©Diego Garcia

スペインの今のジャズの面白さを知らしめる好漢ピアニスト、その歩みと新作について語る。

 取材していて、気分が○。スペイン人ジャズ・ピアニストであるダニエル・ガルシアはフレンドリーな態度のもと、接する者にポジティヴに働きかける人物だった。

 「父はスペインの有名なドラマーであらゆるポップ・スターのもとで叩き、ジャズもやっていた。母はプロではないけど、美しいクラシックのギターの弾き手。そんな音楽的な家庭で僕は育った」

 様々な楽器があるなか、ピアノを弾き出したのは5、6歳の頃。その頃から、彼は即興でピアノを弾いていたという。9歳からクラシック・ピアノを学んでいるが、後にガルシアは米バークリー音大に編入した。「2010年だ。そこで教えていたダニーロ・ペレスは僕にとっての導師。君の演奏は人に伝えるべき価値を持つから、このまま進んでいきなさいと後押ししてくれた」

 同大を終えると本国に帰国した。そのまま米国に留まる選択肢はなかったのですかという問いには、「また戻ってくるつもりだった。でも、帰ったらスペインの音楽シーンがとても面白かった。こんなにマドリードが面白いなら戻る必要はないと思った」と答える。

 マドリードで出会ったのが、キューバから渡ってきたベース奏者のレイニエール・エルサルデ(El Negrón)とドラマーのマイケル・オリヴェラ。ガルシアは直近3作品を独アクトから出しているが、それらは二人を擁するトリオで録音した。なお、クインシー・ジョーンズの覚えもめでたかったキューバ人ピアニストのアルフレッド・ロドリゲスもこの二人を起用。そんな事実が示唆するように、ガルシアのピアノ表現は確かな現代ジャズ感覚を芯に置きつつ、魅力的なメロディ性やビート感覚を抱えている。

DANIEL GARCÍA TRIO 『Wonderland』 ACT Music/キングインターナショナル(2024)

 「ジャズ、クラシック、コンテンポラリー・ポップ、もちろんフラメンコもだけど、様々な要素を反映したものにしたかったし、それが自然なことだった」と、彼は新作『Wonderland』を説明。多様な要素を昇華させつつ、彼一流のピアノ・ミュージックとして聞かせる力を同作は抱える。

 「それこそは、僕の音楽の目的とするところ。僕のスタイルは模倣で成り立っていないし、僕の〈声〉を作らんとしてきた」

 一部華を持つヴォーカル曲も収めた『Wonderland』には、在NYのイスラエル人ギタリストであるギラッド・ヘクセルマンも一曲ゲスト入りしている。面識はなかったものの入って欲しいと思い連絡をしたところ、参加の快諾を受けたそう。その事実はガルシアの表現に生命感と個があることを指し示す。