態だったが、それがむしろ音楽的進化にプラスの影響をもたらしたという。

 「いままでは毎週スタジオで音を合わせてたけど、それができなくなったことで逆に、勢いだけじゃなくて、じっくり考えたフレーズが多くなりました。意外とこれでもやれるなって」(Yamamoto Takeshi)。

 「一人で考えるなかであれもこれも試したいと発想が広がりました。結果、前2作よりもフィルが増えています」(みわこ)。

 “あれくさんでる”をはじめ、随所で聴けるSACOYANによる圧巻の1人多声コーラスも特徴だ。

 「コーラスは自宅で録音しました。思いつくままにひたすら声を重ねていったんです。エンヤみたいに、声だけで風を感じられたり音が見えたりするようなものをめざしたくて」(SACOYAN)。

 「コーラスだけで30トラックくらい使っているんじゃないかな」(Yamamoto)。

 また、過去2作はSACOYANのソロ時代の曲をバンドで再解釈したものが多かったが、『SUN』はまっさらな新曲が大半を占めているのも大きな変化のひとつ。

 「今回は1から自分たちで作ったイメージが強いですね」(Harajiri)。

 新曲のなかでも、愛くるしいギター・ポップ調の“変”や“HALLOWEEN”などからは、特に新鮮な印象を受ける。

 「ビッグ・スターとか元を辿ればビートルズですけど、そのへんのノリが私は欲しくて。ティーンエイジ・ファンクラブに憧れていますしね。もともと好きなラインなんだけど、今回はそういう曲をいっぱい書けた気がします」(SACOYAN)。

 SACOYANが「第5のメンバー、このアルバムがあるのは半分彼のおかげ」と絶賛するエンジニアのKensei Ogataの大きな助力もあり、こうして『SUN』は過去最高の充実度を誇るサウンドに仕上がった。それが、SACOYANが本作に込めた想いにいっそうの説得力を与えている。

 「1曲目の“サモトラケのニケ”は、バンド結成前のソロ時代に、いろんな事情で音楽活動を辞めてたときに書いた曲です。父を亡くしたのも書いたきっかけになりました。もっと歌いたい、世に出たいっていう欲求はあるのに、自分は何やってるんだろう?って」(SACOYAN)。

 そんな焦燥感が激しいファズ・ギターに乗ってヒリヒリと伝わる曲で『SUN』は鮮烈に幕を開ける。しかしアルバムの最後を飾る疾走感に満ちた“UV”にまで至ると、最終的にそうした葛藤を乗り越え、〈音楽が強くひかる〉と確かな自信と共に歌うSACOYANの姿があるのだ。

 「今回みんなの演奏を聴いて、自分たちはもっと行けると確信を持てました。私は音楽を辞めてた時期もあったけど、このバンドを結成したことでまた始められた。メンバーのみんなに助けてもらったんだと本当に思っているんです。だからこそ、こういうドラマティックな構成も嘘じゃないと思えるのかなって」(SACOYAN)。

 


SACOYANS
SACOYAN(ヴォーカル/ギター)、Yamamoto Takeshi(ギター)、Harajiri(ベース)、みわこ(ドラムス)から成るロック・バンド。東京で活動していたSACOYANが移住した福岡でメンバーと繋がり、2019年に結成された。2020年のファースト・アルバム『Yomosue』、2021年の2作目『Gasoline Rainbow』、2024年6月のライヴ会場限定カセット『The Goldheart Mountainpop』を経て、このたびサード・アルバム『SUN』(WAREHOUSE TRACKS)をリリースしたばかり。