左:ヤコブ・ブロ 右:ジョー・ロヴァーノ
©Aquapio Films Ltd/ECM Records

ポール・モチアンのコンセプトを受け継ぐ人々によるトリビュート作品

 ビル・エヴァンスやキース・ジャレットなど、ジャズ史における重要なアーティストと共演し、自身もオリジナル曲はもちろん、ブロードウェイ・ソングやビ・バップなどのユニークな解釈で知られたグループを率い、独自の地位を築いたドラマー、ポール・モチアン。その彼が最晩年に率いたグループのひとつのメンバーでもあったギタリストのヤコブ・ブロが、モチアンとはヤコブよりも付き合いの長かったサクソフォニストのジョー・ロヴァーノと共同で、モチアンに捧げたアルバム『Once Around The Room: A Tribute To Paul Motian』を発表した。アルバムはふたりの他、ラリー・グレナディアとアンデルス・クリステンセン、トーマス・モーガンのベーシスト3人と、ホルヘ・ロッシとジョーイ・バロンのドラマー2人を加えたセプテットによる録音で、全員が何らかの形でモチアンもしくはヤコブと関わってきた。ヤコブとジョーは2009年に共演しているが、アルバムで共演するのはこの新作が初めてである。

JAKOB BRO, JOE LOVANO 『Once Around The Room: A Tribute To Paul Motian』 ECM/ユニバーサル(2022)

 「ジョーとはずっと、いつか一緒に録音しようと話していた。去年がちょうどポールの没後10年で、ジョーと連絡を取り合っているうちに、彼に捧げるプロジェクトをやろうという話になったんだ。ポールは僕らをバンドに迎えることで名前を広めてくれた。だから僕らも、彼みたいにいろいろな世代のプレイヤーを集めて、その恩返しをしようと思ったわけ」

 収録曲はどれも、譜面に書かれた部分はあるものの、プレイヤーをアレンジで縛らず、音楽自体が自然に展開していくことを重視しており、各々のメンバーが自分の耳で聴いた音からイメージを膨らませていくことを大切にするという、ポールの姿勢が反映されている。奇しくも2021年のポールの命日にスタジオ入りした彼らが、たった2時間ほどでアルバム2枚分相当の演奏を収録したという事実も、彼らがポールの遺志を確実に受け継いでいることの証左だと言えるだろう。

 ポールのエレクトリック・ビバップ・バンドで活動したばかりでなく、自身の3枚のリーダー作にもポールを迎えているヤコブは、ポールについて、こう語っている。

 「ポールと一緒にやるようになった時、僕はまだ22、3歳だったから、彼はいろんな意味で僕にとっての出発点であり、師匠でもあった。彼みたいに信頼できて、努力する動機を与えてくれる人と若いうちに出会えたのは、とても幸せなことだったと思う」