伝統と現代性の艶やかな共鳴
アルバムを作るうえで影響を受けた音楽について尋ねると、「ジョイ・ディヴィジョンにクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ、デペッシュ・モード、80年代に活躍したスウェーデンのバンド、コルテックス」という答えが返ってきた。なるほど、それには頷ける。アイソレイティッド・ユースの陶酔的な美しさは、それらのバンドを受け継いだものかもしれない。また、近い世代で意識しているバンドは?という問いには、「ブラック・カントリー・ニュー・ロードから影響を受けているよ。あとヤング・リーンのバンド、ドゥー・マルクの大ファンなんだ」という返答。もちろん、このアルバムのプロデュースを務めたファリス・バドワンが所属するバンド、ホラーズの名前も挙がった。
「間違いなく、ホラーズは僕たちに大きな影響を与えた」――今回のアルバムでバンドがめざした、暗く輝くサウンドを基盤にさらなるへヴィーさを求める方向性は、確かにホラーズに近い。それゆえファリスをプロデューサーに招いたのも当然の成り行きだったのだろう。「熱にうなされて見る夢のようだった」とウィリアムが表現するレコーディングは、ブレンダン・リンチが所有するスタジオとして有名なリンチモブで行われた。同スタジオは外に出ると廃品置き場があり、さらに裏は死体安置所というロケーション。ファリスいわく〈破壊的なバンドの衝動やゴシックな世界観にぴったりだと思った〉らしい。廃品置き場からパーカッションに使えるものを取ってきて、それを叩いた音を収録したり、本作のユニークな音作りに、その特性が活かされている。
ファリスのいう〈ゴシックな世界観〉とは、アルバム全体に漂っている空気にほかならない。耽美で幽玄、暗闇の中で何かが光る瞬間を追い求めるかのような音楽。その感覚はタイトルにも表れている。『Miserere Mei』――旧約聖書詩編51篇を元にした合唱曲で有名なこの言葉をタイトルに選んだのは、兄弟のバックグラウンドから来ている。
「実は僕らの祖父も曾祖父も牧師で、教会で流れていた音楽やクラシックからも影響も大きく受けてるんだ」。
「いまは教会に通ったりする熱心な信者ではないけど……」と付け加えたうえで、ウィリアムは子供の頃に触れたエストニアの作曲家、アルヴォ・ペルトの音楽に強く惹かれていたと明かす。
「もちろん子どもだったから、しっかりと意味を理解していたわけじゃないけど、アルヴォ・ペルトの作品にはどこか深く共鳴できたんだ。透明感の裏に暗さや哀しさがあるって感じで……」。
その息吹は本作にも宿っている。伝統的な要素と現代的な感覚の共鳴、ゴシックなテクスチャーとストレートなギター・サウンドを併せ持つ『Miserere Mei』は、どちらか一方ではないからこその魅力を放つ。硬質なポスト・パンクに艶を求めるならば、あるいはダークな雰囲気を持ったギター・ロックに惹かれるのならば、このアルバムは望んだ以上の体験を与えてくれるだろう。
ファリス・バドワンがプロデュースしたレッツ・イート・グランマの2018年作『I’m All Ears』(Transgressive)