コラム

映画「デビルズ・ノット」

鬼才アトム・エゴヤン監督が全米を揺るがせた殺人事件を映画化。森に消えた3人の少年達。本当の悪魔はどこにいるのか?

(C)2013 DEVILS KNOT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 

 1993年5月5日、アメリカのアーカンソー州ウェスト・メンフィスで、3人の子供達が自転車で遊びに出掛けたまま行方不明になった。翌日、“ロビンフッドの森”と呼ばれる緑地の小川で子供達の遺体が発見されるが、手首とかかとが靴ひもで結ばれ、激しい暴行を受けた傷跡が残っていた。その一ヶ月後、事件の容疑者として地元の3人のティーンエイジャー、ダミアン・エコールズ、ジェシー・ミスケリーJr.、ジェイソン・ボールドウィンが拘束され、全米が注目するなかで裁判が始まる……。後に“ウェスト・メンフィス3殺人事件”と名付けられた衝撃的な殺人事件を、『スウィート・ヒアアフター』『クロエ』のアトム・エゴヤン監督が映画化したのが『デビルズ・ノット』だ。映画の冒頭、少年達が柔らかな陽射しが差し込む森に消えていくシーンはイノセントな美しさを漂わせているが、物語は次第に悪夢めいた展開になり、少年達が森に呑み込まれたように、観客も“真実”という出口のない迷宮に迷い込んでいく。

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 事件の主犯格とされるダミアンはヘビメタ好きでオカルトにも興味があり、保守的な地元では異端児的な存在。警察側は悪魔崇拝による殺人事件としてダミアンと仲間達を犯人と決めつけるが、そんな警察側の捜査に違和感を覚えた調査員のロン・ラックス(コリン・ファース)は独自に事件を調べ始める。容疑を裏付ける物的証拠はまったくなく、自白と目撃情報だけが逮捕の理由だったが、自白をしたジェシーには知的障害があって警察側に誘導尋問された可能性が高い。さらに犯行を目撃したという少年の証言にもおかしな点があった。そして何より不可解なのは、事件が起こった夜、森の近くのレストランに血まみれの黒人男性が現れたことについて突っ込んだ捜査はされず、その男性が残した血液のサンプルを警察側は紛失していた。ずさんな捜査、悪魔狩りのような裁判、押し寄せるマスコミ。凶悪な事件に対する不安や憎しみが疫病のように人々に広がっていくなか、ラックスは外部の客観的な視線で事件を明らかにしていく。その一方で、被害者の母親という内部の視線で事件の経緯を見守るのがパム・ホッブス(リーザ・ウィザスプーン)だ。

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 パムは愛する息子、スティーヴィーを事件で失っていた。パムはスティーヴィーの継父、テリーに支えられて裁判を見守るが、次々と明らかになる警察側の失態に関わらず、ダミアン達に不利に進んで行く裁判に違和感を感じ始める。それと同時に、彼女の胸の内で人には打ち明けられない疑惑が膨らんでいく。正義を貫こうとするラックスと、悲しみのなかで真実を見出そうと苦悩するパム。二人が初めて言葉を交わすラストシーンでは、二人のオスカー俳優の息詰まる共演を通じて事件の異様な真相がほのめかされる。厳格さのなかに熱い情熱を感じさせるファースの演技もさることながら、かつてのブロンド美女のイメージをかなぐりすてて、レストランで働く低所得者の主婦を演じるウィザスプーンの熱演にも引き込まれる。

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 果たして容疑者の3人=ウェスト・メンフィス3は冤罪なのか? 現実の世界では、ダミアンがロック・ファンだったことから、パール・ジャムトム・ウェイツブラック・フラッグなど様々なミュージシャンや、ジョニー・デップピーター・ジャクソンなど映画関係者もダミアン達の支援を表明。事件は全米を揺るがず社会現象となっていくが、本作ではそこまでは描かず、あくまでウェスト・メンフィスという小さなコミュニティに舞台を限定して、事件が地元の人々に与えた影響を描き出していく。美しい映像と巧みな心理描写で観る者を不安にさせるエゴヤンのミステリアスなタッチは本作でも健在で、偏見やパニックで事実が作られていく恐ろしさは『スウィート・ヒアアフター』に通じるものがある。これまで“ウェスト・メンフィス3殺人事件”を題材にした作品では、『ロスト・パラダイス』3部作が有名だが、エゴヤンはフィクションという手法を選ぶことで、よりドラマティックに事件が抱える問題を浮かび上がらせた。

 そんななか、“悪魔の結び目”というタイトルは、少年達を拘束していた靴ひもをイメージさせる一方で、いまだに謎が絡まったまま、解きほぐされることがない事件のことともとれる。エゴヤンはその謎を解き明すというより、その謎を丹念に描きながら人の心の闇に迫っていく。“悪魔主義者”というイメージに取り憑かれた人々の心のなかに渦巻く恐怖から憎しみ。そこに宿る邪悪な何か。本当の悪魔はどこに潜んでいるのか? 淀んだ川を手探りで捜索していた警察官が少年達の無惨な死体を引き上げるシーンは悪夢のような恐ろしさだが、まるで悪の存在に手探りで触れるようなサスペンスフルで不気味な物語だ。

 

MOVIE INFORMATION

映画「デビルズ・ノット」

全米を震撼させ、社会現象を巻き起こした衝撃の実話。
アメリカ史上、まれにみる《未解決事件》の裏側に何があったのか?

◎11/14(金)、TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテ他、全国ロードショー!

監督:アトム・エゴヤン 脚本:ポール・ハリス・ボードマンスコット・デリクソン
原作:マラ・レヴェリット  音楽:マイケル・ダナ
出演:コリン・ファース/リース・ウィザースプーン/デイン・デハーンミレイユ・イーノスブルース・グリーンウッドアレッサンドロ・ニヴォラエイミー・ライアン/他
配給:キノフィルムズ (2013年 アメリカ 114分)PG12

WWW.DEVILSKNOT.JP

マラ・レヴェリット Devil's Knot: The True Story of the West Memphis Three Atria Books(2002)

 


intoxicate presents
特別試写会

映画「デビルズ・ノット」
特別試写会に40組80名様をご招待!

日時:2014/11/4(火) 18:30開場 19:00開映
会場:シネマート六本木 B1スクリーン2

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