魔法のような音楽を創り出す、カテゴライズ不能のギタリスト
ECM三大ギタリストといえば、ラルフ・タウナー、テリエ・リピダル、ジョー・アバークロンビーというのが定説だが、今、同レーベルのカラーに最もフィットするのはデンマーク出身のヤコブ・ブロではないだろうか。新作『Uma Elmo』はECMからの5枚目のリリース。以前から様々なエフェクターを駆使して、空間に溶け込むアトモスフェリックなプレイを得意としてきた彼だが、新作もその延長線上にある。時に電子音楽やアンビエントのようにも聴こえる音像は、スクエアなジャズ・ギタリストからは出てこないものだろう。
新作の参加メンバーはヤコブを含む3人。まず、ニルス・ペッター・モルヴェルらと共演してきたトランペッターのアルヴェ・ヘンリクセン。ノルウェー出身で尺八やフルートにも影響されたという彼のソロは幽玄そのものだ。そして、初期ブラッド・メルドー・グループのドラマーだったホルヘ・ロッシが、シンバルを多用したプレイで深い余韻をもたらす。
そんなヤコブの音楽には、北欧(特にノルウェイ)のエレクトロニカやアンビエントに近い質感がある。幻想的で透徹したサウンドスケープは美麗極まりなく、彼の地のオーロラが眼前に浮んでくるようだ。どこまでヴォリュームをあげても静謐さを失わないサウンドは、枯淡の境地に達しており、聴きこむほどに陶然とさせられる。
こうしたフィーリングを持つ音楽家のひとりに、2008年に逝去したトランペッターのトーマス・スタンコがいる。ヤコブがトーマスを敬愛していることは有名だが、新作では彼へのトリビュート曲“To Stanko”を収録。スタンコの音楽をヤコブ流に解釈したこの曲が、新作のハイライトではないだろうか。なお、アメリカのジャズ雑誌「ダウンビート」はヤコブを〈魔法のような音楽を創り出す、カテゴライズ不能のギタリスト〉として紹介している。どうしたらこんな音をこのタイミングで弾けるのか――確かにヤコブのプレイは生成の過程からして謎めいており、神秘的なヴェールを纏っている。