正しくある必要はない、ネガティヴだっていい――内側でマグマのように沸き立つ感情にただ正直でいたい。剥き出しの魂をぶつけるニュー・ミニ・アルバムはなぜ生まれた?
群馬発の3人組ロック・バンド、Ivy to Fraudulent Gameが、4月に配信限定で発表した『行間にて_2024』に続いて、今年2枚目のミニ・アルバム『inside = RED』をリリース。本作では、グランジ/オルタナティヴ色の強いタイトな音像、鬼気迫る激情、退廃的でメランコリックな歌詞がフィーチャーされ、まだ見ぬ新たなIvyを感じさせてくれる。
「そう受け取ってもらえるのは、すごく嬉しいです。Ivyはこれまで〈青〉を歌うことが多かったんですよ。過去に“blue blue blue”という曲があったり、たびたびキーワードになったりしてたんですけど、今回はアグレッシヴに攻めたものを作りたかったし、真逆の〈赤〉を全面に出してもいいんじゃないかと思った。生きていると言葉にしづらい、アウトプットしづらいことってあるじゃないですか。そんな悩ましさを発散できるようなアルバムにしたくて」(寺口宣明、ヴォーカル/ギター)。
「ノブ(寺口)が最初に1曲目の“平常”を持ってきてくれて、今作の核になるイメージが描けました。昨年のアルバム『RE:BIRTH』では、日常に溶け込むサウンドを意識していたんですけど、その反動もあったかな」(福島由也、ドラムス)。
「アドレナリンが出るようなスリルを宿した、いい作品が出来たんじゃないかと思ってます」(カワイリョウタロウ、ベース)。
内面から湧き上がる感情を表現した『inside = RED』は、「ロック・アルバムにしたい。やりたいことをやる」(寺口)という意志のもと、制作が進んでいった。
「いままではキャッチーさを保持するために音作りで制限をかけることもあったんですけど、そういうのは全部取っ払いましたね」(カワイ)。
「狂った部分は誰もが持っていると思うんです。だから、おかしくなっちゃう日もあるし、昨日と考えが変わったっていい。それが〈平常〉だと歌いたかった。道理を守らなきゃすぐに怒られる時代ですけど、人間を尊く整備しすぎた結果、とても窮屈になってる気がして……ただの生き物なのに。もっとシンプルに生きられるんじゃないか、いい人ぶらなくて大丈夫だよ、という思いも込めてます」(寺口)。
「“平常”の世界観を強める感じで書いたのが、リード曲の“bug”ですね。自分の認識や思考がすべてだと錯覚したり、悲しむ必要のないところで悲しんだりする人間の焦燥を描きつつ、それは一種のバグかもしれないよっていう。内向的になる瞬間も捉え方次第で望みが持てるよという意味で、このタイトルにしました」(福島)。
“void”で〈嗚呼もうこのまま消えてしまえば楽なのにね〉と、“vent”で〈螺旋状の階段に疲れちゃった〉と憂うなど、序盤は危うい心情が窺える曲も並ぶ。
「“vent”は、僕の大好きなsyrup16gの影響が表れてるかな。去年、喉に結節ができてしまって、長らく正常に歌えなかった、がんじがらめな時期に作ったんです。この曲を書いたことが捌け口になったから、〈愚痴を吐く〉という意味も含めてますね」(寺口)。
肉体的なポスト・ロック感と無機質なエレクトロ感を掛け合わせた“(night)/light”、エモの風味が薫る“空洞。”など、幅広い音楽性がミックスされた点も聴きどころ。ラストの“hero”では、分厚い雲が晴れるような清々しいアレンジやヴォーカルが印象的だ。
「最後は気持ちよく開ける感じにしたかった。メンバー全員が30歳を超えたんですけど、丸くなることなく心が呼ばれるほうへ行き、ソリッドなアルバムを作れてよかったと思います。いまのライヴも観てほしいので、ツアーへ遊びに来てください!」(寺口)。
「こういう振り切ったアプローチがIvyらしいし、どこにでも行けるなと確信できたことは大きいです」(福島)。
「今作が出来たことで、さらに突き抜けてもいいんだなと思えました。これからバンドがどうなっていくのか、自分たちでも楽しみになってます」(カワイ)。
Ivy to Fraudulent Gameの作品。
左から、2023年作『RE:BIRTH』、2022年作『Singin' in the NOW』(共にfrom ovum/mini muff/murffin discs)、2021年作『再生する』(Ivy to Fraudulent Game)