[短期集中連載]B.I.J.Records.の世界(第1回)
新たな〈ビッグ・イン・ジャパン〉を産む東京発レーベル、B.I.J.を徹底特集!

 2018年の発足以降、USのスターベンダーズやデンマークのアイソレイテッド・ユース、UKのヴァントなど精力的に海外のインディー・バンドをフックアップし続ける東京拠点のレーベル/エージェンシー、B.I.J.Records.。カタログに並ぶニューカマーたちを〈ロック第六世代〉と称するB.IJ.は、CDやLPをリリースするのみならず、ライヴやプロモーションなども手厚くサポートし、アーティストたちからの信頼を深めていきました。B.I.J.というレーベル名に込められているのは〈新たなビッグ・イン・ジャパンを作りたい〉というビッグな野心。海外のトレンドを追いかけるのではなく、独自の美意識に基づいて活動するB.I.J.は、日本の洋楽カルチャーのなかで唯一無二の存在感を放っています。そんなB.I.J.の短期集中連載がこのたびbounceでスタート。今回は7月にリリースの6作品にフォーカスします!


 

JESUS JONES
いまだ輝きの衰えないデジタル・ロックの伝説が鳴らす、新たな出発点

 80年代後半の英国におけるアシッド・ハウスやテクノの台頭に対し、ロックでも踊ればいいのだというシンプルな答えに辿り着いたバンドは数知れず、マンチェスターではハッピー・マンデーズを筆頭にグルーヴィーで享楽的なサウンドを鳴らす一派が出現したことは、言うまでもない。他方のイングランド南部からはポップ・ウィル・イート・イットセルフやカーターUSMなどなど、よりハードでフューチャリスティックな志向の〈デジタル・ロック〉と総称されるバンドが続々結成される。その台風の目が、ほかならぬジーザス・ジョーンズだった。

 70年代末からバンド活動をしていたマイク・エドワーズ(ヴォーカル)とジェンことサイモン・マシューズ(ドラムス)を中心に徐々にメンバーが集まり、アラン・ダウティ(ベース)、バリー・Dことイアン・ベイカー(キーボード)、ジェリー・デ・ボルグ(ギター)を加えた5人で、ロンドンでスタートを切ったのが88年のこと。例にもれずアシッド・ハウスやヒップホップの洗礼を受けていた彼らは、サンプラーを駆使して、ラウドなバンド・アンサンブルとエレクトロニック・プロダクションのハイブリッドを模索し、翌年フードからシングル“Info Freako”でデビュー。ファースト・アルバム『Liquidizer』で、ヘッドバング×ダンスというコンセプトを恐らく史上初めて、幅広い訴求力を持つ形で提示した。

 続く2作目『Doubt』(91年)ではメイン・ソングライターでもあるマイクみずからプロダクションを主導し、ポップセンス溢れる曲を揃えて、見事全英No.1を獲得。“International Bright Young Thing”や“Real Real Real”といったヒットが生まれ、アメリカでも名曲“Right Here Right Now”が最高2位を記録しアルバムはプラチナ・セールスを達成するなど、大きな成功を収めた。その後、音質に磨きをかけてテクノへの傾倒を映した3作目『Perverse』(93年)を制作。同作は、全編デジタル録音された最初のアルバムとしても有名だ。

 こうして順調にキャリアを築き、果敢に新しいフロンティアを切り拓いた彼らだったが、時代は徐々にグランジ、次いでブリット・ポップへと移り、97年に4作目『Already』が届く頃にはデジタル・ロックそのものが失速。ジーザス・ジョーンズ然りで、ジェンの脱退を経て送り出した5作目『London』(2001年)では、ほぼ直球のギター・ロックに落ち着いていた感がある。

JESUS JONES 『Passages』 Jesus Jones/B.I.J.Records.(2018)

 それからは年に数回ライヴを行ない、EPや編集盤を時折発表する程度の活動を続行していた彼ら。ジェンの復帰がカタリストになったのか、久々のアルバムを2018年に発表した。それがこのたび日本盤でお目見する6作目『Passages』だ。トラップなどを取り入れグルーヴをアップデートしつつ、極めて即効性が高い曲を満載した原点回帰的な趣は、結成当初のように〈小さなクラブでライヴを行なっていたことから、初期の2作でのスタンスに立ち返った〉というメンバーの説明を聞くと、納得が行く。

 とはいえ本作でマイクが綴るのは、英国のEU離脱といった2010年代以降の不穏な社会情勢を背景に、〈時間の経過〉を主要テーマに掲げた、非常に内省的な言葉。ベルリンの壁崩壊に際して未来への希望を歌った“Right Here Right Now”とは対照的な、行き詰まった世の中を苦々しく描く“Where Are All The Dreams?”で幕を開けている点にも、隔世の感がある。

JESUS JONES 『Still Smiling At Japan』 B.I.J.Records.(2024)

 そんな一枚で再生を印象付けた彼らは改めてライヴ活動に精力的に取り組み、昨年11月に12年ぶりに来日。布袋寅泰の飛び入り参加も話題を集めたが、今年もデビュー35周年ツアーを行ないつつ、新作の録音を進めている。その方向性を予告するのが、昨秋登場した“Still Smiling”と“Blue Skies”の2つの新曲。これらにtokyo honey trap らによる“Still Smiling”のリミックスをカップリングした12インチ・アナログ盤『Still Smiling At Japan』も、『Passages』と同時に本邦リリースされる。グラム・ロックのパンチを効かせた、王道ジーザス・ジョーンズ節の前者と、ミッドテンポのニューウェイヴ・チューンに仕上げて新境地を拓く後者――バンドが新たな出発点と位置付ける2曲から察するに、次のアルバムは前作以上に意欲的な作品を期待できそうだ。 *新谷洋子

ジーザス・ジョーンズの過去作。
左から、89年作『Liquidizer』、91年作『Doubt』、93年作『Perverse』、97年作『Already』(すべてFood/Edsel)、2001年作『London』(Mi5/Edsel)