
アンビエントやポエトリーの余白
──“汽笛モノローグ”のアコースティックヒップホップ的なサウンドは、元々どんなイメージがあったんですか?
「自分の今までやってきたヒップホップ的な音楽と今後やっていきたいDIY的な手触りを考えた時に、アコースティックな音が欲しいなと思い、自然にそうなっていきました。
アルバム全体としては、坂本龍一さんやSKETCH SHOW、ライアン・ビーティやエデンなどエレクトロやR&Bの中にアンビエンスがあるようなものを好んで聴いていた影響が表れていると思います。
制作期間中よく聴いていたのがShinji Wakasaさんの『Dawn』というアルバムです。夜明け前の静けさがエレクトロやアンピエントで表現されてる作品で、それがアルバムを発表する前の自分の心情にぴったりだったんですよね。アルバムのステートメントが決まってからは好きな音楽を深掘りしていったんですが、その出会いをきっかけにサウンド面はアンビエント性が色濃く反映されたのかなと思いました」
――ポエトリーが多く導入されていますが、それは小沢健二や寺山修司の作品からの影響だったそうですね。
「小沢健ニさんは親の影響でよく聴いてました。あと、寺山修司は前衛的な音楽や詩を新しく探していく中で作品を見ることがあって。
自分はトラックにメロディーと音を乗せていく制作スタイルを取っているので、音と同化した情緒性を表現していくのは得意だと思っていて、その映像的な音楽を作っていることを突き詰めていったら、必然的にポエトリーをやるようになったというか。
小学生の頃からガラケーで映像を撮って、そこにありものの音を乗せて3分くらいのショートムービーを作ってたんですよね。そういうこととも結びついているとは思います」
――確かにokkaaaさんの音楽は、すごく映像的ですもんね。
「この間、ジョン・ケージの本を読んだのですが、そこに〈『音』との境界線が移動していくプロセスが重要だ〉と書いてあって、自分がやってることと近いのではないかなと思いました。
それは自分にとっては、演劇的なポエトリーに移行する瞬間に何か余白のある映像的なシーンが浮かび上がってくることというか。自分はそれぞれが解釈できる余地を音楽に持たせることが好きで、今回は特にそういう音像を作りたいと思って意図的に自分でトラックも作りましたし、結果的にアンビエンスがかなり出ているんじゃないかと思っています」
理解不可能な他者がテーマの“ホットワイン”と優しさの原体験を描く“ホットミルク”
――アルバム全体を通して社会と個の繋がりが描かれる中、連帯を望むようなリリックも印象的でした。
「自分の世代はよくZ世代と括られるんですが、インターネットネイティブとしての文脈を音源に残していこうという想いがあります。『Voyage』は使命感の方が強かったんですが、今回は使命感がありながらも自分のフィルターをしっかり通そうという意識が強く出ていると思います」
――中盤は特にokkaaaさんと特定の誰かの関係性を描いた個人的な曲が多く収められています。
「確かにそうですね。自分が書く曲は特定の誰かに宛てて書く手紙のような側面が強いんだなって改めて思いました」
――曲順は離れて収められていますが、“ホットワイン”と“ホットミルク”は対をなす曲だそうですね。
「そうですね。“ホットワイン”はめちゃめちゃ個人的な曲で、“ホットミルク”はもっと広く満遍なく愛について書いた曲です。先に“ホットワイン”を書いたのですが、深い感情をさらけ出して裸になった状態で見えるナルシシズムの先にあるピュアさみたいなものが面白いなと思いました。“ホットミルク”はJAさんのCMソングとして作った曲です。個人的な感覚を広げながら、もっと多くの人に共通する感情を歌にしてみようと思って作りました」
──“ホットワイン”では人と人は本質的にはわかり合えないことが描かれていて、“ホットミルク”では他者と何かを分け合う希望が描かれています。それぞれの曲を書いた時のokkaaaさんの心情が出ているのでしょうか?
「まさにそうですね。“ホットワイン”はコロナ禍中に作ったので、当時の鬱屈した雰囲気が反映されています。距離の感覚がどんどん変わっていったタイミングで他者の理解不可能性みたいなものをテーマに作ってみました。
“ホットミルク”は解放的になってきたタイミングで自分の心を揺り動かすもの、優しさの原体験みたいなものを書いた曲です。母親がミルクを温めて、自分を応援してくれてた記憶を音にしています。赤く黒いワインではなくて、もっと真っ白なもの、まっさらなものを作ってみました」
――“ホットワイン”と“ホットミルク”の間に“Bruises”と“愛のデタッチメント”が入っていて、その2曲に“ホットワイン”で描かれている分断の問題が含まれているという流れの曲順が良いなと思いました。
「一筋の希望みたいなものが見えてきたところで“ホットミルク”があったらいいかなと思って考えた流れですね」