
「サイモンのおかげでローザを知り、素晴らしいハンガリアン・アルバムに仕上がりました」
ロマン・シモヴィッチは1981年モンテネグロ(旧ユーゴスラヴィア)生まれ、2010年にサイモン・ラトルに才能を見出され、29歳でロンドン交響楽団(LSO)のコンサートマスターに就任した。オーケストラだけでなくソロ、室内楽などで多彩に活躍し、LSOレーベルからディスクも多数リリース。最新盤の『ローザ、バルトーク:ヴァイオリン協奏曲集』を中心に話を聞いた。

――名門オーケストラのリーダーとは思えない自由な働きぶりです。
「LSOとの契約は年2か月、残り10か月は完全な自由が保障されています。ソロや室内楽、私が最も愛する弾き振りなどの演奏活動、ロンドン王立音楽院教授としての教育活動は、もしオーケストラに100%拘束されていたら不可能です。私がコンマスに就いた時の音楽監督ゲルギエフと同じく後任のラトルとも良い関係が続き、パッパーノ時代の今に至ります」
――LSO弦楽アンサンブルの弾き振り以外にもソロ、協奏曲と幅広いレパートリーのディスクをオーケストラの自主レーベルから出す例は珍しい。
「LSOは世界5大楽団の一角に君臨、レコーディングビジネスも積極的に展開しています。そのレーベルが入団以前の2007年にセルビアで録音したパガニーニの“24の奇想曲”を含む私の録音を継続して発売してくれること自体が私の能力に対するLSOからのリスペクトの証、とてもうれしく思っています」
――最新盤はラトル指揮のローザ、ケヴィン・ジョイ・エドゥセイ指揮のバルトーク(第2番)というハンガリーの作曲家の協奏曲2つのカップリングです。
「サイモンがある日、〈ミクロス・ローザ(ロージャ・ミクローシュ=1907―1995)を知っているかい?〉と尋ね、〈映画『ベン・ハー』の音楽くらいしか聴いたことがありません〉と答えたら、ヴァイオリン協奏曲の存在を教えてくれました。聴いてみるとハンガリー風のテイスト、コルンゴルトに近い感触があって素晴らしい! 誰もがベートーヴェンやチャイコフスキーを録音する必要はないし、コロナ禍中で十分に勉強する時間もあったのでサイモンと演奏会にかけ、LSOライヴでの録音に組み入れたのです。カップリングはテレビ番組のため、たった数か月で準備したバルトークの2番。最初は躊躇しましたが、近代ハンガリー音楽の素敵なアルバムに仕上がったと自負します」