[短期集中連載]B.I.J.Records.の世界(第3回)
新たな〈ビッグ・イン・ジャパン〉を産む異色のレーベル、B.I.J.の哲学に迫る!!

 東京を拠点に、〈新たなビッグ・イン・ジャパンを作る〉というビッグな野心を抱えるレーベル/エージェンシー、B.I.J.Records。CDやLPをリリースするほか、世界各国のアップカミングなバンドの来日公演をオーガナイズするなど、2018年より精力的に活動しています。そんなB.I.J.を特集してきた短期集中連載がこちら。この第3回では、新年1月にファースト・アルバム『Miserere Mei』を発表するスウェーデン出身の4人組、アイソレイテッド・ユースのインタヴューを掲載。10代での結成秘話から、プロデュースに迎えたファリス・バドワン(ホラーズ)との制作エピソードまで、たっぷり語ってくれました!


 

ISOLATED YOUTH
10代半ばで登場し、世界のゴス勢を熱狂させたスウェーデンのアンファン・テリブルな4人組がついにファースト・アルバムを完成!! 耽美で幽玄な音はどこから生まれた?

不安定で繊細な少年期の煌めき

 スウェーデン、ストックホルム出身のウィリアム・U.A.・マルドベルグ(ギター)と彼の弟であるアクセル(ヴォーカル)、もともと友人だったアンドレアス・ゲイデマルク(ドラムス)、エルマー・ハルズビー(ベース)から成る4人組、アイソレイティッド・ユース。〈ポスト・パンク〉の括りに入れられることが多い彼らだが、2019年にリリースされたファーストEP『Warfare』の時点から、そう形容される他のバンドとは少し印象が違っていた。その当時、注目を集めていたサウス・ロンドンのバンドが鳴らす硬質なサウンドとは異なり、このバンドはもっと退廃的で80年代のゴス・バンドのように艶のある音楽を奏でていたのだ。まっすぐに貫き通される美意識とスタイル、そこには不安定で繊細な少年期の輝きがあった。バンドを結成した当時のことを、ウィリアムはこう振り返る。

 「僕は仕事を辞めて、貯金のすべてをギターに使った。直感的に自分のなかで何かが閃いた気がしたんだ。子どものときから音楽を作ってきたけど、本格的に取り組み始めたのはそこからだと思う」(ウィリアム・U.A.・マルドベルグ:以下同)。

 そうしてウィリアムはバンドを組むために動きはじめた。周囲の人間をメンバーに誘い、親友のアンドレアスと、洒落っ気を込めて〈北欧の嵐〉と評するエルマーが加入。さらに彼の弟、アクセルがヴォーカルを務めることになった。『Warfare』がレコーディングされたとき、アクセルはまだ16歳だったという。

 「確かに弟は若かったけれど、音楽を共有して一緒に成長できたのは素晴らしい経験だったよ」。

ISOLATED YOUTH 『Miserere Mei』 B.I.J.Records.(2025)

 ファルセットを駆使して歌うアクセルの声は、繊細に歪むウィリアムのギターのうえで幽玄に漂い、耽美的ともいえるアイソレイティッド・ユースの音世界を特徴づけていた。そんなEPから5年余りが経ち、ついにファースト・アルバム『Miserere Mei』がリリースされる。現在、バンドはストックホルムからロンドンへと活動拠点を移動。ウィリアムから見た、2つの街の違いは?

 「ストックホルムは小さな街だから、音楽をやっている全員が知り合いという感じ。一方、ロンドンのシーンは多様性に富んでいて、刺激的だし、挑戦的な環境でもあると思う。それぞれにメリットとデメリットがあるけど、どちらもアイソレイテッド・ユースに大きな影響を与えてくれた場所なんだ」。

 ストックホルムとロンドン、2つの街で形作られた『Miserere Mei』にはどんな音が鳴っているのか。天を舞うようだったサウンドは、ザックリとしたギターの輪郭を伴って以前よりも重心が低くなった。しかしアイソレイティッド・ユースの魅力であった暗く繊細な世界観はこのアルバムでも保たれたままだ。薄くかかるシンセサイザーのヴェールにメロディアスなベース、それらが霞がかった景色を生み出し、心を急かすようにドラムが打たれる。アクセルの唄うメロディーは浮遊感というよりも地上から立ち昇っていく煙を思わせる。これまでのEPの延長線上でありつつ、質感が明らかに違う。ダークに揺れ動く雰囲気を醸しつつ、そこに肉体が実存するという印象だ。